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75ー再開発

 アヴィー先生が住む街の問題は完全に解決した訳ではない。子爵の悪巧みは潰したが、問題はスラムだ。なにしろ、家を壊されている。とても住めたものじゃない。


「ばーちゃん、しゅりゃむの人達ありぇじゃ住めねー」


 夕食後、カエデに切ってもらったフルーツを食べながらハルが急に言い出した。

 コハルのほっぺも膨らんでいる。


「ハル。それがね、伯爵が一度全部壊すと言ってるのよ」

「え……」

「あれじゃ危険でしょ? 建て替えてスラム自体を作り替えるのよ。ちゃんと生活用水路や下水道も通して木も植えてね」

「アヴィー先生、やはり再開発ですか?」

「ルシカ、そうなるわね。でもね、悪い話じゃないの」


 伯爵の考えていた本当の意味での再開発だ。どっちにしろ、今の状態だと住めない。これを機に全部壊して新しい家を建てる。水路も通し、ボコボコの道を修繕し、木を植え花を植え街並み自体を変える。その際に、スラムで動ける者は水路造りや家を建てる工事を手伝い技術を覚える。

 道を作ったり植樹をしたり花を植えたり、出来る事を覚えて今後も生活していける様に技術を習得してもらう。

 家が出来る迄の間は、仮設の家になるので不便はあるだろうが今の様に半壊状態になった家よりはずっとマシだ。

 街並みが綺麗になって、仕事に出来る技術を習得すれば生活も変わるだろうと言う事らしい。それは、スラムの住民達にとっては願ってもない事だ。

 今まで何故スラムで暮らしているかと言うと、皆仕事がないのだ。仕事がないと食べていけない。当然身なりも汚くなる。余計に仕事につけない。悪循環だ。

 そのうち、自暴自棄になったり最悪は餓死したりしてしまう。そしてどんどんスラムの環境も、街の人達の印象も悪くなる。

 子爵の様にスラムの人達を追い出す為の再開発ではなく、スラムの人達を生かす為の再開発だ。

 そして、技術を習得した人達で教会も建て替える。後々は、開墾や畑仕事も覚えてもらって、領内の工事や開墾を任せられる様になればスラムの人達も食べていける。スラムが職人達の住むエリアに生まれ変わるのだ。

 元々、伯爵はそんな再開発をしたかったらしい。クラゲの事件は、子爵が税を取れないスラムなんていらないと、自分の欲で勝手に動いていた事だったそうだ。子爵はスラムだけでなく、商人や店や屋台を出している人達にも悪どい事をしていた。この街で商売をさせてやるのだから場所代を払えと言って、税金とは別に取り立てていた。

 今回の事で悪事がすべて露呈してしまい、財産の没収と爵位剥奪になるだろうと言う話だ。

 スラムの再開発にはかなりの資金が必要だが、街の収益の一部をまわし伯爵の私財を一部投入し、国からも援助をしてもらえる様に以前から伯爵は国に計画書を提出していた。

 今回の事件で、子爵から没収される財産はスラムの再開発にまわしてもらえるだろうと言う事だ。


「この街のスラムはね、たまたま働けるのに仕事がない人達ばかりだったの。孤児は教会で引き取っているしね。老人がいなかったからこそ出来る計画なのよ」

「そうですね。ここのスラムは仕事につけない人達の集まりでしたからね」

「そうね、ニーク。ただ、良い事ばかりじゃないわ。スラムを再開発する間の日当は微々たるものらしいわ。ただ、食事はちゃんと出るそうよ。自分の家を自分達で建て替えられるのだから、それは我慢ね。それに、すべて最初から造り直すんだもの何年も掛かる。今迄マトモな生活をしていなかった人達だから大変だと思うわ」

「それでも、良い機会だと私は思いますけど」

「ルシカ、そうね。私も良い機会になってくれればと思うわ」

「あ、ハルとカエデが寝てしまってるッスよ」

「イオス、ベッドに連れて行ってあげて」

「はい、先生」


 イオスがカエデを、ミーレがハルを抱えて部屋を出て行った。


「ハルにはまだ難しい話だったわね」

「いえ、先生。ハルは全部理解していますよ」

「ああ、ルシカの言う通りだな」

「そうなの?」

「アヴィー先生、良い機会だから話しておきます。ハルは違う世界で生きていたと話したでしょう? リヒト様と私は……もしかしてハルはこちらの世界へ来る時に、今の歳になったのではないかと考えています。そう考えないと辻褄の合わない事があるのです。それに、ハルがいた世界はかなり高度な教育が行き届いていた様で、ハルも知能は高いと思いますよ」

「ルシカ、そうなの……? なのに、実の両親から迫害されていたの?」

「らしいですね。ハルの祖父母似な外見が気に入らなかったらしいです。それに、元々ハイエルフとハイヒューマンです。ハルがいた世界でも2人は飛び抜けていた様で、それもハルは似ていて気に入らなかったみたいですね。長老がそんな感じの事を言ってました」

「まあ……何? 自分の子供に嫉妬して妬んで僻んでいたって事?」

「アヴィー先生、それだけではないみたいなんだ」

「リヒト、何?」

「分からないんだよ。ハルが何も話さないそうなんだ。ただ、ハルを苦しめていた原因が両親だから2度と会えなくても寂しくないって言ったそうなんだ。それどころか、自由になれて嬉しいって」

「あの子……一体どんな思いをしていたの……」

「今は俺や俺の家族、ルシカ、ミーレ、長老がいるから楽しいと、寂しくないと言っていたらしい。この世界に来て俺たちと出会って、やっと笑えた、やっと泣けたと話していたそうなんだ」

「もう……リヒト、何なのそれ……」


 アヴィー先生がポロポロと涙を流した。


「アヴィー先生と会った時も、亡くなった大好きなばーちゃんに似てると喜んでましたよ」

「ルシカ、もうこれ以上泣かさないで」

「先生、一緒に帰りましょう。俺達とハルと一緒に」

「リヒト、ありがとう」


 アヴィー先生はそれ以上話さなかった。


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