2巻発売記念SSーじーちゃんとばーちゃん
本日ハルちゃん②発売です!
白い雲の上にいた。あれれ? 俺はばーちゃんの家で、じーちゃんとばーちゃんと一緒に眠ったはずなのに? どうして雲の上になんているんだ?
ここって見覚えがあるぞ。確か……と思っていると、目の前には白く長い髭を生やし、白いフサフサの眉毛で目がよく見えていない白い衣装の翁がフワフワと浮いていた。
「久しぶりじゃわいよー。元気でやっとるようじゃな」
「とぉッ!」
俺は思わずキックした。前に会った時はパンチしようとして躱されたから、今度は飛び蹴りだ。それでも、白い衣装の翁はフワリと軽く避けた。
「またいきなり何するんだわい!」
「いや、怪しいから取り敢えずキックしとこうと……」
「怪しくないと言うとるわい!」
「なんら、くしょじじい」
「クソじじい言うでないわ!」
俺は忘れてねーぞ。この世界に落とされた時だ。魔物が闊歩している大森林のど真ん中に落としやがって。あの時は、マジでビビったんだからな。
「ウヒョヒョヒョ、まあ座れ」
丸いちゃぶ台が、目の前に突然現れる。
「とりま、茶でも飲むか?」
「お、おう」
なんだ? 俺また死んだのか? いや、そんなはずはない。だって元気だったから。
「久しぶりに会いたいと言うもんでな」
「は? おりぇは、くしょじじいにあいたくねーじょ」
「だから、クソじじい言うなと言っとるだろうが!」
なんなんだ? じゃあ誰が俺に会いたいんだ? くそじじいと共通の知り合いなんていねーぞ。
「お前さんに会いたいとワシに頼み込んでくるなんて、あ奴等しかおらんわい」
「くしょじじい、くちわりーな」
「お前さんに言われとうないわい」
「おりぇ、じーちゃんとばーちゃんと一緒に寝てたんら」
「おう、知っとるわい」
「ハルちゃん、それは父様と母様のことかしら?」
「え?」
声のする方を俺は見た。懐かしい、忘れたことなんてない、優しく微笑む二人がそこにいた。
「ば、ばーちゃん! じーちゃん!」
「ハル! 会いたかったわ!」
「元気そうだな」
前世での俺のじーちゃんとばーちゃんだ。ややこしいけど、ランばーちゃんとイオじーちゃんだぞ。ハイエルフの長老夫妻の娘夫婦に当たる。
俺が覚えている姿で二人は現れた。亡くなる前の、元気だった頃のじーちゃんとばーちゃんだ。俺はあの頃の姿じゃなくて、3歳のちびっ子だけど。
思わず二人に抱きつくと、しっかりと抱きしめてくれる。愛おしそうに、優しく頭を撫でてくれる。前世で俺が唯一安心できた場所だ。
「なんら!? ろうしたんら!?」
「ふふふ、ハルに会いたくて無理を言ったのよ」
「ああ、元気なハルに会いたくてな」
「元気らじょ! めっちゃ元気らじょ! 身体が自由に動くんら! 息切れもしねーじょ!」
「そう、良かったわ」
「ああ、ハルには辛い思いをさせたな」
「何言ってんら、しょんなことねーじょ」
二人は俺を可愛がってくれたじゃないか。いつも俺を心配してくれた。愛してくれた。
だけど、二人は俺に申し訳ないって、可哀そうに、て思っていただろう? そんなことを思う必要なんてないんだ。そんな風に思われていると、俺は寂しいんだ。
「そうね、そうだわね」
「え? ばーちゃんはおりぇの考えてることがわかるのか?」
「ハル、ここは神の世界だからな。私達は魂になった。だから分かるんだよ」
「しょっか……魂なのか」
「ハルちゃん、寂しそうな顔をしないで。私達は幸せだったわ」
そうか? だって二人は、自分達が生まれた世界から飛ばされてしまったのだろう? 突然、知らない世界に二人だけで飛ばされて不安だっただろうに。苦労もしただろう。
