59ーカエデ
「ハル、お願いがあるねん」
「ん?」
「自分にちゃんとした名前つけてくれへんか?」
「え……おりぇ? りひとの方が良くない?」
「いや、ハルがいい。自分、ハルに仕えるから」
「えー、おりぇまらちびっ子りゃし」
「うん、だから一緒に遊ぼなぁ〜」
「アハハハ! ハル、良いんじゃねー。名前付けてやったら?」
「りひと……おりぇしぇんしゅないし」
「ハル、どうして? コハルは可愛いわよ?」
「んー、みーりぇまれ……んー、じゃあ『かえれ』」
「え? かえる?」
「ちがうし、かーえーれー!」
「えぇ!? 帰れってか!?」
「アハハハ! ミーレ」
「はい。あのね『カエデ』ね」
「カエデ……」
「ん。髪の三毛の模様がかえれの葉っぱに似てりゅかりゃ。さとうかえれのかえれ。めーぷりゅら」
「ん……? あかんわ。まだハルさんの長文は分からんわ。ミーレ姉さん、何て?」
「フフフ、髪の三毛模様が楓の葉に似てるんですって。サトウカエデって種類のカエデだそうよ。メープルの事ですって」
「姉さん、スゲーな! 完璧やん! ハルちゃん、ありがとう! 可愛い名前や!」
さてさて、こうしてハル付きの新メンバーが決まりました。猫獣人のカエデだ。
「て、ゆーか。まだ聞きたい事あるねんけど」
「何だよ」
「これよ、これ。ほら、さっきからずっと自分の頭の上にいるこの白いのん、なんなん?」
さっきからずっとコハルがカエデの頭に乗っている。マウントをとっているのか?
「そりぇは、こはりゅ」
「ん? コハル? 名前あんの?」
「うん。めちゃ強い」
「え……マジ!?」
「コハルはハルの聖獣だ。ハルを守護している。まだ小さいけど強いぞ。獣人のお前でも足元にも及ばないな」
「リヒト兄さん、ほんまなん!? てか、聖獣て何なん!? 聞いた事ないねんけど!」
「アハハハ!!」
「コハルはコハルなのれす! ハルを守るなのれす!」
「ぅうーわ! 喋ったし!」
「うるさいなのれす!」
コハルがカエデの頭を片足でタシタシと踏みつけている。本気ではなさそうだ。もしもコハルが本気なら……
カエデはもう死んでいる……アターッ!
「兄さん、マジ喋ってるけどいいの?」
ルシカが堪らず出てきた。言わずもがな教育担当だろう。
「カエデ、そこに座りなさい」
「はい?」
素直に床へペタンと座るカエデ。
「いいですか? 兄さんではなく、リヒト様。リヒト様はエルフ族の国、エルヒューレ皇国の皇族です。詳しく言うと、現皇帝陛下の弟君のご子息です。分かりますか?」
「はいぃッ!? そんな偉い人やなんて知らんやん!」
「ですから、今教えています。ハルはリヒト様の弟の様なものです。詳しく言うと、国の皇族であり長老の曾孫です」
「えっ……ハルちゃんも偉いん?」
「えりゃくない。えりゃいのはおりぇのじーちゃん。おりぇはえりゃくない」
「あかんわ、気が動転して余計に分からんわ」
「アハハハ!」
リヒトが面白がって見ている。
「私はルシカ。リヒト様の従者です。ミーレは侍女。イオスは執事見習いです。私たちには、さん付けで良いですよ」
「ん、りゅしかの飯は超うまい」
「アハハハ! ハル、合いの手かよ!」
「リヒト様、ハッキリさせておきませんと」
「まあ、ルシカ。ボチボチで良いさ。今迄散々キツイ思いをしてきたんだろうし。孤児で拾われて奴隷にされて、よく生きていてくれたよ。まずはもっと肉つけないとな。まだちびっ子なのにガリガリじゃねーか。カエデは本当に10歳か?」
「え、多分やわ。だから孤児やからハッキリとした事は分からんねん」
「ちょっと見ていいか?」
「あ? 見るってあれか? なんとか眼か? ええで」
「よし」
カエデを見つめるリヒトのブルーゴールドの瞳がゴールドに光った。
「おう、確かに10歳だな。お前猫獣人の中でも希少な純血の三毛じゃねーか。魔力もちょっと持ってる。身体能力が半端ねーな」
「え、そんな事まで分かるん? ちょっと凄すぎて引くわぁ……」
「かえれ、スカートはく?」
「いきなり話変えよるな、ハルちゃん。嫌、動き易いからこれでいいわ」
「え、ダメよ」
「みーりぇ、なんれ?」
「今は仕方ないけど、本当にハルに仕えるならお邸に戻ったらまずはメイド服よ」
「あー、かぁわいぃ〜」
「マジ……!?」
「アハハハ!」
「て、言うか……皆さん! 自分、頑張りますんで、よろしくお願いしますッ!」
カエデが、ガバッと頭を下げた。
「おう、宜しくな」
「うん、よりょしく」
「よれしくなのれす」
「はい、宜しくお願いしますね」
「よろしくね」
「アハハ、よろしくな!」
リヒトが言う様にまずは肉だ。痩せすぎで栄養が足りていないとそれだけ体力も無くなる。病気に対する抵抗力も低くなる。肉をつけて体力をつけてからだ。
カエデはハルと似たところがあるのかも知れない。出会った頃のハルを思い出す。
きっとリヒト達は、なんだかんだ言っても可愛がるんだ。カエデもまだまだ子供なんだから。
カエデもリヒト達に保護されて良かったんだ。
「りゅしか、腹へった」
「はい、ハル。私は作れませんが、見てきましょう」
ルシカが部屋を出て行った。領主邸は人攫いの件で半分パニック状態だ。邸の執事やメイドが捕らえられたのだから仕方ない。
リヒト達は最初に泊まった宿屋へまた戻ってきている。こっちの方が気を使わなくて楽だ。
いくら、令嬢がマシになったと言ってもやはり自分達だけの方が気楽でいい。
カエデちゃん、宜しくお願いします!
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