81ー長老達は城へ
「ルシカ、イオス、ミーレ頼んだぞ」
「はい、長老」
「もちろんです」
「はい、大丈夫ですよ。側を離れませんから」
ミーレも1度、ほんの少し目を離しただけでハルを攫われるという経験をしている。あの時、ミーレは目の前が真っ暗になり絶望しかけた。
もう2度とあの様な経験はしたくない。ハルを守るんだと、より決意を固くしている。それは、イオスも同じだ。
「コハル、頼んだぞ」
名前を呼ばれてコハルが亜空間からヒョッコリと顔を出した。
「任せるなのれす! 守るなのれす!」
「カエデも頼んだ」
「はい! 長老!」
ニークが腑に落ちない顔をしている。
「ニーク、店をお願いね。夕方には戻れると思うわ」
「いやいや、アヴィー先生。大公に謁見ですよね? 城でですよね?」
「何当たり前の事を言ってるの?」
「だから、先生。此処から1層目にある城まで馬車でどれくらい掛かると思ってんですか?」
「そうね、馬車なら丸1日かしら?」
「ですよ! なのに今日の謁見にどうやって間に合わせるんですか? 無理ですよ」
「あら、ニーク。無理じゃないわ。長老がいるから。ね、リヒト」
「そうですね、長老がいるから」
「おう、ワシがいるから大丈夫だぞ」
カエデは分かっていない。が、ハルはウンウンと頷いている。分かっているのか?
「じーちゃんはしゅげーんら」
「ハルくん、長老が?」
「まあな、ワシはハルのじーちゃんだからな。アハハハ!」
長老、意味が分からない。
「長老、そうじゃないでしょう。ニーク、心配は無用ですよ。長老は転移できますから城まで位なら一瞬ですよ」
「「て、て、転移!?」」
おや、ニークとカエデの声が揃った。
「マジかー!?」
「カエデ、マジだな」
「もう、長老。リヒト様より反則やん! コワッ! エルフさんてホンマ怖いわー!」
「アハハハ! 反則か!」
「はいはい、もう早く行ってきてください。無茶はしないで下さいよ。リヒト様、お願いしますね」
「おう、ルシカ。あとは頼んだ」
「じゃあ、ハルちゃん。行ってくるわね」
「大人しくしとくんだぞ」
「あい! じーちゃんばーちゃん、りひと、いってりゃ〜!」
ハルが、ミーレに抱かれながら手をフリフリしている。
「やだ、ハルちゃん可愛い!」
「もう、アヴィー先生。キリないッスよ。長老」
「ああ、ではな。頼んだ」
長老が何処からか、短い杖を出しリヒトとアヴィー先生と長老自身を囲む様に半円を描いた。
すると、キラキラと光が現れて3人の姿を包み込むと光が消える頃には3人の姿も消えていた。
「おー、じーちゃんしゅげー」
「え……消えた……!?」
「大丈夫ですよ。公都の城近くに転移している筈です」
「ルシカ兄さん、エルフさんは皆できんの?」
「まさか、長距離を転移できるのは長老位ですよ。アヴィー先生とリヒト様は中距離でしたか」
「アヴィー先生も!?」
「ニーク、でないとあんなに早くスラムに伯爵を連れて来れないだろう?」
「イオスさん、確かに」
「そうなん!? まさかハルちゃんでけへんよなぁ〜?」
「ん、無理ら」
「そうやんな〜、ホッとしたわぁ」
「おりぇはまら短距離しか無理」
「できるんやん! 長い短いちゃうやん! できるんやん!」
「アハハハ! カエデ、うるせー」
「だってイオス兄さん!」
「まあ、転移まではいかなくても瞬間移動位なら結構できるぞ。ヒューマンの国ではしない様にしてるけど」
「マジ!? マジなん!?」
「そうですね、私もできますよ」
「……え、イオス兄さんもルシカ兄さんも出来んの!? ミーレ姉さんは?」
「私はできないわよ。ハイエルフじゃないから」
はい、また出た。ハイエルフじゃないからではなく、きっとミーレが訓練しないからだぞ。
「ミーレ姉さん。安心するわぁ〜!」
「何よ、それ」
「アハハハ! ミーレは訓練しないからだ。ちょっと訓練したらできるさ」
「イオス、訓練とかやめて」
ほら、やっぱりそうだ。ミーレは訓練が嫌なだけだ。
「カエデ、少しエルフ族について勉強しましょうか」
「え、ルシカ兄さん。マジ?」
「はい、マジです。ハイエルフとか言われても分からないでしょう?」
「うん、さっぱりや」
カエデの勉強が決定した。早速ルシカのエルフ族とはの即席講義が始まった。
「ミーレ、苔玉は?」
「あまり変わりないわよ。時々尻尾が動くけど。でも、ハル」
「ん?」
「苔玉でしょ? ドラゴンの姿じゃないじゃない?」
「ん……ちっせーかりゃ。弱ってりゅし、まらドラゴンの姿になりぇねーんらと思うんら。れもなぁ……じーちゃんに見てもりゃう方がいいかも。ちょっと気になりゅんら」
「そう?」
「ん」
ハルが籠に入っている苔玉を撫でた。すると尻尾がフリフリと動いた。
「ハル、ちょっとだけヒールしてみるなのれす」
コハルがハルの胸辺りに、亜空間から顔だけ出している。知らない人が見たらホラーだ。
「こはりゅ、ヒール?」
「はいなのれす。ポーションよりハルの魔力の方が馴染みがいいかも知れないなのれす」
「しょう?」
「でも、ほんの少しなのです! まだ小さいから少しだけなのです!」
「ん……やってみりゅ。ひーりゅ……」
ハルが苔玉に手を翳して本当に少しだけヒールを掛けてみた。
苔玉が白くフワリと光った。また尻尾がフリフリと動いた。これはもしかして、喜んでいるのか?
「あら、動いた」
「ん……ちょびっといい感じら」
「アヴィー先生がエルフなので、慣れているつもりだったのですが……普段アヴィー先生は殆ど能力を使っていなかったのですね」
「ニークしゃん、ばーちゃんも本気をだしたりゃしゅごい」
「ハルくん、そうなんだ」
「ん。れも、1番はじーちゃんら。じーちゃんはしゅごい。なんれもれきりゅ。別格ら」
「ハル、そりゃそうだよ。長老だからな。今いるエルフは皆長老に世話になってるんだ」
「いおしゅ、あれ? たぐ?」
「ああ。そん時にな、長老はその人に合ったアドバイスをしてくれるから皆助かってるんだ」
「いおしゅも、じーちゃんにもりゃった?」
「タグか? そうだよ。みんなそうだ」
「タグって、あのタグですか?」
「ニーク、そうだ。俺達エルフは皆、長老にステータスタグを貰うんだ。ヒューマンだとギルドタグが多いんじゃないのか?」
「そうですね。俺もギルドで作りました」
「自分もや」
ルシカの即席講義は終わったのか、カエデが首から下げているチェーンを引っ張り出し先に付いているタグを見せた。