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79ー首謀者か?

 治療を終えてアヴィー先生とニークが部屋に入ってきた。


「驚いたわ。もう、来るなら言ってくれれば良いのに」

「アハハハ、急に決まったんだ。アヴィー」


 まだ半泣きのカエデが気を利かせて長老の膝からおりると、長老は微笑みながらカエデの頭をポンポンとする。そして、アヴィー先生に手を伸ばす。アヴィー先生が長老の手を取る。仲の良さそうな2人だ。離れて暮らしてはいるがやはり夫婦だ。


「まだ帰っては来ないか」

「ええ、もう少し……」

「じーちゃん、ばーちゃん」


 ハルが2人に手を伸ばし抱きつく。


「あらあら。ハル、どうしたの?」

「2人一緒ら。おりぇのじーちゃんとばーちゃんら」


 長老が2人をしっかりと抱き寄せる。

 長老が持つ豊かな包容力と、相手に与える絶大な安心感は2000年以上も生きてきたからこそ滲み出るものなのだろうか。ハルにとっては、前世の祖父母の様で肉親の温かみが嬉しくていつもより甘えている。珍しい。

 ハルが素直に、しかも人前でこんな感情を出せるようになるとは出会った頃には想像もつかない事だ。


「さて、アヴィー、リヒト。ワシが急に来た理由だが」


 アヴィー先生が長老のすぐ隣に座っている。ルシカとカエデが皆にお茶を出している。ハルはしっかりまだ長老の膝の上を陣取っていて果実水を貰って飲んでいる。


「陛下が何か?」

「ああ、リヒト。明日、この国の大公と謁見する事になった」

「まあ……」

「アヴィーとリヒトも一緒にだ。陛下から信書をお預かりしている。陛下は人攫いの件も、毒クラゲの件も重く見ておられる」


 このヒューマン族と獣人族の国『アンスティノス大公国』は王や皇帝が統治するのではなく、選ばれた者が大公位に即き治める国だ。しかも、ヒューマン族と獣人族から交代で即位する。

 基本、4年毎に選び直される。今迄の大公は、最短で1年。最長の大公でも8年だ。平均4年。今は獣人族が大公位に即いたばかりで、まだ1年も経っていない。


「どうもこの国は、ヒューマン族が大公を退いた後に荒れる様だ。次に即位した獣人族の大公が悪いのではなく、ヒューマン族の大公が隠蔽していた問題が表面化するらしい。先のヒューマン族の大公は2年保たなかった」


 もちろん、そんなヒューマン族ばかりではない。しっかりと8年間も大公位に即いて真面目に治めていたヒューマン族の大公もいる。しかし、今回はそうではなかった様だ。


「人攫いだけでなく、奴隷の問題もだ。それに、今回は何処から捕まえてきたのか毒クラゲの魔物の問題もある。たまたまリヒト達がいたから、大事に至る事なく無事に済んでおるがヒューマン族や獣人族だけではこうはいかんだろう。最悪、幾つもの村が無くなりこの街もヤバかったかも知れん」


 退治した事だけでなく、水源や畑等の解毒と浄化が問題だ。そんな広範囲で解毒と浄化ができる能力を持つ者は、ヒューマン族や獣人族にはいない。また、アヴィー先生1人の力では無理だ。

 たまたま、エルフ族最強の1人であるリヒトと、ハイエルフとハイヒューマンの血を継いだ膨大な魔力を持つハルの2人がいたからこそ出来た事だ。

 また、早急に解毒と浄化の薬湯を用意できたのも、リヒトが『鑑定眼』で、ハルが『精霊眼』で見る事ができたからだ。


「その毒クラゲが問題だ。もしも、ヒューマンが手を加えてできたクラゲだとしたら、それをした奴は誰だ? どこにいる? そんな奴がいるのだとしたら危険分子だ。このままにしておく訳にはいかない」


 えらく大事になっている。いや、実際大事なのだ。


「それと、ハル。ドラゴンの幼体はどうした?」

「じーちゃん、まら動かねー」

「そうか。その幼体もどうして湖にいたのかだ。もしも、ヒューマンが攫ってきたのだとしたら大問題だ。ドラゴンは黙ってはいないぞ。奴等はエルフ程、平和的ではないからな」

「ありゃりゃ……」

「アハハハ! ハル、意味分かってんのか!?」

「ん……りひと、当たり前」


 お、ハルさん。急に塩対応になったぞ。


「悪い事しゅりゅ奴が悪いんら。あのクラゲなんて、超たちわりぃ」

「ハルの言う通りだな」

「じーちゃん、ドラゴンも攫わりぇたかも知りゃねーのか?」

「まだそれは可能性だ。だが、あんな所にドラゴンが……しかも幼体がいる事自体が不自然だ」


 そうだ。ドラゴシオン王国から遠く離れたアンスティノス大公国の湖に、ドラゴンの幼体がいるはずがない。


「しかし、長老。ドラゴシオンから幼体を攫ってくるなんて、ヒューマンに出来るのですか?」

「ルシカ、そうなんだ。だが、ヒューマン族の中には高ランクの冒険者がいるだろう? 奴等ならもしかしたら出来るかも知れん」

「長老、もし高ランクの冒険者だったのなら、貴族が動いているぞ?」

「その通りだ、リヒト。だから陛下は事態を重く見ておられる」


 何故、高ランク冒険者が動いていると、貴族が絡んでいるのか? それには、理由がある。それなりの高ランク冒険者に依頼をするには、平民では到底支払えない金額が必要だからだ。と、大人は超真面目な話をしているが、ハルはもう限界みたいだぞ?


「りゅしか、りゅしか」

「ハル、どうしました?」

「腹減った」

「アハハハ、そうですね。お昼にしましょう。カエデ、手伝ってください」

「はいな、ルシカ兄さん」


 ハル、そっちの限界だったんだ。大人しいから眠いのかと思ったぞ。


「んまいッ!」

「美味しいなのれす!」

「アハハハ、ハルちゃんもコハルもいっぱい食べてや〜」

「カエデ、本当に料理上手いな」

「長老! ありがとう!」

「カエデのその言葉は生まれつきか? イントネーションが我々とは違うが」

「多分そうやと思うけど、よく分からんねん」


 長老は引っかかっているのか? まだ何も言わないと言う事は確かではないと言う事か。


「しかし、ドラゴシオンにこの事が知れたら、彼奴らこの国に来るぞ。一瞬でさ、飛んでくるぞ」

「リヒト、もう知られているんだ」

「長老、マジかよ!?」

「ああ。幼体を保護しているんだ。黙っている訳にはいかん。陛下が報告されて取り敢えず納めてもらっている。その事もすべてこの国に関わる事だからな。大公に報告せねばならん」


 関わる事と言うか……もしかしたら首謀者なのかも知れない。


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