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88ー帰ってきた

 いきなり長老に呼ばれてカエデは長老のそばへと行く。


「猫獣人のカエデだ。ハルに付く事になった」

「カエデです! よろしくお願いします!」


 ピシっと背を伸ばし、ピンと手の先まで伸ばして緊張しながら挨拶をするカエデ。そんなカエデに優しく声を掛けるリヒトの母。


「まあ、あなたがカエデちゃんね。私はリヒトの母よ。話は聞いているわ。ミーレ、カエデちゃんは女の子なんでしょう?」

「はい、奥様」

「今の服装も似合っているけど、可愛い格好もしてみて欲しいわ。ミーレ、あなたに頼めるかしら?」

「はい、もちろんです」

「カエデか。私はリヒトの父だ。まだ子供じゃないか。仕事を覚えるよりも先ずは教育だな」

「父上、そうですね。カエデ、私はリヒトの兄だ。よろしくな」

「は、はい! 一生懸命頑張ります! よろしくお願いします!」


 カエデが深く頭を下げた。


「まあまあ! お利口だわ! まだ小さいのに偉いわね」

「ルシカ、カエデの教育を頼んだ」

「はい、旦那様」

「でも、小さいのにしっかりしてるなぁ」

「にーしゃま、かえれは料理もうまいんら」

「そうか、ならやはり教育担当はルシカだな」

「先ずはゆっくりして疲れをとらなきゃね」

「ハル、風呂行くぞ」

「おう!」


 お決まりだ。リヒトとハルが風呂に向かった。


「じゃ、私も……」


 リヒトの父と兄がついて行こうとする。


「あなた、スヴェト……」

「いや、だってハルが風呂に行くと……」

「長老とお話がありますでしょう」

「アハハハ! 相変わらずじゃな。取り敢えず一連の話をせねばな」

「ルシカ、お願いね」

「はい、奥様。カエデ、行きましょう」

「あ……はい」


 ルシカとイオス、ミーレがカエデを連れて部屋を出る。


「カエデ、私達もお風呂に行くわよ」

「え、ミーレ姉さん。自分もか? そんなんもったいないわ」

「何言ってるのよ。先ずはお風呂に入って綺麗にして着替えなきゃ」


 ミーレに連れて行かれるカエデ。そうだ、アンスティノス大公国では風呂が一般的ではなかった。貴族でもないと風呂に入る習慣はなかった。

 だからカエデは自分にはもったいないと言う。そんな事はない。エルフの国では普通なんだ。

 向こうにいる間、毎日ミーレにクリーンをしてもらっていたから汚れている訳ではないのだが。

 大人達は長老の報告を聞いていた。


「長老、では……」

「ああ、ワシはまだ何かあると睨んでおる。裏におった侯爵を見る事が出来んかったから何とも言えないが。だが、不自然だ。たかが一貴族がどうして知っていたのか疑問が残る。リヒトやハルがいなかったらあの国は危なかったかも知れん。一貴族の逆恨みでは話は終わらん。アヴィーにも話をしてある」

「そうですね。最悪、ドラゴンブレスで一息だ」

「スヴェト、その通りだ。陛下が先に手を回して下さったから良かったものの」

「本当ですわね……」


 何やらまたきな臭い話になっている。


 風呂に入りホコホコのハル。前髪をピョコンと結んでいる。これはリヒトが結んだな。


「かえれ、可愛いじょ。似合ってりゅ!」

「おう! 可愛いぞ」


 ミーレにまた隅から隅まで洗われてメイド服に着替えたカエデ。

 黒いメイド服の上から白いフリフリのエプロン、頭にはホワイトブリムをつけている。


「あかん……こんなん着た事ないし。スカート自体が初めてやし。スースーするし、めちゃ恥ずかしいし」

「アハハハ! カエデ、似合ってるぞ!」

「リヒト様、やめてや! 馬子にも衣装や」

「何言ってんの。可愛いわよ」

「ミーレ姉さんの制服はまた違うやん。ヒラヒラ少ないにゃん。そっちの方がまだいいにゃん」

「私はメイドじゃないから。カエデも勉強して正式な侍女になればこっちの制服になるわよ」

「そうか、色々あるんやな。ま、仕方ないわ。頑張るわ」

「さ、奥様にも見てもらいましょう」

「えぇー、もういいやん」

「駄目よ。これからハルに付くんでしょ。慣れなさい」

「はーい」


 諦めてミーレの後をついて行くカエデ。また、最初の応接室に戻る。


「あら、可愛いじゃない! よく似合っているわ。カエデちゃん、いらっしゃい」

「は、はい!」


 ミーレに背中をそっと押されて緊張した面持ちでリヒトの母のそばへと行くカエデ。リヒトの母が身体毎カエデに向かい手をとる。


「経緯は聞いたわ。カエデちゃん、よく我慢したわね。この国では今迄の様な事は絶対にないわ。毎日しっかり食べてよく寝て、仕事より先にルシカとミーレに色々教わりなさい。ハルの事、お願いね」

「は、はい! ありがとうございます!」

「遠慮する事はないぞ。なんでもルシカとミーレに相談するといい」

「はい!」


 カエデが緊張している。コチコチだ。

 奴隷だった頃には、こんな日が来るとは思いもしなかっただろう。10歳まで、カエデはどんな思いで生きてきたのか想像もできないが……リヒト達に助けられた事が、カエデの良い転機になった事は間違いない。


「りゅしか、りゅしか」

「ハル、どうしました?」

「腹減った」

「あらあら、もうお昼ね。ルシカ」

「はい、では失礼します」


 ルシカとミーレ、カエデが部屋を出て行った。


「りひと、りゅしか達とはべちゅべちゅか?」

「そうだな」

「じーちゃん、一緒に食べりゅよな?」

「ああ。それより、ハル。これからの事だがな」


 これからの事。そうだ、リヒトはベースに戻らなければならない。


「ハル、長老とも相談したのだが……」

「ハルちゃん、この家で暮らさない?」

「とーしゃま、かーしゃま」

「ハルはまだ小さい。母様や長老に色々教わりながらこの家で暮らさないか?」


 ハルは、リヒトの両親と長老、リヒトを見る。


「おりぇ……」

「ハル、遠慮しなくていい。思う事を言ってみなさい」

「とーしゃま……おりぇ、りひとと一緒にいたりゃ迷惑か?」

「何言ってんだ。迷惑な事あるかよ」

「りひと、れもおりぇまらちっせーし」

「確かにちびっ子だがな、迷惑じゃないぞ。でも俺と一緒にいるという事はベースに行く事になるぞ」

「うん、分かってりゅ。れも……迷惑で邪魔じゃないなりゃおりぇは、りひと達と一緒がいい」

「アハハハ! やはりな。そう言うと思ったぞ」

「じーちゃん。れも、じーちゃんやとーしゃま達と会えなくなりゅのも嫌なんら」

「ハル、いつでも会える」

「じーちゃん」


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