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48ーネコちゃん

「りひと、誰か倒りぇてりゅじょ!」


 ハルが進行方向を指差した。確かに、人らしきものが道端に倒れている。どうした? 何事だ? 近くに行くと人ではなく……


「ありぇりぇ? お耳と尻尾がありゅ」

「ハル、これは猫獣人だな」

「ねこちゃん!」

 

 いやいや、猫ちゃんではなく、猫獣人だ。

 赤茶色と白と灰色の三毛模様で、ショートカットにした髪の間から耳がでている。膝丈のパンツのお尻には猫らしい長い尻尾もある。しかし、まだ子供だ。人間だと8歳位だろうか? 


「おい、どうした?」

「リヒト様、生きてますか?」

「大丈夫だ、生きているぞ。これは、多分だが……」


 リヒトのブルーゴールドの瞳が一瞬だがゴールドに光った。軽く鑑定で状態を見たらしい。


「うん、やはり腹が減ってるんだな」

「え……マジ?」

「ああ、ハル。マジだぞ。これから行くアンスティノス大公国では道端に行き倒れている奴もいるんだ」


 あり得ない。エルフの国ではなかった事だ。しかも猫獣人はまだ子供だ。ガリガリに痩せている。


「リヒト様、どうします?」

「ルシカ、もう少し行ったら野営地があったよな?」

「はい、たしかありましたね」

「そこまで連れて行こう。何か消化の良いものを作ってやってくれ」

「分かりました」


 また、パカパカと馬と馬車は進む。倒れていた猫獣人はルシカが抱き抱えている。



「ん……あ、あれ?」


 野営地について、皆が食事を終えた頃にやっと気がついたらしい。


「お、気がついたか? ほら、水飲みな」

「あ、ありがとう……て、お前誰やねん!」

「お前が街道に倒れてたから助けたんだよ。腹減ってんだろ? それ飲んだら食べな」


 ルシカがリゾットを持ってきた。ミルクで煮込んである。お腹に優しいリゾットだ。


「いいんか!? 食べていいんか!?」


 目がキラキラしているぞ。よっぽどだな。一体何日食べていなかったんだ?


「ゆっくり食べな。何日も食べてなかったんだろ? 腹がビックリするからゆっくり食べんだぞ」


 その様子を令嬢が見ている。黙って……いつも煩い令嬢が気持ち悪い。


「ありがとう! いただき!」


 ゆっくり食べろと言われているのに、焦って口に入れた。


「アァッチ!」


 猫だけに……猫舌だった。


「だからゆっくり食べろと言っただろう?」


 リヒトが言っているのも耳に入っていないのか? フーフーと冷ましながら慌てて食べている。


「生き返ったー! 兄さん、ありがとう! ほんまに、ヤバかった!」

「お前、大丈夫か? 街まで行くのか?」

「そうやねん! 街まで帰るのに途中で食料がなくなってしもて、ほんま焦ったわ! 万事休すやったで!」

「俺達も街まで行くんだ。乗せてってやろうか?」

「ほんま!? いいんか!? 兄さん良い人やなぁ!」


 この猫獣人、関西弁か? 空腹で倒れていたのに元気なやつだ。何故かハルは猫獣人をジッと見ている。


「俺はリヒトだ。お前名前何てんだ?」

「自分はネコや」

「いや、猫獣人なのは分かってっから名前だよ」

「だからネコやって。自分は孤児で拾われて、それからずっとネコって呼ばれてんねん」


 マジか……ちょっとみんな引いてるぞ。

 ハルがトコトコと側に歩いて行く。


「なあ、ネコちゃん」

「あ? 何やこのちびっ子。めちゃくちゃ可愛いやん」

「ネコちゃん、尻尾触りゃしぇて」

「嫌や! 何でやねん!」

「ハル、駄目ですよ。獣人にとって耳と尻尾はデリケートなんですから」

「兄さん、よう分かってるやん」

「しょうなのか? じゃあ耳触りゃしぇて」

「いや、だから聞いてたか? デリケートなんやで。あかーん!」


 ハルは諦めきれない様子だ。


「ちびっ子、ハルって言うんか?」

「ちびっ子にちびっ子って言わりぇたくねー」

「お前より大っきいわ!」

「れも、ちびっ子ら。一緒らな!」


 何故か嬉しそうだぞ。ハル、どうした?

 ネコは御者をしているイオスの隣を嬉しそうに陣取っている。猫獣人が増えてまたパカパカと馬と馬車は走る。

 夜は夜でネコはよく食べた。


「めっちゃ美味い! 兄さん、天才!」

「りゅしかの飯は超美味いんら。いっぱい食べりゅんらよ、ネコちゃん」

「ちびっ子に言われるとなんかムカつくわ」

「キャハハハ、ちびっ子のくしぇにぃ」

「お前より大っきいわ!」

「ネコちゃん、尻尾触りゃしぇて」

「だからあかんて言うてんねん!」

「ネコちゃ〜ん! なれなれしたい!」

「もうハルは眠いみたいね」

「みたいだな、ミーレ頼む」

「はい、リヒト様。ハル、いらっしゃい」

 

 ハルがミーレに呼ばれてトコトコと側に行く。ミーレがハルを抱っこして背中をトントンとし出すと直ぐにハルは寝る体制になった。背中を丸くして小さな身体をより小さくして、ムニャムニャと寝る時のお口になっている。


「ほんま可愛いなぁ〜。ええ子やなぁ〜」

「ネコ、お前街に帰るとこあんのか?」

「ん? ああ、自分仕事の帰りやってん。大森林まで行ってたんやけど思ったより手間取ってしもてな。ちょっと軽く見てたのがあかんかった。自業自得ってやつや」

「そうか、ならいいんだが」

「兄さん達は? あの令嬢はヒューマンみたいやけど、兄さん達エルフなんやろ?」

「ああ、俺達も仕事だ。あの令嬢を街まで送ってくんだ」

「そうか、仕事なんや。自分と一緒やな。あのちびっ子もエルフか?」

「そうだ。俺の弟だ」

「へえ、エルフってホンマに綺麗なヤツばっかなんやな。あのちびっ子といい兄さん達といいさ。こんなとこにいると、掃き溜めに鶴やわ」

「なんだ?」

「こんなとこに似合わないような綺麗な人って意味や。知らんのか?」

「知らねーよ! アハハハ! お前、面白いな! まだちびっ子なのによくそんな言葉知ってんな」

「なんでやねん! だから自分はちびっ子ちゃうし! これでももう10歳や! 多分やけどな」

「10歳か!? 8歳位かと思ったぜ」

「変わらんて!」

「お前、大丈夫か? ちゃんと食べさせてもらってんのか?」

「オカンかよ! 兄さん綺麗のに残念やな。まあ、情けは人の為ならずって言うしな。アハハハ」


 意味不明……リヒト達はさっぱり意味が分かっていない。


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