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オトナになった花子さん  作者: じょーくら
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第7話 (迷い猫)-3

「そこの記者,橘透(たちばなとおる)は初めましてだな。田宮太郎(たみやたろう)は『お久しぶり』になるかな。」

松本医師は,面会者の書類を見ながら言った。

「質問に答えろよ!九堂が視えてる時点で只者じゃない。それに…,先生とは初対面だ。」

太郎が狼狽えながら言った。

その様子を見て,松本医師がニタァと笑った。

「そうだな,この肉体で会うのは確かに初対面だな」

「ど,どういう意味だ?」

「以前,"天道進(てんどうすすむ)"としてご挨拶した者だ」

その名を聞いた途端,太郎の血の気が引いた。

天道進は"永遠の方舟"という宗教団体の教祖であり,その正体は─

「あの時の悪魔か…!」

「ようやく思い出してくれたようだね」

「悪魔って何だ?先生が何で悪魔なんだ?」

橘には,太郎と松本医師の会話が全く理解できない様子だった。

「この男の正体は悪魔で,以前は宗教団体の教祖に取り憑いていたんです」

太郎が橘に答えた。

「悪魔…,そんなものが本当にいるのか!?」

「"トイレの花子さん"が実在するのだから,今更驚かなくても…」

太郎が至極冷静に言った。

「…で,悪魔が何の用だ?」

九堂が構えた。

「まぁまぁ,そんなに熱くならずに。今日は君たちの味方として来たんだ。」

「お前の言っている意味がわからない」

太郎が言った。

「では,こちらから質問しよう」

松本医師は腕組みをしながら言った。

「君たちは,そこにいる四谷花子の霊糸を確認しに来たのではないのかね?」

太郎が黙って頷いた。

「…ふむ。では,その糸を辿れば彼女の魂に行き着くとでも?」

「そうだ!お前には関係のないことだろ!」

「ジーザス!」

松本医師は大袈裟に両手を挙げた。

動作は天道進のそれと変わらない。

「悪魔がその名を口に出すなんて滑稽だな」

九堂が皮肉った。

「いや,滑稽なのは君たちだよ」

松本医師は小馬鹿にした様子で九堂を見た。

「何だと!?」

「その糸の先に待っているのは"死”だ」

「それはどういう意味だ?」

今度は太郎が松本医師に食って掛かった。

「おっと失礼。死んでいる奴には"消滅"という表現が正しかったかな?」

「もったいぶらずにさっさと言え!」

九堂は大分苛立っているようだ。

「では,結論から言おう。四谷花子の魂は今,悪魔の腹の中だ。」

「何だって!?」

太郎が叫んだ。

「当然ながら,彼女を喰らったのは私ではない。もっと強力な存在だ。」

「四谷花子の魂が,悪魔に食べられたっていうのか?」

橘が太郎と松本医師の会話に割って入った。

「記者さんには理解しずらいだろうが,今説明した通りだ。」

「花子さんが悪魔に食べられたとして,何でお前が出てくるんだ?」

太郎が言った。

「この私が救いの手を差し伸べようとしているのが気に食わないのかね」

「…見返りは何だ?」

「思ったよりお利口さんだ。単刀直入に言うと,君たちの手でその悪魔を倒して欲しい。」

「何で悪魔が悪魔を?仲間…じゃないのか?」

ここで松本医師は大きく溜息をついた。

「前にも言ったが我々に仲間意識なんて存在しない」

「そもそも自分でやればいいだろ。めちゃくちゃ強いんだし…。」

以前教会で対峙したとき,太郎の身体を借りた花子さんが全く歯が立たなかった。

「他に手がないから,人間ごときにこの私が頭を下げているんだろ」

「言葉と態度に誠意が感じられないな」

九堂が言った。

次の瞬間,松本医師が拳を振り上げた。

九堂が構える。

しかし,その拳は上げられたままで振り下ろす気配はない。

「これを見ろ」

松本医師が白衣の裾をまくった。

楔形の紋章のようなものがその腕に刻み込まれていた。

「刺青か?」

橘が言った。

「これは"血の契約"だ。そこの坊主は前に私の集会で聞いたことがあるはずだ。」

確かに,彼が悪魔をこの世に召喚させる際にその言葉を聞いたような…。

「…てことは,お前も誰かに召喚されたのか?」

松本医師が大きく頷いた。

「そいつは自らを"牧場主"と名乗った。君たちに倒してもらいたい相手は"牧場主"だ。」

「契約のせいでお前は直接手が出せないのか?」

太郎が言った。

「"乙は甲に対していかなる場合においても危害を加えてはならない。これに反した場合,乙はすみやかに消滅する。”」

松本医師が言った。

一同が沈黙する。

「悪魔は裏切る。だから悪魔は己の魂を賭けて契約をする。」

「勝手にほざいてろ。お前の手を借りるつもりは毛頭ない。」

九堂が病室を後にしようとする。

「いいのか?牧場主には手強いボディーガードもいるんだぞ?」

「…なぁ九堂,話だけでも聞いてみないか?」

太郎が言った。

「そこの坊主の方がよほど賢いな」

松本医師がニタァと笑った。

「勘違いするなよ。あくまで花子さんの魂を救うためだ。」

「そこまで言うからには何か策があるのか?」

橘が言った。

「君たちには"釣り"をしてもらう」

そう言うと松本医師は懐から何かを取り出した。

「餌はこれだ」


(続く)
















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