第7話 (迷い猫)-4
「水晶玉…?」
松本医師が取り出した物を見て太郎が言った。
大きさがピンポン玉サイズの"それ”は水晶玉のように見えるが
その内側には雲のような模様が蠢いていた。
「半分正解で半分間違いだ」
松本医師が太郎を見つめながら言った。
「勿体ぶらずにさっさと言え」
九堂が言った。
「勿体ぶってるのは君の方ではないのかね?死神ならば一目で分かるはずだ。」
「もしかして…,人の魂?」
太郎が言った。
「ご明察の通りだ。」
松本医師が指を鳴らした。
「それも一つや二つではない。この水晶には何十もの人間の魂が封じ込めてある。」
松本医師が続けた。
「そんな数の魂をどうやって…?」
橘が言った。
「この私が何故,大病院の医師に憑依しているか,頭のいい記者さんなら分かるはずだ」
「まさか,入院患者に手をかけているのか…!?」
橘が狼狽えた。
「それは違う。わざわざそんな事しなくとも一定数の魂が自ずと手に入る。」
病院という特性上,どうしても救えない命が存在する。
「見たまえ,この水晶を。少し濁っているだろう?生前の行い次第で濁ったり透明だったり色が変わるんだ。」
松本医師はまるでおもちゃを見る子供のように水晶を眺めている。
「貴様!人の魂を何だと思っている!」
九堂が怒鳴った。
「さて,ここからが本題だ」
松本医師がまた指を鳴らした。
「この水晶玉は特製でね。所謂,時限爆弾になっている。」
一同が静まり返った。
「”奴"がこいつを喰らった後,起爆スイッチが作動する」
松本医師が続ける。
「そんなもので,強力な牧場主とやらを倒せるのか…?」
太郎が言った。
「いいか諸君。魂というものは,この世における核燃料みたいなものだ。」
「核だって…!?」
「一度爆発すると連鎖的に反応が続き,最後には悪魔自身の魂にも引火する」
「内側から滅ぼすっていう算段か…」
橘が呟いた。
「その通り!大量の魂を取り込んだ強力な悪魔を滅ぼすには最適な手段だと思わないかね?」
松本医師が大袈裟に天を仰ぐポーズをした。
「ちょっと待てよ!花子さんの魂もその爆発に巻き込まれるだろ?」
太郎が言った。
「人の話をちゃんと聞きたまえ。"時限爆弾"だと言っただろう。」
「爆発までの猶予期間に,四谷花子の魂を救い出すってことか」
橘が言った。
「そうだ。爆発までに彼女の魂を悪魔の腹から引き摺り出せば良いだけのこと。」
「そう簡単にできるのか?相手はお前より遥かに強力な悪魔なのだろう?」
九堂が言った。
「"その方法”については後で教える。まずは概要から説明しないと諸君らにはわからんだろう。」
「そもそも,何十もの魂を犠牲にするなんて馬鹿げている!」
「私は君を試しているのだよ,死神くん。目の前の大勢の魂を救うのか,それとも大勢を犠牲にして初恋の相手を救うのか。」
松本医師がニタァと笑った。
九堂が推し黙る。
「え…。おまえ,花子さんのコト…?」
太郎が九堂の方を見る。
「うるさい!そんな訳─」
普段,色白の九堂の顔が真っ赤になっている。
「こいつ,わかりやす…!」
太郎が呟いた。
「そ…それに,牧場主がそのおかしなピンポン玉を口にするとは到底思えない!」
「我々は,牧場主に"所場代"として定期的に魂を納める契約になっている。この水晶玉はそのときに用いられるものだから問題はない。」
「百歩譲って,お前が直接手出しできない状況で,どうやって牧場主にそれを喰わせるんだ?」
「質問の多い死神だな。まずはやるのかやらないのか返事を聞こう」
しばし沈黙が流れる。
「異論がないようだから"Yes"と捉えて良いようだな!死神!」
松本医師が勝ち誇ったかのように言った。
「…何かプランがあるのか?」
太郎が言った。
「勿論。君たちには私の言う通りに動いてもらう。それに役者も追加で用意してもらうぞ。」
(続く)




