67ーニーク
ルシカとカエデがお茶を出している。ルシカ特製のクッキー付きだ。ハルには果実水。カエデも自分の分の果実水を持って少し離れて見ている。
ソファーに座っているのは、アヴィー先生にハルとリヒトだ。ルシカやミーレとカエデ、馬車を止めて後から入ってきたイオスは3人を取り巻く様に立っている。
「貴方達、構わないから座りなさい。部屋が狭いから立っていられると圧迫感があるわ。ルシカ、そこの椅子も出してちょうだい」
泣きながらも、パキパキと指示を出す……アヴィー先生。性格なんだろう。
「リヒト、ありがとう。わざわざ連れてきてくれて嬉しいわ」
「いや、この国にちょっと仕事で来る事になって。ならアヴィー先生にも会ってきてほしいと長老に頼まれたんだ」
「そう……」
「えちょ、ばーちゃん?」
「ええ、ばーちゃんよ。お昼寝起こしちゃったのね。ごめんなさい」
「ううん、ばーちゃんはじーちゃんと一緒にいないのか?」
「うふふ、エルフは長命種だと知っているかしら?」
「ん……じーちゃんはえっちょ2780歳」
「まあ、憶えているのね。私は2140歳なの。長い人生だからのんびりしているのよ。一緒に暮している時もあるし、時々別に暮している事もあるのよ」
「じゃあ、仲が悪いんじゃないんらな?」
「あら、違うわよ。私の夫は長老だけよ」
「しょっか、良かった」
「あらあら、心配しちゃったのかしら?」
「ん、らってばーちゃんの事はじぇんじぇん教えてくりぇなかった。じーちゃんじゅりーな」
「まあ、フフフ。そうね。ちょっといたずらっ子なところがあるわね。ハルや私をびっくりさせたかったのね」
「しょうなのか!? もう、じーちゃんは!」
「フフフフ、ハル。良く来てくれたわ。嬉しいわ。こんな事があるなんて、夢にも思わなかったわ」
「ばーちゃん、おりぇもら」
パフンとアヴィー先生に抱きついたハル。珍しく甘えている。
「死んらばーちゃんにそっくりら!」
「そう? ランに似てるかしら?」
「うん! ばーちゃんもいつも笑顔れ優しくて綺麗らった」
「ハル……」
アヴィー先生はハルを抱き締めた。
――カランカラン
店の、入口が開くドアベルの音がした。
「アヴィー先生、只今戻りました。あれ? 先生?」
ちょっと待っててね、とアヴィー先生は店に戻る。
「ハル、意外と素直に信じたな」
「りひと、らって本当にばーちゃんに似てりゅんら」
「そうか」
「ん……」
喉が乾いていたのか、ハルは果実水をコクコクコクと飲む。
「いいから来なさい! 平気だから!」
「いや、でも、アヴィー先生! 俺なんて……!」
「待たせたわね。紹介するわ。私の弟子のニークよ」
「は、初めまして。ニークです。アヴィー先生にお世話になってます」
「何緊張してるのよ」
「だって先生、これだけ綺麗なエルフの方々の前だと……気後れして……」
「何言ってんのよ、いいから紹介するわ。私の教え子でリヒト、ルシカ、イオス、ミーレ。で、この子が私の曽孫のハルよ」
そう言いながらハルを膝に乗せて抱き締める。
「ネコちゃんごめんなさい。お名前まだ聞いていなかったわね」
「あ、いえ自分はそんな……」
「カエデ、自己紹介しな」
「リヒト様……はい。自分はカエデです。猫獣人です」
「カエデちゃんね。あなたもまだ小さいのに。よろしくね」
「は、はい!」
珍しくカエデが畏まっている。緊張してるのか?
「ばーちゃん、こはりゅも紹介したいんら」
「あら、コハルちゃん?」
「ん、こはりゅ」
「はいなのれす!」
何もない空間から顔だけひょこっと出しているコハル。
「まあ! 可愛い! もしかして聖獣かしら?」
「うん、こはりゅってんら」
「コハルなのれす! よろしくなのれす!」
「まあまあまあ! ハルのお婆ちゃんよ。よろしくね!」
「はいなのれす!」
「コハルちゃんがいるのは、もしかして亜空間かしら?」
「そうなのれす!」
「ハル! 凄いわ!」
そしてまたハルを抱き締める。うん、キリが無い。エンドレスだ。
「せ、先生……あの……」
「なに? どうしたの?」
「先生に曽孫がいたのですか? それに聖獣って……」
「そうなの! いたのよ! ずっと分からなかったんだけど、戻ってきてくれたのよ! この子達が連れて来てくれたの!」
膝に座らせたハルに頬擦りする。あぁ、紛れもなくエルフだ。聖獣に関してはスルーなのか?
「ニークしゃん、はりゅれしゅ。よりょしく。こはりゅもよりょしく」
「よろしくなのれす!」
「いや……あの……はい。ハルくん? コハルちゃん? こちらこそ……?」
「ハル。ニークはね、人見知りさんなの。ツンデレはオプションだけどね」
「ばーちゃん、おぷしょんなのか?」
「そう。時々ツンデレさんになるの」
「先生! 何を教えてんですか!」
「アハハハ! アヴィー先生、相変わらずですね」
「あら、リヒト。あなたちょっと大人になったわね。あの変な頭もしていないし」
おやおや、リヒト。やっぱあのドレッド擬きの髪型は変だと思われていたんだな。
そろそろリヒト達とはどんな関係か教えてほしいもんだ。教え子とは、どう言う事だ?
「私がね、国で魔法の教師をしていた時の教え子達よ。えっと、みんな何歳だったかしら?」
いや、そんな事はどうでもいい。そうか、本当に教え子だったんだ。
「この子達の親も教え子よ」
なんと!? それはびっくりだ。ああ、ニークもびっくりしている。瞳が落ちそうだ。
「カエデちゃん位の頃かしら。ニークはね10歳位の頃に私のところに来たのよ」
「あ、自分も今10歳です!」
「そうなの? もっとしっかり食べなきゃね。しっかり食べて大きくなりなさい」
「は、はい!」
て、事はだな……ニークは10歳の時にアヴィー先生に引き取られたのか?
「今は歴とした私の1番弟子よ」
ほう。優秀らしい。