第4話-4
「そろそろ例の道に着くわよ」
時刻は午前2時,
本郷正音が運転する高級セダンが
海沿いの直線道路,"マーメイドライン"に差し掛かった。
「辺りは真っ暗ね」
後部座席の琴音が呟く。
昼間は海を見渡せる人気のドライブコースだが,
丑三つ時に通行する車両はほとんどなく,
街灯もないため不気味だ。
「噂には聞いてたけど,ほんとに来るかしらね」
正音はやや懐疑的だ。
「今この辺りを走っている車は私達だけだから,きっと来るわよ」
ちょうど月が雲に隠れているため,車のライトだけを頼りに道を進む。
すると,後ろに一つの光源が現れた。
「来た…」
車内に緊張が走る。
「私は奴の姿を見ないように運転するから,琴音がなんとかしてちょうだい」
「大丈夫,少なくとも私も死んでるからね」
後ろに見えた光源はあっという間に車間距離を詰めてきた
─と同時にバイクのエンジン音が迫ってくる。
「舐めんじゃないわよ」
正音がアクセルを踏み込む。
エンジンが唸り,車が一気に加速する。
バイクのライトが少し遠のく。
後ろのバイクも負けじとエンジンを吹かして迫ってくる。
「こちとら●●●●よ」
車のメーカー名は皆様のご想像にお任せするとして,
2台は猛スピードで深夜のマーメイドラインを突き進む。
バイクが再度,車の背後に近づいた。
「琴音,今よ」
後部座席に呼びかける頃には
既に琴音の姿はなかった。
途端に背後のバイクが失速する。
「上手くいったようね」
そう,琴音は首無しライダーの後ろに瞬間移動したのだ。
それは琴音が幽霊だからこそできる芸当なのだ。
側から見ると,カップルの二人乗りに見えなくもない。
だが,首無しライダーは背後の琴音を振り落とそうと,蛇行運転を繰り返す。
振り落とされないよう,琴音も首無しライダーの身体に必死にしがみつく。
隙を見て琴音がハンドルを握る首無しライダーの腕に手をかけた。
「これで終わりよ」
ハンドルを握る腕を思いっきり引っ張ろうとしたときだった─
「ァガッ…!」
首無しライダーが琴音の峯に肘鉄を叩き込んだ。
幽霊は痛みを普通感じないが,強烈な肘鉄のため思わず声が出る。
そして,その衝撃のため琴音はバイクから振り落とされ,アスファルトの道路に叩きつけられた。
「くそ…」
バイクのテールランプがあっという間に見えなくなった。
「そろそろ戻ってきてもいい頃だけど…」
正音は娘の帰りが遅いため思わず独り言が出た。
すると再び背後にバイクのヘッドライトが迫ってきた。
「…!?」
正音はアクセルを全開まで吹かす。
慌ててハンズフリー機能で電話をかける。
程なくして通話が開始される。
「プラン変更!Bよ!」
「わかった!それまでに何とか奴を引き離してくれ!」
花子さんが応答してからすぐに通話が切れた。
車は猛スピードでバイクを引き離しにかかる。
丁度,道路が片道2車線から1車線に切り替わる地点だ。
それはマーメイドラインの終わりを意味しており,
道は右へカーブし,海から離れ内陸へと向かう。
「私の運転技術を見せてやるわ」
車はほとんど減速することなく,急カーブをやり過ごす。
その先に久しぶりに交差点の信号機が見えた。
「今度は上手くいくといいけど…」
バイクは相変わらず後ろから猛追してきている。
信号機は,青信号から赤信号に切り替わろうとしていた。
正音の車は赤信号になる前に交差点を通過した。
背後の首無しライダーは,赤信号などお構いなしに
スピードを上げて交差点へと侵入する
─次の瞬間,バイクの進行方向右側から軽ワゴン車が突っ込んできた。
ガシャーンッ!!!
凄まじい音が周りに響き渡った。
軽ワゴン車は交差点の先で急ブレーキを踏んで止まっていた。
「だ…大丈夫なのか」
「衝突はしていない…。寸前で避けやがった。」
言わずもがな,軽ワゴン車はケンジのものだ。
花子さん一同はマーメイドラインの先で首無しライダーを待ち伏せしていたのだ。
車内から花子さん達が降りて辺りを確認する。
首無しライダーは,軽ワゴン車を避けたものの
ハンドル操作を誤り,交差点の先にある廃屋に突っ込んだようだ。
「し…死んだのか」
ケンジが廃屋の方を恐る恐る覗き込む。
「そこが問題だ。元から死んでいる…。」
花子さんがまだ終わっていないという口調で応えた。
案の定,バイクが突っ込んだ廃屋の中から瓦礫を掻き分ける音が響く。
「プランC!太郎ッ,出てこい!!」
すかさず花子さんが軽ワゴン車に向かって叫ぶ。
太朗が恐々とした様子で降りてきた。
「早くしろ!!合掌!一礼!!」
花子さんが太朗の背後から叫びながら駆け寄る。
言われた通り太朗は花子さんに背を向けてそれに倣う。
「ヤベェぞ!アイツ,NOダメージだ!」
ケンジが廃屋の方を指して叫ぶ。
白い特攻服を着た首のない男が,こちらにゆっくりと向かってきている。
ケンジが花子さんの方を振り向くと,
そこに花子さんの姿はなく,太朗が俯いて立っていた。
「物理的に叩くしかねぇようだな」
"花子さん"が拳の関節を鳴らしながら顔を上げ,
ニタァと笑った。
(続く)




