第2話(幽霊マンション)-6
『幽霊マンションの怪奇現象をついにカメラにおさめる』
ナレーションがおどろおどろしく概要を紹介する。
「おい, これって昨日ロケしてたやつじゃないか?」
花子さんが缶ビール片手にTVを指す。
昨日から朝の情報番組で放送している幽霊マンション特集の続編だ。
昨日, 地方紙の記者である橘から幽霊マンション騒動について詳しく聞かせてもらった。
そして今日, 太郎と花子の二人は橘の取材に同行することになったのだ。
「待ち合わせは11時だからそろそろ出ないとな」
太郎がリビングでくつろぐ花子さんに言った。
「これだけ観てから行こうぜ。我々は部屋には入れないんだからな。」
確かにマンション住人でない限り,住居スペースに無断で入れない。
TV画面は, 霊能者,本郷正音が個人宅に入るシーンから始まった。
『禍々しいモノを感じるわ…』
本郷正音が手をかざしながら部屋の奥へと進んでいく。
マンションの住居スペースは3LDKで, 結構広めのようだ。
番組の取材に合わせて,あらかじめ内部が片付けてあった。
『この406号室の田口さんのお宅では, 最近怪奇現象が頻発しておりー』
アナウンサーが部屋の紹介を始めた。
「昨日, 4階にマスコミが集まってたのはこれを撮ってたのか」
太郎が呟いた。
『…こことここにカメラを仕掛けてちょうだい』
本郷正音がスタッフに指示をしていた。
風呂場横の洗面台,廊下,奥の洋室そしてリビングの計4カ所にカメラが設置された。
画面が定点カメラの映像に切り替わる。
各カメラの画面右下に時刻が表示されており,怪奇現象が撮られた時刻まで早回ししている。
午前2時6分,洗面台上に取り付けられたカメラにTV画面がクローズアップされた。
このカメラからは風呂場とトイレの扉が見える。
ふいに画面から何かが弾ける音がした。
俗に言うラップ音だろうか。
ラップ音は徐々に激しくなっていき, 風呂場の引き戸がひとりでに開いた。
そして何度も引き戸が開閉を繰り返した。
すぐにスタジオの映像に切り替わり,
アナウンサーとゲスト出演者の悲鳴と驚愕の表情が映し出された。
「おい,あのインチキ野郎スタジオ入りしてんぞ」
花子さんがTV画面を指さす。
そこにはスタジオで神妙な面持ちでVTRを見つめる本郷正音の姿があった。
『画面に沢山のオーブも映っていますね』
「おいおい,ただのホコリだろう」
花子さんがTVに向かってすかさずツっ込む。
「よほど昨日の視聴率が良かったんだろうな」
花子さんはやや不満気だ。
『本郷先生,これは霊からの何かしらのメッセージでしょうか』
アナウンサーが問いかける。
『ここにいる霊は非常に怒っていますね。早急に除霊をしないとー』
『これは大変なことになってきました』
嫌というほどアナウンサーがスタジオを盛り上げる。
『明日,現地で公開除霊を行います』
本郷正音が突然宣言した。
『先生がついに除霊するそうです。この模様は生放送でお届けします。』
そこでCMに切り替わった。
「どう思う?」
太郎が花子さんに話しかけた。
「異常だな…」
「異常って, 本郷正音が?」
「それはわかりきってることだ。今言ってるのは怪奇現象のほう」
「どういう風に?」
太郎は花子さんの言う"異常"がわからない。
「おまえ,野生動物のドキュメンタリー観たことあるか?」
「何だよ急に…,もちろんあるよ。それとこれがどう関係あんだよ」
「野生動物を撮影するのに, 現地のガイドに遭遇率が高いサバンナの水飲み場を教えてもらうだろ」
「…そういう流れが多いな」
「そんで,一週間くらい張り込んでようやくゾウやライオンの一部が映り込むだろ」
「…,つまりさっきの映像は怪奇現象が撮れるまでが早すぎるってこと?」
「そう!確立の問題だ。いいか, 幽霊が出る部屋は全部で60戸あるんだぞ。」
昨日の橘の話によると, 幽霊が出る部屋は各フロア東側の6戸であり,
10階建てだと全部で60戸ということになる。
「昨日仕掛けたのがその中の1戸だけだとすると,さっきの映像は上手くいき過ぎやしないか」
確かに, いくら出現頻度が高いとはいえ,番組的に上手くいき過ぎている。
「言われてみれば…」
「いいか,幽霊からしたら物理的干渉ていうのはものすごく霊力を消費するんだ」
「おまえ,余裕でビール飲んでるじゃん」
「それは私が"最強"だからだ。一般的に,この世で自分の存在を保つのに精一杯な奴が風呂場の扉を開け閉めしたりするなんてのは自殺行為だ。」
「既に死んでるから"自殺行為"ではないのでは?」
「いいだろ, 今は別に。揚げ足取りするんじゃない。」
「すみません…」
「さっきの映像を観た率直な感想は,サービス精神旺盛な奴があのマンションにいるってことだ」
「なるほどね」
「あと引っかかるのはあのマンションに張られた結界だ」
「昨日,おまえが弾かれた結界ね」
「なぁ,自分の部屋に鍵かけるときってどんな状況だ?」
「さっきからその謎かけやめろよ。外部から人が入って来ないようにするためだろ。」
「そう,"大人の雑誌"とか読むときだな。家族とかが入ってこれないように。」
「うるせぇ!」
「つまりだ。あのマンションにいる奴は部外者に干渉されたくないはずなんだよ。」
「わざわざ結界を張るってことはそういうことだろうな」
「でもさっきの映像を観るかぎり,"外部に自分の存在を知ってもらいたがっている"ようにしか思えない」
「確かにな…」
「これって矛盾してると思わないか?自分のことを知ってもらいたがっているのに部屋に鍵をかけている」
「根っからの陰キャとか?」
「その可能性もあると思うが,私は別の推理をした」
「ほう,ホームズはどう推理したんだね?」
「茶化すなよワトソンくん。いいか,あのマンションには複数のイレギュラーがいる。」
「気に入ってるんじゃねぇかよ…その設定。で,結論は?」
「各々考えがバラバラなんじゃないかって。仲間というよりかはそれぞれが独立した存在っていう感じ。」
「それが当たり前だろ。元人間なんだし…。」
「あくまで私の予想なんだが,結界を張れるくらい強いイレギュラーが他の弱い奴を縛り付けてるんじゃないかってことだ」
「なるほど,複数の目撃例があるけども容疑者は一人かもしれないってことか」
「そうだ,そいつが山口さん一家を事故に遭わせ,橘の頭上に植木鉢を落とした」
「部外者に干渉されたくない奴なら,幽霊マンションの情報を外に漏らした山口さんと,それを記事にしようとしていた橘さんは邪魔だもんな」
「そうだ,尚且つ場所に縛られることなく犯行できるのはー」
「白い服の女しかいないってことか」
マンション全域に出現できるのは最も目撃例が多い白い服の女だけだ。
「今回の事件,奴を倒せば万事解決だ」
花子と太郎は,橘と合流するべく家を出た。
(続く)




