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53ー人攫いの集団

「ハル、待って……」


 令嬢が今までとはまったく違う落ち着いたトーンの喋り方でハルを呼び止める。そして、ハルの目線に合わせる様にしゃがんだ。

 令嬢の目からポロポロと大粒の涙が流れ出した。


「ハル……ごめんなさいー! 迷惑かけてごめんなさいぃ! うぅぅ……」


 令嬢が涙を流しながら話す。


「あなたは……グス……まだ小さいのにぃ……ヒック……私のせいで迷惑かけちゃったわ! お昼寝もちゃんとできなくてぇ……ヒック……ごめんなさい!」

「ん、気にしゅんな。らいじょぶら」


 ハルは泣きじゃくる令嬢の肩を、小さな手でポンポンとする。どっちが大人なのか分からない。


「ハル、ありがとう……皆さん、たくさんご迷惑おかけして申し訳ありませんでした……ヒック……ルシカさん、いつも根気強く私が理解出来るまで説明して下さってありがとうございましたぁ! 今迄そんな事をしてくれた人はいなかった! グス……本当に……ありがとう……ヒック」


 リヒト達に泣きながら頭を下げる令嬢。おやおや、どうした?


「ハル、どうなってんだ?」

「多分らけろね、強気にしていないと誰も相手にしてくりぇないみたいな感じらと思う。母親の真似してりゅんら。みんな忙しいときに突っかかりゃりぇりゅと、面倒がって間違ってりゅって誰も言ってあげなかったんじゃないか? そのままきちゃって今更戻りぇなくなって、どうしたりゃいいか分かんなかったんじゃないかな?」

「そうなのか? エレーヌ」

「お父様……ヒック……誰も……誰も私を見ていないのです! 誰も相手にしてくれないのです! お母様の真似をしたら皆言う事を聞いてくれたから……グス……だってお母様のしている事ですもの! 間違っているなんて思わなかったのよ!」

「そんな事だったのか……」

「お姉しゃん、甘えん坊なんらよ」

「ハル、酷いわ。恥ずかしいからやめてちょうだい!」

「アハハハ!」

「ハル、本当にごめんなさい。ハルに無理矢理やらされて悩んでいたのが馬鹿らしくなったわ。吹っ切れちゃった。ありがとう!」

「ふふん。いいよ〜」


 何でだ? 何で、部屋に入るマナーを教えただけだろう?


「フフフ、小さなハルがするから素直に聞けたのかも知れませんね」

「ルシカ、そういうもんか?」

「さあ、どうでしょう? 私にも分かりません」

「なんと素晴らしい! エルフの方々はこんな事も……」

「じーしゃん!」


 ビシッとハルが前領主である令嬢の祖父を指さす。


「じーしゃんもらめ! じーしゃんの娘がらめらからなんらよ! 分かってんのか!?」

「すみません、私には何を言っているのか?」

「ブハハハ!」

「リヒト様、笑ってはいけませんよ。アハハハ」


 ルシカも笑っているじゃないか!


「失礼、あなたも駄目だと言っています。あなたの娘が駄目だからだと」

「そ、それは……申し訳ない……」


 確かにじーさんダメダメだ。


「皆様、少し話を聞いて頂けませんか? エレーヌも座りなさい」


 伯爵は話し出した。伯爵は婿養子だった。前領主が今いる義父だ。義父から領地を継いで、ずっと尽力している事があるのだそうだ。

 それは、長い間子供が出来なかったからこそ余計に気になり、放っておけなくて着手したのかも知れない。

 他領に比べて獣人や幼児の誘拐が多発しているのだそうだ。特に獣人らしいのだが。大森林に近い事もあり、森に逃げ込まれてしまうとなかなか尻尾を掴めないのだそうだ。


「何十年も掛かって漸く人攫いの一団が存在する事を突き止めました。その矢先に娘が誘拐されたのです。今まで無事に戻ってきた子供はおりません。行方さえも分からないままです。ですので、諦めておりました。それが無事に娘が戻ってきて、しかもオークに囚われていたというではありませんか。正に奇跡です! 本当に心からお礼を申し上げます。ありがとうございました」


 伯爵が頭を下げると、令嬢も一緒に頭を下げている。なんだ、やろうと思えばできるんじゃないか。しっかり、勉強しろよ。


「なるほど。人攫いの馬車は、我々ガーディアンに見つからない様に森の浅いところを移動していた様です。そこをたまたまオークキングが出現して増えていたオークに襲われたのでしょう。我々の方でも、襲われた馬車が人攫いだと判明してから調査をしております。その人攫いがこの領地内にアジトをもっているという事でしょうか?」

「はい。領内に必ずあると私は睨んでおります。しかし、娘を放っていたつもりもなかったのですが。エレーヌ、すまない。気付いてやれなくて、すまなかった」


 いやいや、伯爵だけの責任じゃないからね。母親も義父もだ。


「領地の人達も迷惑していた様ですよ」


 ルシカがハッキリと言った。ルシカが1番令嬢の世話をしていたからな。


「申し訳ない事をしました」

「お父様、私が悪いのです! 明日から迷惑を掛けた方々に謝りにまいります」

「お姉しゃん、お邸の人達にもね」

「ハル、先ずはそうね。皆に謝らなきゃ」

「うん」


 ――コンコン


「失礼致します! 伯爵! 子供が攫われたと通報があり、今衛兵が誘拐犯の馬車の後を追っております!」


 この街の衛兵らしき男性が報告にやって来た。


「なんだと!」

「それが、やはり森に向かっております!」

「森に入るまでになんとか捕らえるんだ!」


 伯爵が指示を出し立ち上がる。今度こそだ。ラッキーな事にリヒト達もいる。


「ルシカ、パーピを」

「はい、リヒト様」

「伯爵、エルフのベースからも捜索に人を出す。馬車の場所は詳しく分かるか?」

「そんな事ができるのですか!?」

「ああ、伯爵。今すぐ連絡をとる。場所を詳しく教えてくれ」


 エルフが出るなら森に逃げられたとしても楽勝だ。


「伯爵、もっと早くベースに相談してくれれば良かったんだ。我々はいつでも協力を惜しまない」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 リヒトとルシカが伯爵と一緒に部屋を出ていった。


「ハル、私から離れないでね」

「ん、みーりぇ。りひととりゅしかも出りゅのか?」

「どうかしら? 場合によるんじゃないかしら?」

「みーりぇ、べーしゅとろうやって連絡とりゅんら?」

「パーピと言ってね、一瞬で連絡してくれる蝶がいるのよ。リヒト様やルシカとイオスが持ってるわ。ハイエルフだから」

「蝶ちょ!」

「凄いでしょ? しかもヒューマンには見えないのよ」

「うわ、しゅごい!」


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