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35.エイル・ミズリア⑦

「少し歴史の話をしましょうか」


 私は語る。私の知る転生者と精霊の在り方、その原点について


「これは精霊の起源の話、精霊はとある一人の転生者によって産み出された生物なんです。そのお陰でこの世界の人類は魔法を使えるようになりました。精霊も当時は産んでくれた人間に感謝し、手を取り合って生きていました」


 物語はお伽話のような平和から始まる。

 ただしそれは最初だけ。


「でも時間が立つにつれ精霊は繁殖し、力を増していった。そしていつしか精霊達は不満に思うようになったのです。何故人間に従わなくてはならない? と。精霊はすでに人間の力を遥かに凌駕していました。そうして精霊達は反逆を決めた……手始めに産みの親である転生者を殺して」


 あくまでも伝承、当時の精霊が何を思って反逆に至ったのかは知らない。

 しかし事実だけで言えば、精霊と人間の対立は精霊から始めたモノだということは確かだ。


「私が居た世界にはシンギュラリティという言葉があります。意味は技術的特異点。発展しすぎた技術に産み出された人工物は人間を超越し、やがて人工物は人間を不要だと判断する。そんな未来を示唆する言葉です。私達の世界ではAIを危惧していましたが、この世界では精霊がそれに当たるのでしょうね。現に精霊は今も人間を滅ぼすために準備を進めてます」


 人間は作ってから後悔する。

 発展した技術で戦争が激化し、発展した技術そのものに反逆される未来を恐れる。

 その技術がこの世界は魔法だったというだけの話。どこの世界でもそれは変わらない。


「それに対抗すべく召喚されたのが私達転生者なんです。精霊を滅ぼすために強力な転生スキルなんてものまで渡して」

「そっか。エイルが精霊言語を読めたのは精霊だったからで……」

「そう、私の転生スキルは解読じゃありません。けれど私のスキルでは精霊に勝てず返り討ちにされました。精霊によるシンギュラリティを止めるためには精霊を倒す他ないのに」


 再び味わう使命を果たせぬ挫折、自分の非力を歯噛みする。

 しかし私は記憶を取り戻しただけではない。

 今の私ならではの思いつきもあった。


「そして今私はこう考えています。転生スキルが駄目なら、私にできるのは魔法陣を描くことだけ」


 あの頃の私にあったのは転生スキルだけ。

 何もないまま生き延びたって絶望しかなかっただろう。

 しかし今の私には新たな技術がある。


「私は……魔法で殺せない精霊を、殺す魔法陣を開発します」


 矛盾のような目標、しかし私は不可能だと思わない。

 精霊が魔法で死なないというシステムは不変、対して魔法陣は自由だから。言い替えればチートに対するただのデバッグだ。


 希望に溢れた仄暗い宣言。それを聞いたセラは心配そうな顔をしていた。


「エイル……」

「……すみません突然変な話しちゃって。独り言だと思って聞き流してください」


 長々と話したが、セラは長話を嫌う。

 今回もどうせ理解していないだろうと思いながら会話を切ろうとした。


「……やだ。聞き流さない」

「え?」

「そうやって一人で頑張ろうとするから、私はエイルの側を離れられないんだよ」

 

 セラはいつも側に居てくれた。

 それはビジネスパートナーとしてだと思っていた。

 もしも彼女の根底に今の言葉が秘められていたのだとすれば……。


 私は心に熱が灯るのを感じながら、感謝を述べる。


「セラ……ありがとうございます」

「……別に、お礼言われるようなことじゃないから」

「やだもーツンデレなんですからー」

「ツンデレってなに? 悪口?」

「可愛いって意味ですよ」

「悪口じゃん。傷ついた」

「可愛いが悪口……? えっと、傷つけたならごめんなさい?」

「やだ許さない。エイルなんか焼き殺されちゃえ」

「魔法で?」

「? うん。じゃないとホントに死んじゃうでしょ?」

「んもー。そういうとこが可愛いって言ってるんですよ」


 こんな茶番染みた会話で笑い合える関係。

 復讐、宿命、使命。そんな重い言葉に縛り付けられている私だが、それでも明るく生きていられるのはセラのおかげだと思う。


 この先も、使命を果たした後も、ずっとセラとこうして笑い合っていたい。

 それが私の細やかな希望、今の私にとっての幸せだ。







 街中の誰もが寝静まった深夜。

 寝息を立てるエイルを見て呟く。


「思い出しちゃったかぁ……じゃあ私も、そろそろ動かないとだ」


 内に秘められた思い。

 エイルには絶対に明かせない私の隠し事。


「……エイルは気づいてる? 前に語った夢と今日語った使命が矛盾してること」

 

