47ーガンガン飛ばす
ユニコーンをガンガン飛ばして昼休憩だ。騒ぎ疲れたのか令嬢はグッタリしている。その方が静かで良い。ハルはマイペースだ。ルシカの作った昼食を食べている。
「りゅしか! んまい!」
「そうですか、良かった」
あらあら、ルシカも疲れている。そりゃそうだ。ずっと令嬢に騒がれていたのだから。
「ルシカ、俺代わろうか?」
「イオス、ありがとう。でも、今日1日は頑張りますよ。申し訳ないですが、明日代わってもらっても良いですか?」
「ああ、分かった」
ミーレも喋らない。最悪の空気だ。
「ハル、休憩できないから俺にもたれて昼寝すんだぞ」
「ん、りひと。らいじょぶら」
「怖くないか? 行きより飛ばしているから」
「らいじょぶ! おもしりょい!」
「アハハハ、そっか! ハルは良い子だな!」
本当に、良い子だ。オアシスだ。皆がそう思っただろう。まだハルは小さい。体力的にもキツイだろうに文句の一つも言わない。
休憩もそこそこに、令嬢がおとなしいうちに出発だ。また怖がって疲れて大人しくなってくれる方が良い。
1日ぶっ通しでユニコーンは飛び、もう大森林の半分位まで来た。
ハルはユニコーンに乗ったまま少し昼寝をして、夕食もしっかり食べた。そしてもうスヤスヤとミーレに抱かれて寝ている。
令嬢は、食欲もないらしく1日大人しくしていた。最初にギャーギャー騒いで疲れたのか? それとも余程怖かったのか? 夕食もそこそこに、グッタリと寝ている。
「かなりの強行ですが、距離は稼げましたね」
「ああ。ルシカ、だが明日はもう少しペースを落とさないとユニコーンに負担が掛かり過ぎるだろう」
「明日は少し走りますか?」
「そうだな、休憩も入れよう。ハルにはキツイだろう」
「ハルは良い子ッスね」
「そうだな、イオス。本当にな。ハルの方が小さいのに……」
「何とも思わないんスかね?」
「イオス、何がだ?」
「自分より小さな子が大人しくしているのに……て、事ですよ」
「ああ、それは多少思ったみたいですよ」
「ルシカ、そうなのか?」
「ええ、リヒト様。お昼寝しているハルをリヒト様が抱きかかえて乗っていたでしょう? その時に言ってましたから」
何をだ? と、リヒトとイオス。ミーレはハルを腕に抱えながら一緒に寝ている。
「小さな子が寝ているのにどうして休憩しないのかと聞かれました。その理由を理解させるのもまた大変だったのですがね。自分のせいだとは理解した様ですよ」
「ルシカ、お前ユニコーンで飛びながらまた説明していたのか? スゲーな。尊敬するわ。俺、喋りたくないし」
イオスが思いっきり頷いている。ルシカは忍耐強い。ハルに言わせると、頼りになるヤツだ。
「私も嫌ですよ。しかし、理解できたら素直に謝罪できる様ですからね。自分がどれだけ迷惑をかけているのか位は理解してもらわないと」
確かに。ルシカの言う様に迷惑かけまくりだ。しかし、どうしたらあんな風に育つのか?
「あー、親父が言ってましたが令嬢は独りっ子だそうですよ。それも、遅くにできた子らしくて令嬢の両親が甘やかしまくりで育てたらしいです。街でも迷惑令嬢と有名らしいですよ」
迷惑令嬢だと? イオス、そんな事を何で知っている?
「救出して保護していると知らせを出した時についでに調べたみたいです。城での態度があまりに酷かったので迎えにこれないかとも聞いたらしいですね」
そうなのか!? 令嬢は一体城でどんな事をしていたんだ?
「イオス、ヒューマンは大森林の中を来れないだろう?」
「そうなんですよ。だから、何としても送り届けて欲しいと言ってきたらしいです」
「とにかくベースまで行けばな。そこから馬車に乗り換えて乗せておけば静かになるだろう」
そうだと良いが……やはり、そうはならなかった。ベースに到着して風呂に入り一泊して出発する時だ。
「どうして!? このまま飛んで行く方が早いじゃない!」
両手を腰に当てて、今度は馬車が嫌だとゴネている。
「ですから……」
と、またルシカが説明しようとした時だ。ミーレがツカツカと近寄り令嬢の頬を引っ叩いた。
――パシンッ!!
「何するのよ! お父様にだってぶたれた事ないのに!」
「あなた自分の立場がまだ分からないの!? 大森林は抜けたわよ! 文句があるなら、ここから1人で帰りなさい! それが嫌なら黙って馬車に乗る! どっちにするの!?」
ミーレがビシッと馬車を指差す。令嬢はスゴスゴと馬車に乗り込んだ。
「みーりぇ、しゅげー!」
「もう! イライラするのよ!」
ミーレの気持ちはよく分かる。
「ハル、どうする? 馬車に乗るか?」
ブンブンと首を横に振るハル。そりゃそうだ。あの令嬢とは一緒にいたくないよな?
ベースの者達もたった一泊しただけなのに、リヒト達を可哀想な目で見ている。
あと少しの我慢だ。ベースから令嬢の父親が治める領地まで数日かかるが、一緒に馬に乗るよりはマシだ。
パカパカと馬車が行く。イオスが御者をしリヒトが相変わらず前にハルを乗せ、ルシカとミーレも普通の馬に乗り換えている。普通より少し早足で馬車は進む。先を急ぐかの様に。
ハルは初めて大森林を出た。広大な草原の中にある街道を馬車は進む。ハルは時々、御者のイオスの横に乗ったり、リヒトに抱っこされながら昼寝をしたり。休憩は最低限で馬車は進む。
そしてやっと明日には街が見えてくるだろう距離まで来た。
「大人しくなったな」
「リヒト様、あれでも令嬢ですからね。旅には慣れていないのでしょう。疲れて喋る気力もないのだと思いますよ」
なるほど。それでもパカパカと馬と馬車は進む。