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69ーアヴィー先生の悩み

「あの状態で上級魔法まで使えたなんて……ハルちゃん、あなた凄いわ!」

「エヘヘへ」

「いや、アヴィー先生。まだこんなちびっ子なのに上級まで教えるなんて……」

「リヒト、あなた頭が固いわね」

「え!? 俺!?」

「きっとハルは教えた事をどんどん覚えてマスターしたのだと思うわ。それが嬉しくなっちゃったのね。きっとそれで調子に乗って教えたんだわ。もう、2人の嬉しそうな顔が目に浮かんじゃうわ」


 その通りだ! 素晴らしい! さすがアヴィー先生、よく分かっている。


「あー……母上ならやりそうだ」

「長老もね」

「エヘヘへ」

「いや、ハル。笑ってるけど覚えるの大変だったろ?」

「りひと、楽しかったじょ」

「そうかよ、楽しかったのかよ」


 リヒトは、ちょっと投げやりだな。


「ウフフフ、だって貴方達が上級魔法を覚えたのは大人になってからですものね」


 おや、それでか。なんだ、リヒトはハルに負けちゃっているのか?


「アヴィー先生、それが普通ですよ。誰がこんなちびっ子に上級魔法を教えるんスか!?」

「あなたのお母様じゃない」

「う……いや、アヴィー先生。忘れてはいけません。長老もですよ」

「そうね、ウフフフ。よっぽど嬉しかったのね。ハルに会えて嬉しかったのよ」

「ばーちゃん、おりぇも嬉しい!」

「やだもうー! なんて可愛いのかしらー!?」


 はい、お決まりだ。またハルはアヴィー先生に抱き締められた。


「さあさあさあさあ! 今日はもう店終いよ! 帰ってルシカの夕食にしましょう!」


 ルシカが作るのは決定事項らしい。それから皆でアヴィー先生の自宅へ大移動して、ルシカとカエデが作った夕食を食べた。ハルとカエデはもう夢の中だ。


「リヒト、本当に感謝するわ。よくハルを保護してくれたわね。ありがとう」


 アヴィー先生が深々と頭を下げた。


「アヴィー先生、やめて下さい。どうか……」

「リヒト、ルシカ。最初から話してくれないかしら? 聞きたいの。知っておきたいのよ」


 リヒトとルシカが、大森林でハルを保護した時の事から話し出した。アヴィー先生は驚いたり、涙したり、微笑んだりしながら聞いていた。


「そう……きっとラン達が神に頼み込んだのね。そうとしか思えないわ」

「ハルは長老に言ってました。じーちゃんとばーちゃんだけが可愛がってくれたと」

「ええ。最初の頃のハルは、何も信じない、何も頼りにしない、他人を寄せ付けない警戒心の強い子でした」

「貴方達のお陰ね。今はあんなに可愛い顔をして笑えているもの」

「先生、まだまだです」

「ええ。リヒト様の言う通りです」


 2人は話を続けた。いざと言う時、誰かが危険な時、ハルは躊躇なく自分が矢面に立って戦う。周りに大人がいたとしてもだ。先ず自分が飛び出すんだ。


「そう……そうなのね……」

「はい。俺はもっと信じて欲しいんです。俺達がいるから何が起こっても大丈夫だと。頼って欲しい」

「はい。ハルは私の事を守ろうとオークキングを倒した事があるのです。周りに守備隊がいたのにです」

「まあ……オークキングを!?」

「はい。ハルの聖獣と一緒に」

「そうなの……でも、焦ってはいけないわ。少しずつよ。ゆっくりでいいのよ。リヒト達がハルの事を可愛がってくれているのが1番なのよ」

「アヴィー先生、国に戻っては来ないのですか? ハルもいるのですよ?」

「そうね、ルシカ。今はまだ戻れないわ」

「先生……相談してみれば……」

「ニーク、いいのよ」

「先生、何ですか?」

「何かあるのなら話して下さい。俺達にできる事なら協力しますよ」

「リヒト、ありがとう。そうね……とにかく、話だけしておこうかしら……」


 アヴィー先生は戸惑いながらも話し出した。

 この国にはスラムがある。アヴィー先生のいる街にもだ。他の国では有り得ない事なのだ。ヒューマン族と獣人族の国『アンスティノス大公国』では1〜3層以外の層には普通にスラムがあり、食べられなくて行き倒れている人達がいる。

 そして、それは子供でもだ。街の教会が孤児を保護してはいるが、それだけでは目が行き届いておらず奴隷商に攫われ奴隷にされてしまう子供もいる。食べ物がなくて、道端で餓死する子供も……

 アヴィー先生はせめて自分の目が届く範囲だけでもと、スラムの人達や教会で保護している孤児達に食べ物を持って行ったり勉強を教えたり教会に寄付したり、不衛生になってはいけないと定期的にクリーンしたり。ニークの様にアヴィー先生に直接保護されて教育を施し育てられ、独り立ちした子供も1人や2人ではない。何十人もいるんだ。

 そんなアヴィー先生が気にかけている教会とスラムが、この街を治める子爵から立ち退きを要求されている。スラムと教会を解体して、一帯を再開発するのだそうだ。

 しかし、追い出される方は行き場がなくなってしまう。それで、アヴィー先生は何とかしようと子爵と交渉しているのだそうだ。


「それは……酷い」

「リヒトもそう思うでしょう? この国はね、大国だからとにかく人口が多いでしょう。だから、多種多様な人がいて当然なんだけど……でもね、獣人の貴族はそんな事ないのよ。お隣の領地は獣人の伯爵が治めているのだけど、領民と一緒になって畑を開墾したりしているの。獣人は力があるでしょう。身体能力も高いわ。だから、開墾するのもヒューマン族より早いのね。畑が増えると人手も必要になる。作物も多く採れる様になる。そうやって、少しずつ領民が飢えない様にと考えているのね。それも1つの方法だわ」

「じゃあ、アヴィー先生。そんな獣人が領主の街にはやはり獣人が多くなるのですか?」

「そうね、ルシカ。当然そうなるわね。ヒューマン族の中には獣人を差別する人も未だにいるもの。でもね、そんなヒューマンばかりじゃないのよ。この街は子爵が治めているけど、その上に伯爵がいるの。子爵は伯爵から任されてこの街を治めているの。その伯爵が話を聞いてくれる事になったのよ。だから、大丈夫よ」


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