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オトナになった花子さん  作者: じょーくら
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第5話 (永遠の方舟)-2

「神はなんて残酷なのでしょう」

神父の格好をした若い男が大袈裟に言った。

ここは,"永遠(とわ)方舟(はこぶね)"の集会場だ。

九堂に依頼され,花子さんと太郎は教団の集会場に潜入した

─といっても,2人が潜入したのは教団が週2回ほど主催する無料のセミナーで,誰でも自由参加できる。

「すんなり入れたじゃないか」

花子さんが小声で言う。

「あやしい感じもしないし,むしろ健全な雰囲気だな」

集会場の外観は教会そのもので,内部は広く,100人くらいは収容できる程のスペースがある。

花子さんと太郎は,セミナーの開始時刻ギリギリに入場したため最後列の席だった。

寿命が伸びるという噂を聞きつけたのか,会場は満員だった。

車椅子の人もいれば,点滴スタンドを使用している人もおり,皆何かしらの病を患っている様子だ。

「この世は不条理に満ちています。容姿,身分,健康…,それに寿命。」

前のステージで神父姿の男が続ける。

おそらく,この男が教祖である"天道進(てんどうすすむ)"なのだろう。

「私,天道進がこれらの不条理を打ち払います」

天道はそう言うと両手を大きく広げ天を仰ぐポーズをした。

会場のあちこちから拍手が起こる。

「いかにもインチキ教祖って感じだな」

花子さんが太郎に耳打ちした。

「皆様の中には,口先だけでは信じられない方もいらっしゃるかと存じます」

花子さんの言動を見透かしていたかのように天道が続ける。

「これからその証拠をお見せいたしましょう」

天道がステージ左手に合図する。

すると,車椅子に乗せられた細身の少年が現れた。

顔色はとても悪く,腕には点滴をつけている。

「彼は先天性の病に侵されており,余命はあと1ヵ月くらいです」

天道は会場の反応を見ながら続ける。

「彼はこれから生まれ変わるのです。この私の手によって…。」

天道はまたもや大きく天を仰ぐポーズをとった。

「それでは,翔太さん。こちらへ。」

天道が車椅子の少年の名前を呼び,手招きする。

「おい!あれ見ろ!」

花子さんが前を指さす。

先程は気が付かなかったがステージの床に何か魔法陣のような模様が書かれている。

天道は,その前に来るよう少年を誘導した。

「…あれは何だ?儀式でもするのか。」

流石に太郎もステージ上に釘付けになる。

「お集まりの皆様,これから激しい音や常識では受け入れ難い現象が起きます」

天道が深呼吸するように言う。

「儀式の間,安全のため決して席をお立ちにならぬように。また,私語も禁止です。」

次の瞬間,集会場のカーテンが一斉に閉められ室内が薄暗くなった。

ステージのみスポットライトで照らされ,天道と車椅子の少年の姿だけが見える。

天道が何やら呪文のようなものを唱え始めた。

「ラテン語…かな?」

花子さんが呟く。

天道は呪文をひととおり唱えると,

胸ポケットからナイフを取り出した。

「それでは,血の契約を」

天道は車椅子の少年の手首を持ち上げた。

少年は脱力しているのか,手がだらりとしている。

次の瞬間,天道は思い切り少年の手首を切った。

会場がどよめく。

「静粛に。儀式の妨げになります。」

天道はいたって冷静だ。

手首から血が滴る。

天道は,少年の手首を握ったまま,床の魔法陣に血を滴らせた。

ほんの一滴,少年の血が魔法陣に触れただけで魔法陣の模様が血の色に一瞬で染まった。

「これから,彼に新しい魂を宿します」

再び天道が呪文を唱え始めた。

すると,魔法陣の円形に縁取られた部分の床が抜けたように,漆黒になった。

「なんだか焦げ臭いぞ…」

急に肉が焦げたような異臭が会場に立ち込める。

同時にうめき声が聞こえはじめた。

どちらも,魔法陣が発生源のようだ。

会場内の空気が一気に重くなる。

すると魔法陣から何かが出てきた

─それは,全身が真っ黒のマネキンだった。

マネキンは,魔法陣の縁に手をかけると上半身,次に下半身とゆっくりと出てきた。

マネキンは会場を見渡しているようだ。

異臭がさらに強くなる。

会場からは悲鳴があがるが,その多くは目の前の光景に釘付けになっていた。

「あれは,マネキンか…?」

太郎が呟く。

「違う…。あれは焼け焦げた"人"だ。」

花子さんが答える。

その証拠に,マネキンの顔の下部,口と思わしき部分が開いた。

ニタァと笑っているようだ。

皮膚が黒く焼け焦げているせいか,その歯はとても白く際立って見える。

「それでは,こちらへ」

天道は少年ではなくマネキンに話しかけている。

マネキンは天道の方を見ると,視線を車椅子の少年へと移す。

天道は,車椅子を方向転換し,マネキンに対して少年が背を向ける位置にした。

「合掌,一礼」

車椅子の少年がそれに従う。

「あ」

太郎は思わず声が出た

─それは,自分が花子さんを憑依させる時と全く同じ動作だったからだ。

そのあとは一瞬の出来事だった。

マネキンも合掌しつつ,

プールに飛び込むかのようなポーズをとり,

少年のうなじの部分に勢いよく吸い込まれた。

同時に少年の体が大きく痙攣する。

会場は静まり返っている。

「おめでとう。儀式は成功しました。」

天道が高らかに宣言すると同時に,車椅子の位置を少年が見えるように聴衆側に向けた。

少年は(おもむろ)に腕に装着していた点滴のチューブを引き抜いた。

そして車椅子から立ち上がって会場に向け手を振った。

いつの間にか手首の傷はなくなっていた。

その顔色は先程とは別人のように正気に満ち溢れている。

会場からは驚きの声と共に拍手が沸き起こる。

「う…」

花子さんが突如,口元を手で覆った。

「急にどうしたんだ?」

「あの少年がとてつもなく生臭い」

太郎は先程の肉が焦げたような臭いの事かと思ったが,

花子さんの言う生臭さとはそれとは違うらしい。

現に会場は焦臭さが既にしなくなっていた。

「皆様,これが奇跡です!彼は今日という日に再び誕生したのです!」

天道進が再び天を仰ぐポーズをした。

すると会場は一際大きな拍手に包まれた。


(続く)















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