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オトナになった花子さん  作者: じょーくら
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第4話-2

「私,海が見たいなー」

花子さんが助手席で甘えた声を出した。

太郎は二度目の鳥肌が立った。

「夜の海ってのも素敵ですよね」

ケンジが話を合わせる。

「この近くだったかしら。"マーメイドライン"って言う海がとってもよく見えるドライブスポットがあるの。」

花子さんがそれとなく目的地に誘導する。

無論,花子さんから気の利いた台詞がスラスラと出てくる筈などない。

後部座席にいる九堂の台詞を,花子さんがそのまま復唱しているのだ。

ケンジは,死神である九堂の姿を見ることはおろか,声を聞くこともできない。

「いいっすね!夜のドライブには最適ですよ!」

どうやらケンジは首無しライダーのことは知らないらしい。

車をひたすら南へと進める。

他愛のない世間話をしながら, 20分程走った頃だろうか。

山林の丘を越えると, 急に視界が開けて下り坂になった。

昼間であれば大海原が望めるが, 深夜の今は目の前に漆黒の闇が広がっている。

道は大きく右にカーブし, 海と平行な一直線の道になった。

"マーメイドライン"に到着したのだ。

「来るとしたらそろそろか…」

「え?何か言いました?」

「いや, 素敵な海に来るっていいなぁって…」

花子さんは後部座席にいる九堂の独り言をそのまま復唱してしまった。

「気が合いますね!俺も同じっす!」

どうやらケンジに気づかれてはいないようだ。


『首無しライダーを見るとドライバーは事故を起こす』

雑誌の記事にはそう書かれていた。

首無しライダーの手口として,

車両後方から猛スピードで近づき,

ドライバーに自身の姿を見せ, 事故を引き起こすというものだった。

「これが奴の特殊能力かどうかはわからないな…」

花子さんは幽霊マンションの一条と同様に, 首無しライダーも何らかしらの特殊能力を持っていると考えた。

「もしそれが特殊能力だとしたら,ケンジさんには首無しライダーを見せられないですね」

九堂が言った。

「そうなると, 首無しライダーが出現しても先輩には前を向いて運転に集中してもらう必要があるな」

夕方の予備校で,太郎,花子と九堂の3人は作戦を立てた

─が, いい案は思いつかないままだった。

「最悪, 助手席の私が先輩に目隠しして,ハンドル操作は私がやる」

首無しライダーを見て事故を引き起こすよりも危険ではないかと太郎は思った。


「ん?バイクか?」

突如,ケンジがバックミラーを見て呟いた。

バックミラーにはライトが1つ,徐々に車間距離を詰めてきている様子が写っていた。

「…!?」

花子さんが後ろを伺う。

夜のせいか,後ろのライダーの姿がよく見えない。

この距離だと首無しライダーか否かの判断は難しい。

「夜のツーリングかしら」

花子さんはケンジがライダーを直視しないよう,それとなく話題を振る。

「この辺は昔から暴走族が多いんすよ」

確かに,後方のバイクはエンジンを必要以上に吹かしている。

気づけば軽ワゴン車スレスレまで車間距離を詰められていた。

「チ…!何だよコイツ,あぶねぇな!」

マーメイドラインは片道2車線のため,左隣の車線に移動してバイクに道を譲る。

が,こちらの動きに合わせてバイクも車線変更してきた。

「煽ってんのか!?」

流石にケンジも焦る。

バイクに煽られて軽ワゴン車のスピードをどんどん上げる。

「先輩!危ないですよ!」

たまらずに後部座席の太郎が悲鳴を上げる。

「るせぇ!スピード上げないと,ぶつかるだろ!」

ケンジは花子さんの前では紳士的に振る舞っていたが,今はそんな余裕はない。

バイクは相変わらず車間距離を詰めたままだ。

太郎は怖くて後ろを確認できなかった。

「もっとスピード出せないんか!!」

助手席の花子さんが怒鳴った。

「は…花子さん?」

ケンジが呆然としている。

無理もない,先程まであんなにおしとやかだった女性が急にスケバン口調になったのだ。

「もっとスピード出せよ!追いつかれるだろうが!」

「は…はぃッ!」

ケンジの声が小さく震えている。

後部座席の太郎はケンジのことが気の毒に思えてきた。

その時,軽ワゴン車の後方にピタリとつけていたバイクが右隣の車線に移った。

ライダーはエンジンを吹かしながら一気にこちらを追い抜こうとしている。

ケンジはサイドミラーで後ろから迫り来るモノを確認しようとした。

「見るな!おまえが奴を見たら全てがお終いだ!前だけを見てろ!」

「はいッ!」

ケンジがサイドミラーから視線を前方に移す。

すると,片道2車線だった道路が前方で急に1車線になっており,こちら側のレーンの先は崖になっていた。

「ブレーーーキッ!!」

花子さんが怒鳴る。

ケンジが急ブレーキをかけた。

慣性の法則で後部座席の太郎は前のめりになった。

太郎は見た──

バイクが軽ワゴン車を追い抜く刹那,

白い特攻服を着たドライバーを。

その首はなく,本来首があるべき場所には漆黒の闇が広がっていた。

「ぃ…!?」

太郎は声にならない悲鳴を上げた。

何とか崖寸前で軽ワゴン車が止まった。

バイクは軽ワゴン車を追い抜いた後,暗闇へと消えていった。

「な…,何だよアイツはッ!!」

ケンジが半泣きで叫んだ。

「おまえ!ライダーを見たのか?」

花子さんがケンジの胸ぐらを掴みながら聞く。

「く,首から上がなかった!見間違いなんかじゃねぇ!」

泣きじゃくるケンジの服から,花子さんはそっと手を離した。


(続く)










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