4話-6 (終)
首が何処かに存在している…。
花子さんは確かにそう言った。
「糸はまだ視えているか?」
"花子さん"が九堂に言った。
「切れ端は手に持っています」
そう言うと九堂は左手を持ち上げた
─が,その手に糸のような物は見当たらなかった。
「一体,どうなってるんだ…!?」
一部始終を見ていたケンジが呟く。
ケンジの目には死神である九堂の姿はおろか声も聞こえない。
ケンジの目線では,圧倒的に優勢だった首なしライダーが突然活動を停止し,
"花子さん"が何もない空間に対して,独り言を言っているようにしか見えなかった。
「視聴者にもわかるように説明するとな…」
その様子を見かねた"花子さん"が状況を解説し始めた。
まず,幽霊は自縛霊や人や物に取り憑くタイプでない限り,
この世での存在は希薄でその力は制限される。
首無しライダーは上記に当てはまらないにも関わらず,
圧倒的な力と存在を保持していた。
「どこかに身体の一部があるとピンときたよ」
幽霊マンションの一条のように,血液など生前の身体の一部が残っている場合,
幽霊は爆発的な力を発揮できる。
「コイツの場合,首しかないと思った」
"花子"さんが続ける。
幽霊は,身体の一部からあまり離れてしまうとその力は十分に発揮できない。
現に一条は,自分の血液が付着した刃物を常に持ち歩いていた。
しかし,首無しライダーは広範囲を移動できるうえに,首を持ち歩いている様子もなかった。
「だから,首と幽体を繋ぐ何かがあると推察した」
そこで,死神である九堂の出番である。
彼は,ケンジの軽ワゴン車の中で首無しライダーを注意深く観察していた。
「案の定,糸で繋がっていた」
この糸は,"霊糸"と呼ばれるもので,死神しか視ることができない。
本来は,魂を肉体に繋ぎ止めておくための糸だ。
その糸は死神の鎌のみで切断することができる。
「糸を切られたコイツは,根っこを切られたタンポポのようなもんだ」
なるほど,活動停止した首無しライダーの霊体は,
ドライアイスが溶けるように煙が出て徐々に消え始めていた。
「タンポポってことは根が残ってたらまた生えてくるんじゃ…」
ケンジが太郎の言いたかった言葉を口にした。
「そうだ…。奴の首を見つけだして叩かない限り,何度でも復活するだろうな。」
"花子さん"は深い溜息をついた。
「だから,これから糸を辿って首を見つけ出し,トドメを刺しに行く。そうだな九堂。」
九堂が黙って頷く。
彼は,既に糸を手繰るようにして歩き始めていた。
「わかった,じゃあ早いとこ首を見つけようぜ」
一同は九堂の後に続く。
これまで首無しライダーが走ってきた道に沿って糸が続いているようだ。
「なぁ,奴はバイクに乗って猛スピードで走ってきたんだろ」
糸を辿り始めてから10分程で,ケンジが言った。
「首の在処まで,歩ける距離じゃないよな…,きっと。」
確かに,首無しライダーはバイクに乗りながらここまでやってきた。
糸を辿りながら歩いていたのでは,余りに時間がかかってしまう。
夜明けが近いのか,空も明るくなってきた。
「確かにな。ここは一旦,車に引き換えして─」
"花子さん"が言いかけたときだった。
「あ,切れた…」
先頭を歩く九堂が呟いた。
「切れたってどういうコトだよ!」
"花子さん"が吠える。
「駄目ですね。誰かが糸の遥か先,首の所から糸を切ったんだと思います。」
九堂は,手応えがなくなった糸を自分の方に手繰り寄せながら言った。
「誰かって…。首無しライダー自身がトドメ刺されるって勘づいて切ったんじゃないのか!」
「霊糸は,死神でなければ視ることはできませんし,そもそも死神の鎌でなければ切ることもできません」
「…じゃあ,裏で死神が手を引いてるってのかよ」
「それも考えにくい…と思います」
「じゃあ誰が…」
しばらく沈黙が続く。
「少なくとも第三者が,彼の首を持っているのは間違いないです。」
「折角ここまで追い詰めたのに…!」
ちょうどその時,太郎のスマホが鳴った。
本郷正音からの着信だった。
『そっちはどうなの?奴は倒せたの?』
花子さん側から連絡がないのを心配したのだろう。
『あぁ…,後一歩というところだったけど取り逃したよ』
空には朝日が昇ろうとしていた。
(続く)




