37ー長老と会った
一方、ハルやリヒトとルシカは……
「ハル、皆様悪気はないのですよ」
「テージュしゃん、分かってりゅ。リヒトのとうしゃまと一緒らから」
「クククク……一緒でしたか」
「うん。さしゅがきょうらいら」
「アハハハ、ハル。そんな事思っていたのかよ」
「ん……」
「緊張しているのかと思ってましたよ」
「りゅしか、最初はびっくりした。皇子れんかにも、思わずパンチしちゃったし。けろ、なんか一緒らなーて思ったんら。ありがてーよ」
「有難いですか?」
「ん、りゅしか。おりぇ、ほんちょになりぇてねーかりゃ」
「何にだ?」
「りひと、可愛がってくりぇりゅことに。下心がない気持ちになりぇてないんりゃ」
「あー……最初の頃はいちいち警戒してたもんなー」
「おりぇ、警戒してた?」
「ああ。してたぞ」
「しょっか……」
「まぁ、今は警戒よりびっくりだろ? 進歩してんじゃねー? びっくり位かまわないさ。いや、あの皇子殿下の乱入にはびっくりして当然だろ」
おや、リヒト。ちゃんとハルの気持ちを理解しているじゃないか。
「さ、こちらのお部屋ですよ」
――コンコン
「リヒト様とハルをお連れしました」
「入って頂きなさい」
部屋の中から声がした。この声の主が長老か?
テージュがドアを開けてくれ、リヒトとルシカが中に入る。テージュは一礼をしてそのままドアを閉めた。テージュは同席しないらしい。
ハルはまだ迷っているからその方がいい。リヒトとルシカならいい。
「長老、宜しくお願いします」
「長老様、ご無沙汰しております」
「なんだ、ヤンチャ坊主共。今日は偉くお利口じゃねーか」
「長老……やんちゃ坊主はやめてください」
リヒト達の挨拶に、親しげに答えた初老の老人。グリーンシルバーのロングヘアーを無造作にサラリと下ろしていて、グリーンゴールドの瞳で目尻のシワが優しそうだ。白い口髭があり顎にも豊かな白い髭。
髭と言えば思い出すのが、ハルがいつもクソジジイと言っている『神』だが、そんな髭ではない。ちゃんと整えているのだろう。神ほど長くボサボサではない。しっかりと目と口が見えている。
どちらかと言うと長老の方が自称『神』より雰囲気もあり威厳もある。その上、初老の老人とはいえ細マッチョと言う感じだ。もちろん、エルフらしいイケメン。いや、イケオジか? いやいや、イケジジ? イケてるじーさんは何て言うんだ?
「来たか……君がハルか」
「ちょうりょう?」
「ああ、ワシが長老だ」
長老がハルに向かって片手を出す。
リヒトがハルを降ろす。
ハルがトコトコと長老の側に行き、小さなぷくぷくの両手で長老のゴツゴツとした大きな手を握る。
「おりぇ、はりゅれしゅ。よりょしくれしゅ」
「おう……よく来た。会いたかったぞ」
言葉は少ないが、目尻が下がっている。ハルを見ている溶けそうな優しい瞳が、ゴールドに光った。
何故か……どこか懐かしいような……会った事があるような気がしていたハル。
「おりぇ、なんもしりゃねーかりゃ……」
「おう……」
「話していいのかも分かんねーかりゃ……」
「おう……」
「だかりゃ色々教えて欲しくて、ちょうりょうに会いにきたんら」
「そうか……」
「ちょうりょう、教えてくりゃさい」
ハルはペコリと頭を下げた。
「ハルの気持ちはよく分かったぞ。ハル、ワシは『神眼』と言うスキルを持っておる」
と、説明しながら自分の目を指差す。グリーンゴールドの瞳に戻っている。
「しんがん……?」
なんだ、また凄そうなのが出てきた。
「リヒトが鑑定眼を持っておる。知ってるか?」
「うん。りひとのじゃ見りぇねー、て言ってた」
「それの、最上位……凄いバージョンだ」
「しゅごい……」
「ああ。それで皆の情報を見る事ができるんだ。今ハルを少し見させてもらった。ハル、よく来た。リヒト、よくハルを保護してくれた。礼を言うぞ」
「長老……?」
リヒトは意味が分からないと首を傾げた。長老はハルをすぐ隣に座らせる。
「ハル、ばーさんの名前を言えるか?」
「おりぇの死んらばーちゃん?」
「そうだ」
「もりお りゃん」
「……そうか、ランか? そうか!」
長老の眼に涙が溜まり出した。今にも溢れて流れ落ちそうだ。
ハルは、突然前世の祖母の事を聞かれて戸惑っている。
「じーさんは?」
「じーちゃんは、もりお いお」
「そうか……そうか! 生きておったか!」
とうとう長老の眼から涙が溢れだした。だが、嬉しそうだ。ハルは意味が分からない。
「え……じーちゃんとばーちゃんはもう死んらんら」
「あー、すまん。涙が出てしもうたわ。ハルのじーさんとばーさんの事は想像がつく。2人共もう亡くなったのだろう?」
「うん……なんれ?」
「よいか、ハル。リヒトとルシカは信用できる奴だ。リヒトの親もな。ハルはこれ以上ない者に保護されたんだ。神の御心としか思えん位だ。分かるか? 奇跡だ」
「ん……」
色んな話を聞くうちに、ハルもリヒトに見つけてもらえたのはラッキーだったんだと薄々思っていた。これが、ヒューマンだったらどうなっていたのか分からないと。
実際にハルは神から、保護者を見繕ったと言われている。
ハルの中で、あのクソジジイの評価がほんの少しだけ上がっていた。
「ハルはまだ引きずっておるな。戸惑ってもいる。そりゃそうだ。そう簡単に今までの意識は変えられん。だがな、大丈夫だ。もうなんも心配はいらんぞ。ハルを縛るものは何もない。ハルは自由なんだ」
「ちょうりょう……分かりゅのか?」
「ああ、ああ。よく戻ってきた!」
長老はハルを抱きしめた。
「ちょうりょう……?」
「さっきも言ったように此奴らは信用できる。だから何も隠す事はないぞ。よいか?」
「しょうか……」
「ああ。まだ詳しく神眼で見た訳じゃないが……ハル、お前のばーさんはワシの娘だ」
はぁ!? 娘!? いやいや、世界が違うぞ? しかも、ハルのばーちゃんはハイエルフなのか? それに、亡くなった時は長老より見た目がずっと老人だった。どう言う事だ?
「それだけじゃないぞ。ハルのじーさんは今ではもうこの世界では絶滅したハイヒューマンで、娘の婚約者だったんだ」