71ーまたクラゲ退治
そうだ。教会にはあのノンと呼ばれているシスターもいる。なのに、何故子供達だけが……?
「ハル、子供は大人より抵抗力がない。それに身体が小さい。毒の影響が違って当たり前だ」
「しょっか」
「ハル……井戸を見るぞ」
「おう」
ハルを抱っこしたままリヒトは井戸に近寄り慎重に覗き込む……
その時、湖で見た先端が毒々しい鮮やかなピンクの触手が伸びてきた。だがまだ以前見た触手に比べるとずっと細い。
「おおッと!」
「まら、でっかくなってないな」
「ああ。前のに比べたら全然小さいな」
「れも、りひと。ろうやって井戸から出すんら?」
「任せろ。風属性魔法で浮き上がらせてやるさ」
「おぉー!」
リヒト、やる時はやる男だ。カッコいいポジなので是非とも頑張ってほしい。
リヒトが井戸から距離をとり片手を向ける。すると、小さい竜巻きの様な風が起こり井戸の中へと消えて行く……次の瞬間、井戸から湖にいた毒クラゲの小さいものが何匹も舞い上がった。
「うわ、いっぱいいりゅじゃん! こはりゅ! とぉ!」
「はいなのれす!」
ハルとコハルがクラゲ目掛けて突進して行く。
「ハル! だから抱っこしてる時に急にジャンプして下りるのやめてくれ! 心臓がキュッてなるわ!」
文句を言いながらリヒトも剣でクラゲを斬る。今回、リヒトの剣は炎を纏っていた。なるほど、斬ったそばから燃やすつもりだな。
ハルとコハルはまたクラゲをグチャグチャに踏みつけている。まだ短い足をバタバタと動かしている。
ハルさん……君も魔法が使える筈だが……? 踏みたいのか?
「りひと! 斬って! 燃やして!」
「分かってるっつーの!」
いや、だからね。ハルも魔法が使えるだろう?
ハルとコハルで踏み付けて、リヒトが剣で斬りながら燃やして……もう、グチャグチャだ。
「あー、もう面倒だ! ハル! コハル! 離れろ!」
「おう!」
「はいなのれす!」
ハルとコハルがクラゲから距離をとると、リヒトが風魔法を放ってクラゲを切り裂いた。そうだよ。最初からそうすれば良かったんだ。
「燃やすぞ!」
「おう!」
リヒトの火属性魔法で一気にクラゲは炎に包まれた。
「もういないか?」
「うん、いない」
「やったなのれす!」
「りひと、井戸の水……」
「ああ、解毒と浄化だな」
「ん……ちゅいれに畑にもな」
「おう。アンチドーテ」
「あんちどーて」
「ピュリフィケーション」
「ぴゅりふぃけーしょん」
ハルとリヒトが解毒と浄化をして完了だ。
「ふぅ、みっちょんこんぴゅりーちょ!」
「アハハハ! 言えてねー!」
うん、確かにカミカミだが仕方ない。言えないのだから。
2人が子供達の寝ている部屋に戻ると、もうイオスが薬湯を持って戻ってきていた。
「リヒト様、ハル! やっぱクラゲでしたか?」
「ああ、イオス。まだ全然でかくなかった。だが、数がいた。アヴィー先生、これは確実に人為的なもんだ。誰かが井戸にクラゲを投げ込んだんだ」
「リヒト、それしかないわね」
シスターのノンとアヴィー先生が手分けして子供達に薬湯を飲ませていた。
「リヒト、ヒールをお願い」
「ああ、先生。エリアヒール」
白い光が部屋中を包み込み消えていった。
「おぉー、りひとしゅげー」
「何言ってんだ。ハルも出来るだろ?」
「しょっか……?」
「ああ、出来るさ」
「なりゅほろ……えりあか……」
「リヒト、もう井戸は平気なの?」
「ああ、アヴィー先生。全部退治して井戸も解毒して浄化したから大丈夫だ。もう使えるぜ」
「良かったわ! ありがとう! ハルとコハルもありがとう!」
「エヘヘへ」
「どうってことあるなのれす!」
ん? またコハルは言い間違えたか? 態とか?
「アヴィー先生、ありがとうございます。一体何なのでしょう?」
「さあノン。何なのかしらね……」
多分……アヴィー先生が思っている事とリヒトが思っている事は同じだろう。じゃあ、次はスラムか……?
「リヒト様、スラムに向かいますか?」
「ああ、その方が良いだろうな。アヴィー先生」
「ええ、そうね……本当にムカつくわ!」
「アヴィー先生、俺達がスラムに向かうから先生は伯爵に……」
「そうね。任せても良いかしら?」
「はい」
「ノン、後は任せたわ! ハルちゃん! 危ない事しちゃ駄目よ!」
「はい、アヴィー先生! ありがとうございました!」
「あい! ばーちゃん!」
アヴィー先生は出て行った。もう、子供達全員が薬湯を飲んだみたいだ。スヤスヤと寝ている子もいる。
「うぅ……ノン姉ちゃん、俺達……」
「もう大丈夫よ。お熱も下がったわ。手足も動くでしょ?」
「うん」
「アヴィー先生が治してくれたの。このお兄さん達はアヴィー先生の知り合いよ」
「先生の?」
「ああ、大丈夫か? まだ辛いか?」
「ううん、平気。楽になった。兄ちゃん、ありがと」
「おう。もう少ししたら粥を持ってきてくれるから食べな。今日はおとなしく寝ているんだぞ」
「うん、分かった」
子供達の中で1番上の子なのだろうか? ちゃんと、ありがとうが言える良い子だ。
「じゃあ、シスター。俺達も行くから」
「あ、はい! ありがとうございました!」
シスターが頭を下げている。
リヒトがハルを抱っこして歩き出した。
「リヒト様……」
「イオス。だが、オリジ村やオリージャ湖とは距離があるだろう? 治めている貴族も違う。そこがなぁ……どうしてだ?」
「そうですね。確かに」
「ルシカとミーレはどうしていた?」
「はい。2人共驚いてましたよ。ルシカがまだ必要になるだろうと、追加で作ってくれています」
「おう、さすがルシカだ」