45ー可愛い子には……
ハムハムとハルとコハルがドーナツに夢中になっている。
「ハル、フルーツジュースよ」
「かーしゃま、ありがちょ」
もう既に本当の親子の様だ。
「長老、何のお話でした?」
「ああ、ハルもヒューマン族の国に行くのなら髪色を魔法で変えるかと話していたんだ」
「ハルがわざわざ危険な国に行くことはないわ」
「まあ、そうなんだが……他の国も見てみたいのだそうだ」
「私は反対ですわ」
ハルがドーナツにかぶりつきながら上目遣いで様子を伺っている。まんまるな瞳が長老とリヒトの母との間を行ったり来たりしている。
「ワシもハルは安全な国で健やかに育って欲しいと思っとるさ。だがまあ、なんと言うかだな……可愛い子には旅をさせよだ。ハルが見てみたいと言うなら見せてやりたい」
「長老……」
「それにリヒトがいるだろう。エルフ族最強の5戦士の1人であるリヒトがな。なんならワシも一緒に行こうかの?」
「長老、それは無理でしょう」
「アハハハ、まあ戯言だ。だが、もう少しハルと話してみてはくれまいか?」
「そうですわね……皆が帰ってきたら話してみますわ」
長老がコッソリとハルに目配せをした。ハルは満足気だ。長老が一言言ってくれるだけで充分だ。後はハルが自分の言葉で話をしよう。
そして、夕食後。皆が集まっている。ハルが同行するかどうかの話し合いだ。
「私は反対だ。態々ヒューマン族の国になど行く必要がない。こんなに可愛いハルがヒューマンの国になど行ってみろ! 何をされるか分かったもんじゃないぞ!」
「父上、先にハルの話を聞きましょう。ハルは行きたいんだな?」
「うん、にーしゃま。れもどうしてもじゃない。おりぇが行く事でとーしゃまやかーしゃまに心配かけりゅならやめりゅ」
「ハル、それはハルが我慢するって事か?」
「りひと、我慢……かな? わかりゃん。れも……おりぇは心配かけたくない。迷惑もかけたくないんら」
「父上……」
「ハル、父様と母様がハルの事を心配するのは当たり前なんだ。ハルはもううちの子と同じなんだからな。もちろん迷惑なんかじゃないぞ。ハルももう分かっていると思うがヒューマンはエルフとは違う。それでハルが傷付くのは嫌なんだ。それに、ハルはまだ小さい」
「とーしゃま、ありがちょ」
ハルはちょっと照れ臭そうだ。正面から愛情を掛けられる事にまだ慣れていない。
「ハル、思う事を言ってみな?」
「りひと、おりぇは行ってみたい。エルフの国以外も見てみたい。ヒューマンの国らから行きたいんじゃなくて、いりょんな国を見たいんら。この世界のいりょんな事を知りたい、見てみたい、経験したいんら」
「父上、母上、俺はハルの気持ちを尊重したいと思います」
「リヒト、お前が必ず守ると言えるか?」
「もちろんです。俺が守るよ。ヒューマン族なんかに負けません」
「リュミ、長老は何と?」
「長老もリヒトと同じ意見ですわ。ハルの髪色を魔法で変えようかとまで仰ってましたわ」
「そうか……」
決まりだな。
「コハル、出てきてくれるか?」
「はいなのれす!」
「コハル、ハルを必ず守ってくれ」
「もちろんなのれす! とーさまとかーさまは安心しているといいなのれす!」
「ハル、父様達は待っているからな。無事に帰ってきなさい」
「とーしゃま、ありがちょ!」
「仕方ねーな。ハル、一緒に行くか」
「うん! りひと、よりょしくな!」
「アハハハ! 任せとけ」
「リヒト、お前たちがいない間のベースの管理者代理を頼まなければならない」
「父上、兄上ですか?」
「いや、私は父上の補佐をしているからダメだ」
「では、誰が?」
「リヒト、ミエークだ」
「あぁ、ミエークなら……でもミエークは守備隊のキャプテンの任についてませんでしたっけ?」
「ああ、暫くは副キャプテンに任せてくれるそうだ」
「父上、宜しく頼むと言っておいてください」
「ああ、まあ大丈夫だろう。弟とは違って」
「ブハハハ、確かに」
ミエークとは、リヒトの父の弟の長男だ。217歳。
リヒトの父の弟は、国の守備隊の総隊長だ。その長男のミエークも守備隊で部隊長をしている。今回、リヒトが帰ってくるまでの間、管理者代理としてベースで管理者の仕事をしてくれるらしい。弟は少しフィーリス第2皇子に似ているらしい……残念な事に性格が。それで、リヒトが笑ったんだ。
なんせ、もう長く留守にしている。1週間程でベースに戻る筈がもう2週間になろうとしている。このままベースを管理者不在にしておく訳にはいかない。
「ハル、母様は心配だわ。本当に気をつけてね。絶対に1人になっては駄目よ」
「うん、かーしゃま。らいじょうぶら」
「ハル! 母様も一緒に行こうかしら!」
「それなら父様が一緒に行こう!」
あぁ~、また始まった。2人のハル可愛さゆえの脱線は毎回だ。
「父上、母上、無理な事は言わないでください」
「まあ、リヒト。無理じゃないわよ。ねえ、ハル。ハルだって母様と一緒に行きたいわよね?」
「えっちょ……かーしゃまはここれ待っててほしいな。おりぇは必ず戻ってくりゅかりゃ」
「まあ! ハル、分かったわ! 母様待ってるから必ず無事に戻ってきてね」
「うん、かーしゃま」
ハルも母の捌き方が上手くなっている。
次の日、ハルはやって来た長老に髪色を変える魔法を教わっていた。
「なんだ、ハル。楽勝じゃねーか」
「うん、じーちゃん。簡単らった」
「アハハハ、簡単か。まあしかし、ハル。気を付けて行ってくるんだぞ」
「うん、じーちゃん」
こうして、ハルの準備も進んでいった。