 エイル・ミズリアは以前から『夢』について語っていた。

 彼女が語る夢は魔法陣技術者としての世界の発展。


 けど彼女は私と会うより前から一つの『使命』があると言った。

 彼女が語る使命は人類を滅ぼさんとする精霊を殺すこと。 

 殺すなんて粗野な言葉が彼女の口から出るのは珍しいけど、それは記憶を無くす以前のエイルが掲げていた『使命』だからだろう。

 この二つの矛盾、それは『使命』が果たされれば『夢』が叶うことはなくなってしまうから。


「精霊を殺せば微精霊を産みだす存在はいなくなって、魔法もいずれ使えなくなる。そうするとエイルが魔法技術で発展させた先の世界はどうなるのか、分かってるよね?」


 その2つの目的は相反するものだった。

 片や魔法で世界を発展させるという夢を持ち、片や魔法の根源たる精霊を殺すという使命に駆られている。

 エイル・ミズリアの本当の望みは果たしてどちらなのだろう。


「このことはまだ報告できないかな……『がんあるたういーて』」


 一通り考えがまとまった私はエイルに気づかれないように魔法を発動する。

 すると突如として目の前に長方形の光が現れる。

 それは遠い場所へ繋がるゲート。私はひるむことなく光をくぐる。


 その先に待っていたのは白を基調とした玉座の間。

 そこに座る人影に向き直り、玉座の前で膝をつく。


「ただいま帰還しました。大精霊ウリス様」

「お帰りなさい、愛しき娘セラ。顔を上げて?」


 声の主は玉座から見下ろすように指示する。

 顔を上げるとそこには美麗な女性が佇んでいた。


「はい、早速ですが報告があります。本日エイル・ミズリアは魔法による致命傷を受けたとのこと。それも精霊の力で治癒できたようですが」

「そう……あなたも彼女は精霊だと思う?」

「? おそらく間違いないかと」

「なるほどね……度しがたい」


 身がすくむような威圧、私はすぐさま謝罪する。


「っ! お気を害してしまったのなら申し訳ありません! 決してそのようなつもりでは……」


「ああ、違うの。私が怒っているのはあなたではなく……」

「エイル・ミズリアに……ですか?」

「ええ、あんなものが我々と同じ精霊を名乗るなんて私には看過できない。私、心が狭いのかしら?」

「滅相もありません」

「ならいいけど……人間だった彼女は確かに死んだ。なのに気づけば精霊として蘇っていた。その原因も未だ不明……あんなものが同族だなんて思いたくもない。同じ霊でもあれは死した亡者の霊、怨霊よ」


 饒舌に怒りを語る大精霊。続けて諭すように優しく言う。


「あんな半端者を許せる精霊がいるはずないわ。だから……分かるわね? セラ」

「……はいウリス様。私は使命を果たすために……エイル・ミズリアを殺します」

「いい子ね。あなたはまだ落ちこぼれの精霊セラ。けれど使命を全うすれば、今度こそあなたを大精霊セラフィウスとして迎えられる。さあ、お行きなさい」


 言われるままに立ち去り、ゲートでエイルと住んでいる宿に戻る。

 エイル・ミズリアが精霊として蘇った原因の調査、それが私の使命。

 下手に殺してまた甦っても厄介だから時間をかけてでも確実に殺せ、ということらしい。


 けれどどこで情報が漏れたのか、エイルを殺せば大精霊になれるという間違った噂が広まっている。

 実際に十五の月夜には、私の使命を横取りしようという半端者の精霊が現れている。


 私はエイルが復讐しようとしていることを報告するつもりはない。

 そんなことを言えば大精霊達は激昂してエイルを再度殺し、私の使命は有耶無耶になるだろうから。


「私が側にいる限りエイルは誰にも殺させない。けどエイルもまた私の使命の礎……あなたの使命が果たされることは、ない」


 少女は一人、野望を胸に秘める。






 無生物(じんこうちのう)であり、生物(にんげん)であり、神秘(せいれい)でもある概念的存在(まほうじんぎし)エイル・ミズリア。

 その使命は魔法で殺せない精霊を滅ぼすための魔法陣研究。


 エイルに身分を隠しながらも魔法陣研究に協力している落ちこぼれの精霊セラ。

 その使命は精霊エイル・ミズリアが再び蘇らぬよう確実に殺すための調査。


 これは相反する使命を持つ二人の少女の物語。


これにて序章完結です。

ここまで読了いただいた読者様、本当にありがとうございました!!!


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