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38ーハルの祖父母

「ち、長老……! 何を!?」

「リヒト、間違いない。ハルはワシの曾孫だ!」

「えッ!? 長老の娘さんは、だって……」

「ああ。2000年程前に次元の裂け目に吸い込まれて行方不明になった。その時に婚約者だったハルのじーさんと一緒だったんだ。そうか、一緒に違う世界に飛ばされていたか! 2人一緒で良かった!」


 意味が分からない。ハルもリヒトもルシカも呆然としている。


 長老の娘、ランリア・エタンルフレ。

 長老と同じグリーンシルバーの髪にグリーンゴールドの瞳だったそうだ。

 で、婚約者だったのがマイオル・ラートス。今はもう絶滅した種族のハイヒューマン。ハルの祖父だ。

 ハイヒューマンとは、原初のヒューマンと言われており、身体能力や魔力共に今のヒューマン族とは比べものにならない位高い。ハイエルフと同等の能力があったと言われている。

 神が世界樹の次にお作りになったのはハイリョースエルフとハイヒューマンだと語り継がれている。

 だが、原初のヒューマンであるハイヒューマンの能力を継ぐ者は少なかった。いつの間にか、能力を持たないヒューマンの方が多くなっていった。


「ちょうりょう、れもじーちゃんもばーちゃんも、えりゅふとは髪も眼らって色が違う」

「次元を越えた時に変わったんだろう。目はどうだった?」

「えっちょ、色は濃い茶色らったけろおりぇと同じらった。じーちゃんもばーちゃんも瞳に緑があった」

「そうか! 緑があったのか! ハルは前も緑があったのか?」

「うん……嫌らった。気持ちわりゅいて言わりぇた」

「そうか、どこの世界でもヒューマンは……」

「ちょうりょう……」

「ハルのじーさんとばーさんの話をしよう」


 長老は、自分の膝にハルを座らせゆっくりと話し出した。

 さっきも言っていたように今から約2000年前に起きた突然の不幸な出来事だった。本当は幸せな1日になる筈だった。

 その日、ハルの祖父母は城に来ていた。皇帝に婚約の報告をしに来ていたのだ。

 ハイヒューマンとハイリョースエルフとの婚約は珍しい。その当時でも、ハイヒューマン自体が珍しかったのだ。

 いくら能力が高くても数の暴力には勝てない。数が少なくなっていたハイヒューマンはヒューマン族から迫害されていた。ヒューマン族が、自分達よりも力があるハイヒューマンを恐れての事だった。

 そして、ハルの祖父も例外ではなくヒューマンの国から追われボロボロになってエルフの国に流れ着いていた。

 そこで、2人は出会った。婚約までそう時間は掛からなかった。

 2人揃って若かりし頃の長老に付き添われ城へと報告に来た。そして、城の裏側にある世界樹にも報告をしに行った。当時それはハイリョースエルフが婚約をする時の仕来りだった。

 その時突然、何もなかった空間に亀裂が入り2人が吸い込まれてしまったんだ。

 余りにも一瞬の出来事だったので、側にいた長老達にも何もする事ができなかったらしい。

 長老は調べた。建国当時からの文献を読み漁り、なんとかして2人を助け出せないか、行方を追えないかと。

 突然、起こった空間の亀裂は次元の裂け目だと言う事が分かった。しかし、何故起こるのか。吸い込まれた後はどうなるのか。原因も、対処方法もまったく何も分からなかった。

 ただ、建国当時から何千年かに1度、空間に亀裂が入る現象が確認されている。

 場所は世界樹付近に限られていた。その為、現在は世界樹に近寄る事は禁止されている。

 

「ハルの髪と瞳の色は祖父さんの元々の色をそのまま継いだのだろう。ハルの祖父さんも同じ色だった。エメラルドの様なグリーンが入ったゴールドの髪に、ゴールドの瞳で虹彩にグリーンが入っている。祖父さんと同じ色だ。祖母さんの瞳の虹彩にはグリーンは入っていなかったんだが、世界を渡る時に変化したのかも知れん」

「じーちゃんの色……おりぇ、じーちゃんとばーちゃんらけが信用できりゅ人らったんら。両親じゃなくて、じーちゃんとばーちゃんらけ……おりぇを可愛がってくりぇた……ヒック……」


 ハルの目から涙がこぼれ出した。


「辛かったか……」

「うん……」

「そうか……可哀想に」

「ちょうりょう……グス……ヒック」


 リヒトが堪らずハルの背中を撫でる。


「ハル、もういい。辛い事は思い出さなくていい」

「りひと……ヒック……」

「ハル、ここはハルの祖母さんの故郷だ。安心していいぞ。誰もハルを悲しませたりはしない。いいか、ハルはもう自由なんだ。これからは、可愛がられ大切に保護される立場なんだ。エルフは幼子を悲しませたりはしない。種族に関係なくだ。よく辛抱したな。ハル、よく戻ってきた」

「ちょうりょう……うぇぇん……ヒック……」


 声を出して泣くハルを長老が抱き締める。背中をヨシヨシと摩りながら。ハルがどんな辛い思いをしていたかは知らない。それでも、長老はハルを抱きしめる。

 今までの警戒心や辛い気持ちを吐き出すかの様にハルは泣いた。一頻り泣いたハルは顔を上げた。


「ちょうりょう、おりぇ……」

「ああ、ハルは違う世界で生きていたんだな」

「うん……合わなくて身体が弱くてしんろくて……親は保護者だかりゃと言っておりぇを縛って……じーちゃんとばーちゃんに似てりゅおりぇの事は嫌いらったんら。じーちゃんとばーちゃんらけらった。いなくなって……おりぇは1人らった」

「ハルを見た限りだと……祖父さんと祖母さんの血を濃く継いでしまったのだろう。身体がハルの産まれた世界には対応できなかったという事なのかも知れん。ハルの加護を見ると、この世界に生まれ直したという事ではないかとワシは思うんだ。辛い思いをしたのだろう、ハルのスキルを見ればそう思えるぞ。精神異常耐性、苦痛耐性がとんでもなく高い。それに、創造神の加護を受けておる。神に導かれたか」

「神……あいちゅは信用れきない」


 まだ言っている。よっぽど根に持っているのか。評価が少しだけ上がった筈なのだが。


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