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闇の道を歩むとも ⑧

「以上が今回の作戦です。ご協力いただけませんでしょうかドラゴニア国王」

 

 モニターの向こうで妖精人種のドラゴニア国王が「うーむ」と唸っているのがみえる。妖精人種は爬虫人種や哺乳人種と違い、限りなく人間に近い姿をしている。違うのは背中に羽根があるか否かだ。

 その羽も別に身体から生えているわけではなく、体内に取り込んだエーテルを羽根の形にして放出しているとの事、ゆえに個体によって羽根の形が変わるそう。

 

「承知したリオ艦長、そなたの作戦にのっかかろう」

「感謝します!」

 

 威厳のある顎髭を撫でながらドラゴニア国王が首を縦に振った。年齢は一六〇歳を越えているらしい、少し話しただけだが、柔軟な思考で切り返す聡明な人物と感じられた。

 

「しかしよろしいのか? リオ艦長のたてた作戦では貴重なシャトルが沈む事になりますぞ」

「承知の上です、だからこそ迅速に行う必要があるのです」

「うむ、理解した」

「それと切り抜けた後ですが」

「君たちの保証人になるという話だったな、安心したまえ確約しよう」

「感謝します!」

 

 通信を終わる、といってもチャンネルはそのままでロイヤルメローの通信士と常に繋がっている状態を維持するだけだ。

 アチータが算出したクイーンとの接触予想時間は三時間後、時間に余裕は無い。

 続いて特殊保管庫へ通信をとばす。 

 

「副長、ドクター。心臓の用意はできたか?」

「あと少しお待ちください」

「活性化のマニュアルは出来ました」

「終わり次第格納庫へ!」

 

 今回の肝になるもの、それがこの心臓だ。ベクタークイーンの心臓の破片を活性化させればベクターを呼び寄せる事はわかっている、ならばそれを利用して心臓の破片を更に小さく削り取ったものをシャトルに積み込み、発進してから活性化させ、ベクターを呼び寄せる。

 そしてベクターとベクタークイーンがシャトルに釣られている間に離脱しようというのが今回の作戦だ。

 この作戦で重要なのは速度だ。速やかにシャトルを発進させてベクターをガリヴァーとロイヤルメローから引き離さなくてはならない。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 格納庫では今まさに慌ただしくシャトルの準備が始まっている。ただのシャトルではだめだ、このシャトルにはできるだけ長い距離を飛んでもらわないといけない、ゆえにヒデが急ピッチでシャトルの改修作業を行っているところだ。

 

「よしスクリーンシールドの強度を上げた、これでかなりもつ筈だ」

「さすがはヒデ殿、ドワーフ族というのはみんなこのような技術をもっているのですか?」

 

 手伝いにきたガラドがヒデの技術力を褒めたたえる、実際ヒデは知っている技術の延長とはいえ、ほとんど未知のガリヴァーを動かしてきたのだ。ドワーフ族全体はわからないがヒデそのものはかなり技術力が高い。

 

「ドワーフ族全員が全員技術あるわけじゃないけど、ドワーフの里に産まれた奴らは皆幼い頃から色々叩き込まれるからな、まあ大体のドワーフは凄いのが多いぜ。ワシなんか下の上ぐらいだ」

「ヒデ殿で下の上なら他のドワーフ族は素晴らしい技術しか持ちえていないのでは、これはアルファースとの交流が待たれますな」

「そいつは、やり遂げないと」

 

 シャトルの準備は整った、ベクタークイーンとの接触まであと二時間を切っている。そんな折り、心臓の入ったケースを持ってドクターが格納庫に来た。

 

「心臓持ってきました!」

「急いで積み込め!」

 

 急いで、けど慎重にケースをシャトル内に固定してからコックピットパネルへ有線で繋ぐ。無線でもいいが、より確実を期すためにこうする。

 全ての準備が終わった頃にはもう一時間をきろうとしていた。

 

「艦長! シャトルの準備はできた! 格納庫からも全員退避したぞ!」

「ナイスヒデさん! シャトルを発進させて!」

 

 格納庫のハッチからシャトルが発進する。

 シャトルは囮となるためにガリヴァーの進路とは全く違うコースをとんでいく。残り時間が十五分をきったところで心臓の活性化を行った。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

「食いついた!」

 

 ブリッジでレーダーを凝視していたところ、ベクターを表す赤い点が一斉にシャトルの方へ移動を開始したのが見えた。

 上手く引っかかってくれた事に安堵しつつ、粛々と退避準備を進める。まだ動くには早い。

 

「副長、ロイヤルメローへ打診、作戦の第一段階は成功、もう少し距離を稼いでから動くと」

「はい艦長」

「艦長、シャトルの映像はいる」

「正面のモニターにだしてくれ」

 

 シャトルに搭載されているカメラの映像が映し出された。そこに映るのはシャトルを追い掛けるおびただしい数のベクター、小型も大型も数え切れない程いる。

 だが目を引くのはそれだけではない、ベクターの軍勢の中にあって一際目立つ存在、全長十五キロメートルもある超大型ベクターのベクタークイーンだ。

 

「あれがベクタークイーン、資料で見ていても圧倒されるな」

 

 女王蜂のような姿をしたクイーンはゆっくりと(実際は亜音速に近い速度)でシャトルへ接近している。ふと、クイーンの下腹部から何かが飛び立つのが見えたのでアップにしてみると。

 

「これ、巣だ……クイーンの身体そのものがベクターの巣になっているんだ」

 

 だからこんなにも大きい。クイーンの下腹部が巣になっているのか身体全体が巣になっているのかはわからない、しかもみたところ増築もしているようだ、放っておけばいずれエーテル界を飲み込みかねない。

 かといって今は倒す術がない。

 観察するしかないのだが、突如ベクタークイーンが動きを止めて淡く発光を始めた。そしてベクタークイーンの手から円形の魔法陣が現れる。

 見間違えようがない、魔砲を使う気だ。

 

「まずい、今シャトルを破壊されたら作戦失敗だ。回避行動をいそいで!」

「いや、ダメだ艦長。向こうの方が早い」

 

 アチータが言ったそばから、ベクタークイーンの手から魔砲が発射される。それは折しも火炎魔砲フレアブラスターと同じものであった。ただしそのサイズは尋常ではなく直径二キロメートルもある。

 もはや太陽フレアと言っても差し控えない規模の炎の濁流が、大量のベクターを燃やし尽くしながらシャトルを飲み込んだ。

 

「シャトルの反応消失、作戦は失敗しました」

「くっ」

 

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