92ー一緒に飛んだ
「僕も魔法杖や魔道具を作るんだ。長老が作る杖は逸品なんだぞ。世界樹の枝を使っているしな。僕なんか真似もできない位凄いんだ。見せてほしいんだぞぉ」
「ん、いいじょ」
フィーリス殿下は、ずっとその場にしゃがみ込んでハルと話している。そんな話からだ。
「じーちゃんの杖は、めちゃ飛びやしゅいんら」
「ハル、飛ぶだとぅ!?」
「うん、杖に乗って飛ぶんら」
そんな事を聞いたらフィーリス殿下は我慢できない。目がキラキラしたかと思ったら、突然ハルを抱えて城の中を猛ダッシュだ。こんな時のフィーリス殿下は超早い。もう誰にも止められない。
と、いう事で城の中庭で2人して飛んでいた訳だ。当然、ルシカに2人揃ってお説教された。
「アハハハ! ハル、それは凄い!」
「ウフフフ、私も見てみたかったわ」
皇帝と皇后だ。ドラゴンの幼体を見せに来ている。なのに、フィーリス殿下と杖で飛んでいた話で爆笑されてしまった。
「それも気になるが。ハル、ドラゴンの幼体を見せてくれるか?」
「あい」
ルシカがドラゴンの寝ている籠を皇帝に見せる。
「これは……こんなに小さいとは……長老、まさか……」
皇帝もそれを見てあまりの小ささに驚いている。ドラゴンといえば天空の王者だ。ドラゴンブレスだと一息で国1つを焼き払える程の威力がある。そんなドラゴンとは程遠い大きさだ。小さな籠に入れられ目を閉じている。
「そうです。もしかしたら卵の状態で奪われたのかも知れん」
「長老、それはかなり拙いぞ」
「はい。竜王の怒りに触れなければ良いのだが……」
「ふむ。そのクラゲの生息地である地底湖に偶然卵があったとは考えられないか?」
「どうでしょうな? ワシには分かりかねますな。だったとしても、呪詛は確実に人為的なものです」
「呪詛か……とにかくこっちは保護したのだからエルヒューレがどうこうはない。だが、問題はアンスティノスだ」
「はい」
「ドラゴンブレスを放たれると一瞬で消えるぞ。私からも竜王に親書を書こう。ハル、よく保護してくれた」
「あい」
「しかし、ずっとこの状態か? 解呪したと聞いておるが?」
「あい、最初は苔玉らったれしゅ」
「苔玉か?」
リヒトが保護した時からの経緯を話した。湖で保護した時は、苔に覆われた丸いものに翼と尻尾だけがあったと。
「おりぇの精霊眼らと見えなかったかりゃ、じーちゃんに見てもりゃったれしゅ」
「なるほど……長老、その様な呪詛を使える者がいるという事だな」
「陛下、エルフ族は呪詛を使えない。大森林の守護人として生まれたエルフ族は種族的に呪詛系には適性がない。ハルの精霊眼でも見られない程巧妙な呪詛を扱える者など全く思い当たらん。まだ知り得ない事があるのだろう」
「長老でも知り得ない事か……ハルを行かせるのは危険すぎやしないか?」
「陛下、俺が守ります」
「リヒトが強いのは分かっておるが……よく分からん相手がいるかも知れんのだ。しかも呪詛を使う。何よりハルはまだ幼い」
「陛下、今回はワシも同行したい」
「長老、しかし長老にも仕事がある」
「なに、急ぎの仕事はない。仕事よりも曽孫を守る方が大事だ」
「それはそうだが……」
「長老、では北のベースで落ち合うのはどうでしょう? 俺達はまだ1度ベースに戻らないといけないので」
「ふむ……そうだな。それまでに長老には出来るだけ仕事を片付けてもらうか」
長老の同行が決まった。ただし、北のベースからだ。リヒトやハル達はリヒトが管理をしているベースへ1度戻る。それから北のベースへ向かう事になった。
「さて、ハル。フィーリスと飛んだというのは?」
「えっちょ……じーちゃんが魔法杖を作ってくりぇて、そりぇに乗って飛ぶんれしゅ」
「長老、それはフライか?」
「いえ、陛下。フライでもない様で、何なのかは分からんのです。だが、風属性魔法と重力魔法を組み合わせている様ですな」
「じーちゃん、しゅげー。分かってたのか?」
「アハハハ、ハル。ワシはハルよりずっと長く生きておる。ワシが知り得る諸々の中から、だいたいの当たりをつけただけだ」
「長老、ではハルが飛ぶ時に神眼で見た訳ではないのですか?」
「リヒト、見ておらんのだ。是非見たいもんだな」
「一緒に飛んでいたのに」
「何!? 長老も飛んだのか!?」
「アハハハ、それは言いっこなしだ」
「ハル、おじさまも飛びたいぞ」
「いいじょー」
「陛下、駄目ですよ」
すかさず皇后に止められた。
「らめらって」
「皇后、私は飛びたいのだ!」
「陛下、危険ですから」
「仕方ないのぉ……」
やはり、皇后の方が強い。部屋を出るとフィーリス殿下が待っていた。大人しく待っているとは珍しい。
「ハル! 帰ってきたらまた一緒に遊ぶんだぞぅ! それまでに、僕も飛べる様になっているんだぞぉ」
「ん、フィーれんか。楽しみにしてりゅじょ」
意外と2人は気が合うらしい。ハイタッチなどをしている。そうして、リヒトとハル達は一旦ベースへ戻る事になった。
「なんなん!? 馬なん!? 角あるやん!?」
カエデだ。これから乗るユニコーンを見て驚いている。
「かえれ、ユニコーンら」
「ユニコーン!? そんなん伝説やん!? 御伽噺やん!? ほんまにいると思えへんやん!?」
「ユニコーンはエルフにしか姿を見せないのよ」
「ミーレ姉さん、エルフってほんま反則だらけやん!?」
「ユニコーンが姿を見せないのはヒューマン族が悪いのよ」
「またヒューマン族なん!?」
「何千年も昔にヒューマン族がユニコーンを乱獲したんですよ。それを助けて保護し繁殖まで手伝ったのがエルフ族なんです」
「ルシカ兄さん、ヒューマン族って、ほんま有象無象の集まりなんか?」
「アハハハ、カエデは難しい言葉を知っていますね」
「いや、マジでさ。ヒューマン族の良い話ないやん」
「カエデ、すべてのヒューマン族がそうではありません」
「そうやけどさぁ、なんか聞いてて嫌になるわ。自分もヒューマンに奴隷にされとったしな」
「良いヒューマンもいますよ。アヴィー先生の周りはそうでしたでしょう?」
「そうやな……ルシカ兄さん、色眼鏡で見たらあかんて事やな」
「そうですよ」
出発の時にそんな話をしながら、カエデはルシカに乗せてもらっていた。
「飛んでるやん! なんでや!? なんで馬が空飛ぶんや!」
「かえれ、ユニコーンら」
「そうやったわ。ユニコーンやったわ。もう何でもありや」
カエデの気持ちも分からなくはない。が、相変わらず賑やかな猫獣人だ。
読んで頂きありがとうございます!
フィーリス殿下、結構好きなキャラなのですが皆様は如何でしょう?
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