第5話 (永遠の方舟)-5
『バンッ!!』
二度目の銃声が集会場に響く。
天道進はその場に倒れた。
「やるな。九堂の上司だけあって。」
"花子さん"がマリアの方に近付こうとしたとき─
「まだよッ!そこから離れて!」
「え…!?」
天道がゆっくりと起きあがろうとしていた。
「酷いじゃないか。振り向きざまを狙うなんて。」
銃弾は確実に天道の眉間にヒットしていた。
眉間の穴は,みるみるうちに修復されていく。
「何で…!?仕留めた筈じゃ…。」
「悪魔は無数の魂を取り込んでいるのよ」
マリアが答えた。
「私が撃ったのは,沢山あるうちの一つにすぎないってわけ」
「それじゃ…,倒しようがないじゃねぇか。」
「そこのお嬢さんが言うとおりだ。この死神は無駄なことに弾を使っている。」
そう言うと天道は口から血の塊を吐き出した。
マリアが撃った銃弾が血の塊とともに排出された。
「じゃ,さっきの少年は何で一発の銃弾で倒せたんだ?」
"花子さん"が呟く。
「彼は地獄から出所して間もないからねぇ。他の魂を取り込んでいなかったんだよ。」
「黙りなさい」
マリアは胸ポケットから小瓶を取り出すと,
小瓶の液体を天道に向けてぶちまけた。
「…ッ!」
一瞬天道が怯む。
液体が付着した部分から煙が上がる。
「聖水か…。あいにく私は"火傷"が完治しているからね,それほど沁みないのだよ。」
「その割には,怯えた顔をしたと思ったけど?」
「口が減らない死神だね」
天道が指を鳴らす。
すると,マリアの周囲に複数の幽霊が出現した。
「博識な死神様ならご存知かもしれんが,我々は喰らった魂を使役することができる」
もう一度天道が指を鳴らした。
一斉に幽霊がマリアに向けて襲いかかった。
マリアは銃で応戦するが,あまりに数が多すぎて処理が間に合わない。
「逃げる気?卑怯者!」
教会の入口へと向かう天道の背後からマリアが叫ぶ。
「悪魔だから当然だろう。褒め言葉として受け取っておくよ。」
「待ちなよ,おっさん」
集会場の扉の前で"花子さん"が立ち塞がる。
「これはこれは,半生のお嬢さん。」
「貴様!ふざけんじゃねぇッ!」
"花子さん"が天道に向けてパンチを繰り出す
─が,その拳は片手で受け止められてしまった。
「…ッ!離せ!」
天道が至極冷静に人差し指を振りながら言った。
「まだまだ熟成してから,もっと美味しくなってから出直しなさい。」
天道は"花子さん"の胸部を思い切り突き飛ばした。
「ゴフッ!!」
その一撃で花子さんは太郎の身体から分離した。
太郎も衝撃で後方に吹っ飛ばされた。
「いってぇ…」
太郎が起き上がると既に天道の姿はなくなっていた。
「待ちやがれ!」
花子さんが天道を追って飛び出して行った。
太郎も花子さんに続こうとした。
「行っても無駄よ!」
マリアから呼び止められて太郎は振り返る。
すると,大量に出現した幽霊を全て昇天させたマリアが息を切らせていた。
「鎌を持たない人間が勝てる相手じゃないわ」
「だけど…」
「気持ちはわかるけど,今は部下を運ぶのを手伝ってちょうだい」
集会所の真ん中に,負傷した九堂がうずくまっていた。
「おい…,大丈夫か?」
太郎が声をかける。
九堂は息を切らせながら顔を上げた。
「このくらいの傷なら,一日で…」
「全然大丈夫そうじゃないだろ。ほらよ。」
太郎が肩を貸す。
いつもの九堂なら断るところだが,すんなり受け入れた。
その身体はあまりにも軽く感じた。
「ここから早く離れましょう。他にも悪魔がいるかもしれない。」
マリアが急かす。
一同は集会所の外に出た。
「マリアさん,さっき天道が言ってたこと…」
太郎がマリアの背後から話しかける。
「何かしら?」
「奴は花子さんのこと,『半生』って言ってたんです。それって…。」
マリアが足を止めた。
「マリア次長,そのことはまだ─」
「九堂,いずれは太郎くんも知らないといけないことよ。」
「それはそう…ですが」
太郎は何も言い出せずに黙っていた。
「太郎くん,今ちょうど花子ちゃんがいないから話すけど─」
マリアが太郎の方を振り返る。
太郎は生唾を飲み込んだ。
「トイレの花子さん,本名"四谷花子"はまだ生きています」
(続く)




