第4話-3
「おまえら,俺をハメたな」
軽ワゴン車の横でケンジがタバコに火をつけながら言った。
海沿いのせいか,風が強くてなかなかタバコに火がつかない。
「おまえが女の子紹介してくれるって何か変だなーとは思ってたんだ」
ケンジが続ける。
太郎は何も言えず,ただ黙っていた。
首無しライダーや花子さんのコトを話すべきか心の中で葛藤していた。
「そうだ,私はもともと奴を追っていた」
何も言わない太郎の横から花子さんが切り出した。
「やっぱなー。アンタ,ちょいちょい会話が変だったもん。」
花子さんが後ろの九堂を小突いた。
「別に怒っちゃいねぇよ。太郎にはこの前の"貸し"があるからな。」
「"貸し"って,廃校に置き去りにしたことですか?」
太郎が声を絞り出すように言った。
「…それもだけどよ。俺がおかしくなった時,助けてくれたの,おまえだろ?」
今度は花子さんも言葉に詰まった。
ケンジは幽霊に憑依された時の記憶が残っていたのだ。
ケンジが幽霊に操られて橋から車ごと身投げしようとしていたところを,太郎と花子さんが寸前で止めたのだ。
「…じゃあ,先輩はあの時全部見てたんですか?」
「断片的にだけどな。最初は悪い夢かと思ってたんだけどよ。あん時の太郎の目…」
ケンジは太郎と花子の目を見比べながら一呼吸置いた。
「別人だった。」
「先輩,あの─」
「いい,それは私が話す」
花子さんが太郎を制して今までの経緯を話始めた。
「私はそもそも生きている人間ではない」
ケンジの口からタバコが落ちた。
花子さんのこと,幽霊のこと,オバケスタンプのこと,ついでに死神の九堂のこと──
花子さんが全てを話終わったとき,ケンジは深い溜息をついた。
「いつもの俺なら全部信じられねぇが,さっきの奴を見た後なら飲み込めるな…」
ケンジが2本目のタバコに火をつけようとするが,やはりなかなか着火しない。
「で,おまえらはさっきの首無しライダーを退治したいんだな?」
「まぁ,結論はそうだ」
「次はいつ車を出せばいいんだ?」
「先輩…!?」
ケンジの反応に太郎は思わず声が出た。
「ヤラレっぱなしってのは,カッコ悪いんでな」
ケンジが得意げにタバコを吹かした。
「ご協力は有難いんだが,おまえの車はスピード出ない。奴にすぐに追いつかれる。」
「花子さん…!?」
今度はケンジが花子さんの発言に驚いた。
「でも,首無しライダーを追い詰めるには車が必要なんだろ?」
協力してくれる先輩をここで手離したくない太郎は,花子さんへ提言した。
「車の"あて"なら他にあるからな」
ケンジは後ろから見ててもわかるぐらいうなだれた。
「いずれにせよ協力者は多い方がいいですよ」
今まで黙っていた九堂がボソッと呟いた。
ケンジの耳にはその声が届かないが…。
「…仕方ないな。次回はケンジにも車を出してもらう。」
次の瞬間,ケンジの顔が明るくなった。
「そうこなくっちゃな!協力するぜ!」
「先輩にも車を出して貰うとして,あと一台は誰の車だ?」
「よく聞け太郎,それはな…」
「久しぶりー!まさ姉!」
「何で私が車を出さないといけないのよ」
待ち合わせの広場には,少し不機嫌そうな小太りの中年女性がいた。
彼女は有名な霊能力者の本郷正音だ。
幽霊マンションの事件以来,太郎と花子さんとは顔見知りだ。
「まぁまぁ。そう言ってるけど母さんも久しぶりの仕事にテンション上がってたじゃない。」
娘の琴音がなだめている。
琴音は幽霊だが,花子さん曰く"親子の縁"でこの世に留まっているらしい。
「ほ…本物の本郷正音だ!自分,幽霊マンションの事件,TVで観てました!」
ケンジは間近で見る有名人に興奮を抑えられないようだ。
ケンジの目には琴音の姿までは見えていない。
「報酬が出ないなら,仕事じゃなくてボランティアでしょ」
「今回の相手はまさ姉の車じゃないと捕まえられないんだよ,頼むよ」
以前,幽霊マンションで本郷正音は傷だらけの黒い高級車に乗っていた。
あの車種ならば首無しライダーよりも早く走れるだろう。
「私を呼ぶからには作戦があるんでしょうね」
「もちろんよ!それは─」
花子さんが一同の前で今夜の作戦について説明を始めた。
(続く)




