第6話 (血塗られた貴婦人)-7
橘が気がつくとそこは真っ暗な空間だった。
(自分は部屋の扉を開けて,そこに女が…。)
ハッとして辺りを見廻す。
幸い,自分の近くに女の姿はないようだ。
相変わらず部屋は暗いが,少しずつ目が慣れてきて状況が掴めてきた。
まず,自分はロープか何かで椅子に拘束されていること。
目の前にはバスタブの様な物があり,中は液体で満たされているようだ。
床はタイル張りで─
ここで橘はあることに気づいた。
いくら暗闇に目が慣れたとはいえ,床のタイルまで見える程,室内は明るくはないはずだ。
どこかに光源があるはず。
部屋をさらに見廻すと,小さな窓が部屋の天井付近にあり,そこから月明かりが入ってきているようだ。
(そうか…!ここは半地下室なのか。)
漸く橘は自分が置かれている状況を把握した。
2階にいたはずが,いつの間にか半地下室に移動している。
(とにかく,逃げ出さないと…)
必死に手首を動かすがロープがキツくてびくともしない。
『チャポン』
目の前のバスタブで大きな水滴が水面に落ちた時のような音がした。
咄嗟に視線をバスタブに向ける。
水面に波紋が出ている。
その波紋が徐々に大きくなり,女の顔が水面からゴボゴボと現れた。
「あ"ーーッ」
橘は悲鳴を上げた。
女が腰の高さまで立ち上がるとその姿が月明かりに照らされた。
女は全身血だらけで,髪の毛から血が滴っている。
バスタブに溜まっていた液体は水ではなく,血だったのだ。
女は,バスタブ横の作業台から裁ち鋏を手に取るとゆっくりと橘に向かってきた。
「く,来るな…」
橘の声が引き攣る。
女が顔をヌッと橘の顔に近づけた。
その瞳は左右でそれぞれ青と緑に光っている。
血液独特の鉄分の匂いが鼻につく。
女は片手を橘の瞼にかけた。
咄嗟に橘は瞼を閉じるが,女の指が無理矢理それをこじ開けた。
そして,女は裁ち鋏を思い切り振りあげる。
「やめろぉおおッ!!」
その刹那,『金属バット』が裁ち鋏を持った女の片手にヒットした。
その衝撃で女が持っていた裁ち鋏が,橘の顔掠めて後方へ飛んでいった。
「間一髪だったな!」
「た,太郎くん!?」
なおも橘に向かおうとする女の前に太郎が立ち塞がる。
「おまえが"血塗られた貴婦人"こと大川美船だな!」
太郎が金属バットを構える。
美船が腕を払う素振りをした。
次の瞬間,太郎の身体が後方へ吹っ飛ばされた。
「どいつもこいつも念力使いやがって…」
壁に叩きつけられるもすぐに体勢を立て直す
─が目の前には美船が迫っていた。
((早い…!))
次の瞬間には、美船は太郎の首元を締め上げていた。
その力は凄まじく,美船の容姿からは想像できないものだった。
((い…きが…))
太郎の意識が遠のいていく。
(しっかりしろ!こうなったら…)
掠れた意識の中で花子さんの声が聞こえた。
途端に身体から何か弾ける感覚があった。
花子さんが太郎の身体から分離したのだ。
「エクスカリバーはどこだ!」
先程吹っ飛ばされた時にエクスカリバーを手放してしまった。
部屋を見渡すが見つからない。
太郎の方を振り返ると,太郎に馬乗りになった美船がなおもその首を締め上げている。
その背後にエクスカリバーを握った橘の姿があった。
「この化け物が…!」
橘が美船の後頭部目掛けて思い切りエクスカリバーを振り下ろした。
『ギャッ』
短い悲鳴と共に美船の身体が霧散した。
美船の手から解放された太郎は思い切り咳き込む。
「間一髪だったな」
花子さんの方を振り向きながら橘が呟いた。
(続く)