「そうね、でもイオと一緒だったもの」
「ああ、ハルにも会えた」
「じーちゃん、ばーちゃん!」
ああ、懐かしい。二人にどれだけ救われたことだろう。あの苦しい世界で、二人と一緒にいる時だけは気持ちが楽になったんだ。
「みんなに可愛がってもらってるみたいで良かったわ」
「ハルには幸せになってほしくてな」
「なんら、じーちゃん。おりぇは幸しぇらじょ。じーちゃんとばーちゃんと、一緒にいる時も幸しぇらったじょ」
そんな申し訳なさそうな顔をしないでほしい。そんな事考えなくて良いんだ。純粋に可愛がってくれれば良いんだ。それだけで良い。
ハイエルフのじーちゃんとばーちゃんがそうだ。ただただ俺を可愛いと、愛しいと思ってくれる。それが一番なんだ。
「そうだわね、ごめんなさいね。苦しんでいるハルを知っているから、ついそう思っちゃうの」
「だが、もうそれも過去なのだな」
「しょうら。今はみんな一緒れ楽しいじょ。こはりゅもいるんら」
「まあ、聖獣ね」
「しょうら、こはりゅ」
「はいなのれす!」
ポポンとコハルが何もない空間から出てきた。
「神様、おひさしぶりなのれす」
「おう、コハル。しっかりやっとるか?」
「はいなのれす」
なんだ、偉そうだな。コハルがペコリと頭を下げている。そっか、コハルは聖獣で神使だと言っていた。やっぱこのくそじじいが創造神なんだ。ま、俺にはそんなの関係ねーけどな。なんなら今度は、ちゅどーん! してやろうか?
「アハハハ! ハルらしいな」
「本当だわ。昔から物怖じしない子だったものね」
「なんら、なんれも分かるんらな」
「こはるなのれす。ハルの守護獣なのれす」
「まあ、可愛いわね」
「ハルをよろしく頼むぞ」
「任せるなのれす」
コハルが小さな胸を張っている。大丈夫だ。この世界では俺も強いんだ。俺だけじゃない。みんな強い。強くて優しくて、愛情深い人達なんだ。
「ふふふ、ちびっ子のハルちゃんはなんだか懐かしいわ」
「髪や瞳の色こそ違うが、ハルの小さい時のまんまだな」
「しょっか? おりぇ、こんならった?」
「ええ、とっても可愛かったわ」
「私達の血を濃く継いだのだろう。その所為で苦労をかけた」
「またじーちゃん、しょんなことはいいんら」
「ああ、そうだったな」
二人に抱きついて、自分のほっぺをスリスリと擦り付ける。懐かしい匂いがする。じーちゃんとばーちゃんの匂いだ。ああ、そっか。大森林にあるエルフの国の匂いなんだ。
「そろそろ時間じゃわい」
「えー、もうなのか?」
「お前さんは、あんまり長くこの世界におっては駄目なのじゃわい」
「ハルちゃん、ずっと見守っているわ」
「自由に生きるんだ。この世界で幸せになって欲しい。それが私達の願いだ」
「じーちゃん、ばーちゃん!」
消えながら遠ざかっていく二人に両手を伸ばした。
「じーちゃん! ばーちゃん!」
「ハル、どうした?」
「ん……あ、ありぇ?」
「ハルちゃん、怖い夢でも見たの?」
目を開けると、そこには今の世界のじーちゃんとばーちゃんがいた。俺が伸ばした両手を二人が握ってくれている。
「なんれもねー。良い夢みたじょ」
「そう、良い夢だったのね」
「まだ早い。もう少し眠りなさい」
二人に挟まれて、俺はもう一度目を閉じる。
じーちゃん、ばーちゃん、心配いらねーぞ。俺は幸せだ。毎日がとっても楽しいんだ。
大好きなじーちゃんとばーちゃん。会えて嬉しかったぞ。
俺の眠っている部屋に、一瞬だけど爽やかな大森林の風が吹き抜けたような気がした。