第3話-1
「はぁ…。何で増えるんだよ。」
太郎は自宅のロビーでくつろぐ花子さんと
白髪の少年を見てため息をついた。
2人は朝の情報番組を見ている。
ちょうど昨夜に幽霊マンションで起きた事件について報道されていた。
今朝はどの局も幽霊マンションの話題で持ち切りだ。
「別に『増えた』のではないですよ。初めから居ました。」
白髪の少年がTVを観ながら言った。
「聞こえてんのかよ…」
ー昨夜の幽霊マンションにて
「そうですね,今回は私も疲れました。早いとこ家に帰りましょう。」
突然,2人の後ろから会話に割って入る声があった。
「…誰だおまえ」
「直接お話をするのは今回が初めてですね。私はこういうものです。」
白髪の少年が名刺を差し出した。
「九堂宗志…」
続けて肩書きを見る。
「常世行政委員会 現世部 特殊回収班 …つまり何だっていうんだ?」
「わかりやすく言うと"死神" ですね」
「えっ!?こんなガキが?」
見た目は小学校の高学年…というところだろうか。
髪色は白髪というより銀髪と表現した方がしっくりくるかもしれない。
喪服のような黒いスーツを着ている。
「魂を見た目で判断しないことです。ここにいる誰よりも早くこの世に生まれています。」
「…てことは,おまえは元人間?」
「そうですね。死後,この職務に就きました。」
「…で,その死神様が何で俺の家に一緒に帰るんだよ」
「私は"初めから"あなたの側にずっといましたよ」
「言ってる意味がわかんねぇな。"初めから"っていつからだよ。」
「あなたが廃校のトイレで花子さんに出会ったときからずっとです」
「はい?何言ってんの,あの場には誰もー」
「太郎な,こいつは確かにあのトイレからずっとお前の後ろに"憑いて”きたぞ」
花子さんがあきれ顔で言った。
「いやいや,こいつとはつい5分前に初めましてだろ…」
「言い忘れていましたが,"死"に触れた者しか死神の姿はおろか気配を感知することはできません」
「俺がいつ"死"に触れたって言うんだよ。強いて言うなら花子とこのマンションのア●ムスファミリーくらいか?」
「おまえ,一条に首絞められて"川"を渡りかけてたじゃねぇかよ。私が引き戻さなかったら死んでたぞ。」
「あのとき…死にかけてたのか,俺」
「死神を見ることができるのは死者と死に触れたもの…すなわち臨死体験した者だけです。霊感が強いだけでは死神を見ることはできません。」
「…てことは,おまえも俺の部屋にずっといたのか!?」
「だからそう言ってるじゃないですか。あなたが大切にしている"大人の本"の隠し場所は,本棚のー」
「あーあーあー!わかった…わかったってば!」
「信じてもらえたようでなによりです」
見た目は少年だが,口調は老紳士のようだ。
言葉遣いは至極丁寧だが,その一言一句には感情はなく,冷淡だ。
「…何で教えてくれなかったんだよ」
太郎が花子さんを睨む。
「おまえ,今まで私のスタンプカードにスタンプを押してる奴のこと気にならなかったのか?」
花子さんが持っているスタンプカードは,幽霊を倒すことでスタンプが押される。
全てのスタンプが貯まると花子さんは生き返ることができるらしいが…。
「この前それを聞こうとしたけど途中で…」
「それがこいつだってわけだ。それに,口止めされてたしな。」
「この世には無理に知らなくていいこともあるのです。」
「いや…だからって」
「そうだ!今日の分まだ押してもらっていなかったな!」
花子さんがはしゃぎながらスタンプカードを九堂に差し出す。
九堂はスーツの内ポケットからスタンプを取り出すと,カードに2回押しつけた。
「いやいや,2個って…。この前の奴は4個だったじゃん。」
花子さんは不満そうだ。
「妥当な判断だと思いますが?」
「今回の一条って奴は,前回と違って結界も張るし,念動力とかもあってー」
「もちろんそれは知っています」
「じゃ,何でー」
「倒した幽霊の強さに応じてスタンプが押されるとでも?」
「…そうじゃないのかよ」
「違います。あくまで"ダイヤの回復と"回収率"にどれだけ寄与したのかが評価基準となります。」
そういうと九堂はスタンプを取り出したときと同じ内ポケットから辞書のような物を取り出した。
「電車の時刻表…?」
太郎がそれを見て言った。
「違います。"死刻表"です。」
「死…刻表?」
「これには全ての人の死ぬ時刻が記されています…もちろん太郎さんのもね。」
九堂の説明によると,死神には大きく分けて2つの仕事があるという
ー1つ目は死刻の管理
ー2つ目は魂の回収。
1つ目の死刻の管理とは,いつ,どこで,どのように,誰が死ぬか予め決まっており,
鉄道のダイヤと同様に厳密に管理されているという。
たとえ1秒でもズレると現世に大きな影響が出てしまう。
死神は死刻のズレを生じさせるようなリスクを常に監視,管理しているのだそうだ。
2つ目の魂の回収は,そのままの通り,死んで身体を離れた魂をあの世へ回収することだ。
「このとき,魂の回収率は95%以上でなければなりません」
あの世からこの世に転生した魂を100とすると,再びあの世に戻る魂は95以上でなければならない。
「回収できない魂があんのかよ…」
「それが,幽霊です。自然消滅する者もいれば,花子さんのようにこの世に存在し続ける者もいる」
死神がどんなに注意していても回収率が95%を下回りそうになるときがある。
「最初に遭遇した橋の幽霊のように,生者を引き込んだり, 周囲の魂を吸収したりする者がいると回収率は著しく低下します」
しかも幽霊が生者を引き込むことは死刻のズレ (ダイヤの乱れ)に直結する。
「このように,回収率の低下およびダイヤの乱れを正すのが我々の使命なのです。」
「おまえの名刺に書いてあった特殊回収班というのはー」
「通常では回収が難しい地縛霊や憑依霊といった魂を専門に回収する部署です。もちろん,花子さんも監視・回収の対象です。」
「…私は生き返るからな」
「スタンプを貯めてから言ってくださいね」
「だいたい,さっき倒した一条はダイヤの乱れや回収率にもめちゃくちゃ影響してんじゃんか」
一条の幽霊はマンションごと住民やTVスタッフを吹っ飛ばそうとしていた。
「いいですか,今回あなたが救った魂は6個だけです。」
「一条の妻子,山口さん一家…,合わせて6人か」
琴音はまだ成仏していないからカウントされないのだろう。
「…じゃあ,ダイヤの乱れは?一条に吹っ飛ばされそうになっていた大勢の人々を救ったぞ」
「それは,太郎さんの演技と琴音さんの知恵があったからでしょう?」
「ぐ…」
そう言われると今回花子さんはあまり活躍していない。
「説明は以上です。明日からもっとスタンプが押されるよう研鑽を積んでください。」
ーそれが昨日の出来事だ。
TVでは昨日の事件が局所的に発生した竜巻によるものではないかと専門家達が議論していた。
「竜巻なわけねぇだろ。どうしてこう大人は頭が固いんだろうね。」
花子さんは相変わらずTVにツっ込みを入れている。
「人間は自分の知識から逸脱した事象にとても恐怖を感じます。だから,自分が知っている範囲で物事を解釈しようとする生き物です。」
九堂が学者のようなことを言う。
「太郎ッ!ぐだぐだしてないで次のターゲット探しにいくぞ!」
「いや…」
「今度は何だよ…朝飯ならとっくに食べただろ!」
「俺,これから塾の夏期講習」
(続く)




