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オトナになった花子さん  作者: じょーくら
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第6話 (血塗られた貴婦人)-終

「間一髪だったな」

橘が花子さんをじっと見つめる。

その後ろで太郎が大きく咳き込む。

「えっと…。助かったよ。」

花子さんが気まずそうに呟いた。

「これは─」

「わかってる」

気まずい空気に耐えきれずに

花子さんが何か言いかけたのを橘が制した。

「初めから君たちが姉弟じゃないことくらいわかっていたさ」

橘が花子さんと太郎さんを交互に見つめながら言った。

「姉弟以前にだな─」

「君はもうこの世の者じゃないんだろ?」

またもや花子さんの言葉を遮るように橘が言った。

花子さんが黙った。

太郎の身体から花子さんが分離する瞬間を目撃したのだから無理もないだろう。

「勘違いしないでもらいたいが,君が"そういう存在"だと初めからわかっていたよ」

「え!?」

今度は太郎が声を上げた。

「な,何で…?」

その時,目の前の浴槽からゴボゴボと音がし始めた。

「奴は不死身なのか!?」

「正確には"不死身"じゃなくて"不滅"だ」

花子さんが橘に応えた。

浴槽から再び大川美船の頭が徐々に出てきていた。

「早く上に逃げるんだ!やはりこの屋敷ごとどうにかしないと!」

花子さんが2人を急かす。

「どういう意味だ?何で─」

「いいから梯子を登れ!追いつかれるぞ!」

太郎を先頭に橘,花子さんと続く。

3人は2階に到達すると一目散に1階の出口を目指す。

階段を一気に駆け降り,出口はもう目の前だ。

次の瞬間,太郎は何かに蹴つまずいた。

「気をつけてくださいよ〜。ここはカップルの変死体が…」

山本と佐藤だ。

彼らは床を這いながら太郎の足にしがみつこうとしていた。

「しつこいな…!」

太郎と橘は2人の手をかわしたが,花子さんが足を取られた。

「おい!大丈夫か!」

太郎が振り向くと,花子さんは山本と佐藤に掴まれて身動きが取れなくなっていた。

「いいから早く行くんだ!」

「でも…」

「私もオバケだぞ…。平気だ。」

花子さんがニタァと笑った。

「それと橘ッ!」

花子さんが山本と佐藤の手を振り解きなごら橘に向かって片手を差し出した。

「ライターを…!」

「わかった!受け取れ!」

橘がポケットからライターを取り出し,花子さんの手に向かって投げた。

花子さんはそれを見事キャッチした。

「屋敷を出たら,駅まで走るんだ!なるべく人通りの多い場所を通れ!」

花子さんが2人の背中に向かって叫んだ。

「家で待ってるからな!」

太郎が扉を開きながら叫んだ。

2人は駅前の商店街の明かりが見えるところまで走った。

全速力で走ったため,2人とも息切れしていた。

「花子さんは大丈夫なのか…?」

橘が呼吸を整えながら言った。

「彼女を信じるしかないです。それに─」

太郎が大きく息を吸いながら続ける。

「どうして橘さんは,彼女の本名を知っているんですか?」

橘の前で一度も太郎は花子さんの名前を口に出したことはない。

それに橘は最初から花子さんの正体を知っていたとも言っていた。

橘は太郎の質問に動揺する様子もなく太郎の目をじっと見つめていた。

「タネ明かししようか…」

そういうと橘は胸ポケットからタバコの箱を取り出して

タバコを一本口に咥えた。

「…ライターないんだった。」

先程,屋敷から脱出する際に花子さんに渡してしまったのだった。

「これ」

そう言うと橘は側に置いた"金属バット"を手にとり太郎の前に掲げた。

「俺のなんだ」

太郎には橘の言っている意味がわからなかった。

「…。どういう意味ですか?」

「そのままの意味だよ。この金属バットは元々俺のものなんだ。」

橘が続ける。

「今から6年前の夏,当時大学生だった俺は友達と廃校に肝試しに行った」

「廃校って…」

「お察しの通り,第三小学校の旧校舎だ」

件の廃校にトイレの花子さんが出るという噂は有名だった。

「俺も高校の頃はそれなり"ヤンチャ"してたからね。久しぶりに地元の仲間と飲んで,その流れでオバケ退治に行こうってなったんだ。」

「そこで出会ったんですか?」

橘が頷く。

「噂通りトイレのドアを3回ノックして彼女の名前を呼んだ。出てきたら返り討ちにしてやるってバットを構えてね。」

太郎は花子さんと出会った頃を思い出した。

"肝試しに来たヤンキーが,これ持って殴り込んできて…その時の戦利品"

確か彼女はそんなことを言っていた。

「返り討ちどころかこちらがコテンパにされたよ」

橘が遠い目をして笑った。

「それがきっかけで俺は記者になったんだ。あの廃校で起きた事件を調べるために。」

「橘さんが僕に色々情報を提供してくれたのも…」

「それも理由の1つかな。普通,素人にそう易々と情報は漏らさないさ。」

「橘さんはその時の仕返しをしたいんですか?」

「初めはそのつもりだったけどね。君が花子さんを連れてきたときは心底驚いたよ。」

「幽霊マンションの時ですね」

「オバケも歳をとるんだってあの時知ったよ」

太郎は何も言えなかった。

「コテンパにされた相手に命を助けられるとはね」

橘はそう言うと深い溜息をついた。

「今日はひとまず解散にしよう。彼女が戻ってきたらまた連絡してくれ。」

そう言うと橘は駅の人混みへと消えていった。

次の日の朝,有名な心霊スポットで知られる廃墟が不審火で全焼するという記事が新聞に載った。

花子さんは戻ってこなかった。


(続く)












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