第3話-4 (終)
「ふ…増えてる!」
太郎が1日の講習を終えて予備校の入口を抜けると,
花子さん,死神の九堂に加えて一人と一匹が並んでいた。
「誰だ,そいつらは」
「そこの交差点の"元"地縛霊だ」
「"元"って何だよ」
すると花子さんが急に太郎の首元まで顔を近づけた。
「ッ…!?何だよ…,急に。」
「おまえ,彼女でもできたか?女の匂いがする。すごく生臭い…」
「は?」
太郎の脳内に大門亜良に言われたことがフラッシュバックした。
「…ま,いいや。コイツらはなー」
花子さんが今までの経緯を話し始めた。
「この子は悪くないの!!」
横たわる巨大な白猫を庇うように地縛霊の女の子が手を広げて立っていた。
「どうしてソイツを庇うんだ!おまえの靴を奪った奴なんじゃないのか!」
「この子は,私が車に轢かれそうになったとき足を引っ張って助けてくれようとしたの!」
地縛霊の女の子の話によると,
歩行者信号が赤にも関わらず,
道路に飛び出してしまった女の子の足に
この猫が噛み付いて歩道側に戻そうとしてくれたらしい
ーだが,結果的に間に合わず,女の子はトラックに轢かれてしまった。
「じゃ,そん時に靴が脱げちまったのか」
「そうなの…」
「なぁ,お嬢ちゃん。はじめにきちんと説明してくれないとお姉さんもわかんねぇよ。」
「説明を聞かずに飛び出していったのはあなたの方だと思いますが」
九堂が横槍を入れた。
「るせぇ!だいたいおまえはさっきからボケっと見てるだけだったじゃねぇか!」
「女の子を安全な場所に避難させるという重要な任務がありました」
「大層な任務ですこと!さぞかし役立ったんでしょうね!猫を集める以外能無しのー」
「またポンコツ呼ばわりするつもりですか!!」
「やめてよ!お兄ちゃんもお姉ちゃんも…」
そのとき『ゲボ』っという音がした。
巨大な白猫が毛玉を吐いたのだ。
「うわっ,汚ねぇ…」
「あれ,この子の靴じゃないですか?」
毛玉の中に靴のようなものが見える。
猫の毛と唾液の中から花子さんが"それ"を回収した。
「…確かに靴だ。コイツのヨダレでベトベトだ。近くの公園で洗おう。」
一行は交差点近くの公園の水道で靴を洗うことにした。
巨大だった白猫はいつの間にか元のサイズに戻って女の子の後ろについてきた。
「あれ,あなたの鎖…」
九堂が女の子の足を見ると先ほどまで繋がれていた鎖が消えていた。
「靴が見つかって未練がなくなったのかもな」
街中の公園には人っ子一人おらず,寂しい感じがした。
花子さんが水道の蛇口をひねる。
「"さわだあすか",お嬢ちゃんの名前はあすかっていうのか。」
花子さんが靴のかかと部分にマジックで書かれていた女の子の名前に気がついた。
「うん!そうだよ!私の名前はあすかっていうの!」
「そうか,いい名前だね。ほらよ。」
洗った靴をあすかに手渡すが,その顔は浮かない表情をしている。
「…どうした,履かないのか?乾かしてからの方が良かったか?」
「ううん,違うの」
「多分,この子が言いたいのはー」
九堂があすかと花子さんの会話に割って入ろうとした。
「るせぇ,おまえは黙ってろよ。あすかちゃん,どうしたいんだ?」
「この子の靴を家まで届けるって?」
太郎が花子さんの話を聞いて言った。
「あすかちゃんの家はここから歩いて行けるそうだ。だからこれから付き合え。」
「…それは別にいいけどよ。」
太郎はあすかと白猫がまた自分の家に一緒に帰るのではないかと内心ヒヤヒヤしていた。
「道案内はできるんだよね?あすかちゃん」
「うん!」
一行はあすかの案内で線路沿いの道をひたすら進む。
時刻は夕方に差し掛かっており西日が眩しい。
「おい,おまえ」
