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オトナになった花子さん  作者: じょーくら
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第1話( (トイレの花子さん)-終

橋の中央付近に無数の黒い塊が蠢いていた。

((人影…じゃないよな…))

黒い塊が橋の下から次々と集まって1つの大きな塊となっていく。

塊が大きくなるにつれて常夜灯の光に照らされ, その姿が露わになった。

「…でけぇな」

太郎の口を介して花子さんがつぶやく。

その姿はおぞましかった。

上半身は軽ワゴン車の屋根にしがみついていた女だが,

下半身は蜘蛛の様であった。

いや, 蜘蛛の様に見える下半身は腹, 脚それぞれがヒトの集合体であった。

それは老若男女さまざまで, まるで浮世絵の"寄せ絵"のようだ。

((このヒト達は…?))

「みんな, あの女に引き込まれた犠牲者だ。おまえのお友達もこうなる運命だったぞ。」

最初に間合いを詰めたのは"花子さん"だった。

すかさず蜘蛛女が"花子さん"目がけて手を振り下ろす。

「遅い」

蜘蛛女の攻撃をかわすと, 下半身の脚にバットを命中させた。

『痛ッ…痛いよぉ…』

脚の1本を形成していたヒト達がうめき声を上げ,

何人かが蜘蛛女の体からころげ落ちた。

「意外ともろいな」

((身体を構成しているヒトは犠牲者なんだろ…))

「いいか, "痛み”は生きている奴の特権だ。死んだら痛みを感じなくなる。」

((でも…))

「痛みを感じているように見えるのは, 生前の感覚を思い出しているだけだ」

そう言いながら"花子さん"はもう1本の脚を崩しにかかる。

バットを脚に振り落とした瞬間,

脚を構成しているヒトがバットを掴んだ。

「こいつッ…! 離しやがれ!」

バットを掴んだ手は, そのまま"花子さん"を振り払った。

"花子さん"は蜘蛛女の後方に吹っ飛ばされた。

バットは蜘蛛女の下半身に取り込まれてしまった。

「私の"エクスカリバー"が!」

((ただの金属バットだろッ!何が"エクスカリバー"だよ))

「あれは特別なんだよ…, 回収すっぞ!!」

((おまえ…まさかッ))

"花子さん"は蜘蛛女の後方から下半身に向かってダイブした。

"花子さん"は一瞬にして蜘蛛女の身体に取り込まれた。

蜘蛛女の下半身は, まるで満員電車のようにヒトが密集している

ーが,暑苦しくはなく, むしろすごく冷たかった。

「どこにいった…,私の"エクスカリバー"」

手探りで探すが, 指先に触れるのはヒト, ヒト, ヒト…。

しかもそれぞれに掴まれて思うように身動きがとれない。

((いったん離れよう…このままじゃ…))

太郎の意識は負の感情に呑まれつつあった。

苦しい, 悲しい, 寂しい…, 犠牲者たちの感情が滝のように流れ込んでくる。

「気をしっかり持て…! おまえまで呑まれたら…」

そのとき, 指先に固いものが触れたー。

『グェッ!!』

蜘蛛女が鈍い声を発した。

次の瞬間, 蜘蛛女の下半身が吹っ飛んだ。

蜘蛛女の下半身だったヒトたちが橋の上や下にボタボタと落ちていく。

バランスを崩した上半身は橋の上にうつ伏せになるかたちで倒れた。

「これでラストだ…」

"花子さん"は蜘蛛女の頭目がけて飛んだ。その手には"エクスカリバー"が握られている。

蜘蛛女は逃れようとするが, 下半身が吹っ飛ばされており, その場から動けない。

「往生せぇええええッ!!!」

蜘蛛女の眉間に"エクスカリバー"がヒットした。

『ア”ア”ア”アァァァァッ!!』

蜘蛛女は断末魔をあげると, 下半身と同様に上半身が吹っ飛んだ。

その勢いで"花子さん"は橋の外へと投げ出された。

「あ」

"花子さん"は橋の下に落ちる刹那, 欄干を掴んでいた。

それは花子さんではなく, 太郎の意思で身体が動いた瞬間だった。

「…やるじゃねぇか」

((”廃車”にされたら, 困るんでな))

欄干をよじ登ると,橋の上には無数のヒトがいた。

その身体が光につつまれながら消えていく。

「見ろ…, 縛り付けるものがなくなったから昇天していくぞ」

真ん中に, 白いワンピースを着た女が泣きじゃくっていた。

その姿には, 太郎が最初に感じた邪気はもうなかった。

"花子さん"は, 女に近づいていく。

((おまえ, これ以上は…))

そんな太郎の呼びかけに, 花子さんは黙っていた。

『寂しかった…, 彼は約束の時間に来てくれなかった, だから私…』

白いワンピースの女が泣きながらつぶやく。

「"死ぬほど"誰かを愛せるってのは素晴らしいことだ。だけど, その前に自分を愛せないとな…」

"花子さん"は, やさしくその頭に手をのせた。

白いワンピースの女の身体が光に包まれる。

『あり…が…とう』

女の身体が少しずつ消えていった。


(第1話 終)








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