太郎が花子さんに話かける。
「何だよ,急に」
「おえには色々と言いたいことがあるが,家に帰ってからだ」
線路沿いの道から一本裏道に入った所にあすかの住んでいた一軒家はあった。
「ほら,届けてこいよ」
太郎が花子さんを急かす。
「私1人で行くのか?おまえも…来いよ」
確かに,全身真っ赤な女が急に娘の遺品を持ってきても怪しすぎる。
「…仕方ないな。渡すのはおまえだからな。理由はー」
『ピンポーン』
太郎が言い終わらないうちに花子さんが門の呼び鈴を押した。
「おまえ…!考え無しに押すなよ!」
「考えたって一緒だろ!ほら,出てきたぞ」
あすかの母親と思しき女性が玄関から出てきた。
「どちら…さまですか?」
女性が警戒心MAXの眼差しで太郎と花子さんを見る。
女性の目には太郎と花子さんの姿しか見えていないようだ。
「あの…,訳を話すのは難しいのですがー」
「娘さんが大切にしていた靴を届けにきました」
太郎がまごまごしている様子を見かねて花子さんが切り出した。
「娘って…,あすかのことですか?」
女性が花子さんが差し出した靴を見る
ー途端にその目に大粒の涙が浮かんだ。
「これは…確かに,娘が大切にしていた靴です。事故のとき,片方を無くしてしまって…。」
女性が声を震わせながら,花子さんから靴を受け取った。
「娘さんが,パパとママに買ってもらったって」
「誰かは知らないですが,ほんとにありがとう…。」
「それじゃぁ,僕らはこれで」
太郎と花子は家を後にした。
家の門を出ると,九堂とあすか,そして白い猫が待っていた。
「ありがとう,ようやくお家に帰れたよ」
あすかが出会って初めて笑顔を見せた。
あすかの足を見ると両足に靴を履いていた。
その身体が光に包まれる。
「…成仏するのか」
「靴も見つかって親元にも帰れたし,思い残すこともないんだろ」
「猫さんもありがと…それじゃぁ」
少女は光とともに消えていった。
あすかが昇天したのを見届けると,
白猫も何処かへ去っていった。
「さぁて,我々もお家に帰りますか」
「"お家"ってオレん家のことだろ!」
太郎が花子さんにツっ込んだ。
花子さんが夕日を背にして振り返る。
その顔はとても悲しそうな表情をしていた。
(そういや,コイツにも生前は帰る家があったんだよな…)
太郎は自分の発言を少し反省した。
「まぁ細かいことはいいじゃないか。おまえの"カキコウシュウ"とやらも無事に終わったんだし!」
「初日がな!明日も午前中から古文と現代文がー」
「はぁ!?まだ続くのかよ…」
「受験生だからな!これから毎日行くぞ。それにお前,そっちはオレん家の方角と真逆だぞ。」
花子さんほ夕日に向かって歩きだしていた。
「私は一本向こうの道から駅の方にだな…」
「あー,はいはい。そういうコトにしておこう。」
「何だよその言い方は。まるで私が道を間違えたみたいにー」
「お二人さん,そこまで!花子さん,大事なコトを忘れていませんか?」
九堂が2人の会話に割って入った。
九堂は花子さんに向けて"何か"を渡せと言わんばかりに手を差し出している。
「え…,でも今日救えた魂は1つだけで…」
「それでも"ゼロ"ではないでしょう。特別ですよ。」
花子さんが九堂にスタンプカードを渡す。
九堂は即座にスタンプを押してそれを花子さんに返却した。
「おまえ…!スタンプ半分ってケチだなぁ!」
見ると7個目の欄には器用に半分だけスタンプが押してある。
「半分押してもらえただけでも感謝してくださいね」
「仕方ないな…。太郎!ビール買って帰るぞ!」
「"買って帰る"って,俺の金だろ…。」
来た道を帰る3人の後ろ姿を,白猫が遠くから見ていた。
(続く)




