290ー番外編 ハルの薬草採取?
ここはヘーネの大森林。リヒトが管理者を務めるベースの近くだ。
なにやら、ハルがルシカ達と一緒に薬草採取に出て来ているみたいだ。
「ハル、薬草を探す事だけに集中していると、魔物に気付かない場合がありますからね。気を付けるのですよ」
「ん……」
おやおや、ハルちゃんもう上の空か?
「大丈夫よ、ルシカ。あたしが付いているわ」
「シュシュ、頼みましたよ」
「任せてちょうだい!」
「ハルちゃん、聞いてるか?」
「ん、かえれ……」
これは聞いていないな。
「薬草しゃん薬草しゃん、出ておいれ~。あ! あっちゃ!!」
「ハルちゃん、どれどれ!?」
「ほりゃ、かえれ! 四ちゅ葉のくりょーばーら!」
ハルが短い指で摘んで見せた。確かに葉っぱが4枚ある四つ葉のクローバーだ。
「ハルちゃん、なんて?」
「四ちゅ葉のくりょーばー」
「それ、薬草なんか?」
「え……わかりゃん」
「なんでやねん! ルシカ兄さん!」
カエデが堪らずルシカを呼んだ。
「どうしました? ありましたか?」
「ルシカ兄さん、見てや。四つ葉のクローバーやって。ハルちゃんが見つけてん」
「クローバーですか」
「りゅしか、四ちゅ葉らじょ!」
「はいはい。それは薬草ではありませんね」
「えぇ~……けろ、四ちゅ葉らじょ」
「ハル、四つ葉だと何か違うのですか?」
「らって、四ちゅ葉はラッキーなんらじょ」
「ラッキーですか?」
「しょうら! 幸運ら!」
うん、ハルちゃん。君は薬草を探しに来たのではないのかな?
「ありぇ? 言わね?」
「ハルちゃん、言わへんな」
「そうね、クローバーの葉っぱが1枚多いだけでしょう?」
「けろ、めじゅらしいじょ。らから、ラッキーらって言わね?」
「ハルちゃん、言わへんで」
「しょっか」
「そうやな」
「なんら、しょっか」
「ハル、それはもしかして前の世界でですか?」
「りゅしか、しょうら。四ちゅ葉のくりょーばーをみちゅけたりゃ幸運らって言われてりゅんら」
「ほう、珍しいからでしょうか?」
「たぶんな」
「ハル、今日は薬草採取ですからね」
「ん、わかっちゃ」
そうそう、薬草採取だよ。ハルちゃん。ちゃんと薬草を探そうね。
「んん~……、なかなかねーな」
「ハルちゃん、ほらそこ。足元を見て」
「え、しゅしゅ」
そう言いながら、ハルは小さな自分の足元をヒョイと見る。
「あ! あっちゃ!」
「ね、それ薬草でしょう?」
「しゅしゅ、しゅげー!」
「ふふふ、あたしに掛かれば薬草採取位どうってことないわよ!」
またまた、大きな事を言っている白い虎だ。
「りゅしか、薬草採取は大変らな」
「ふふふ、そうですか? もう少し行くと群生地がありますよ」
「しょっか」
「ハル、馬鹿ね」
「なんら、みーりぇ」
「だってハルは精霊眼を持っているでしょう? それで見れば良いじゃない」
「え、しょんなんれ分かりゅのか?」
「リヒト様は鑑定眼で見ているわよ」
「しょうなのか!?」
もっと早く気が付こうね、ハルちゃん。
「それあれやな」
「かえれ、なんら?」
「宝の持ち腐れ、てやつやな」
「えぇ~……」
カエデ、それを言ってはいけない。
「しゃーねー。よしッ」
お、ハルちゃんやっとやる気になったみたいだね。
ハルの目がゴールドに光った。
「あ……あっちら!」
ハルちゃんが何か見つけたらしいぞ。
「ハル、走ったら危ないですよ」
「りゅしか、平気ら!」
ハルちゃんが森の中をタッタッタッタと走って行く。足場も悪いのに転けもせず身軽に走って行く。その隣を離れない様にシュシュが走る、いや速足で付いていく。
大森林の樹々の間、草木も高く茂っている。そこを小さな身体のハルちゃんが駆け抜けて行く。
樹々が開け、太陽の日が差し込む。大森林の中で、少し開けた空間に出た。
テュクス河の支流だろうか、小川がサラサラと静かに流れている。その一帯にそれはあった。
「うわ、なんやここ!?」
「ああ、群生地になっていたんですね」
「しゅげーなッ」
ハルが小さな一歩を進めると……ふわりと白い綿毛が飛んだ。
「きりぇーらな!」
そこには、たんぽぽの綿毛が一面にびっしりと生息していた。咲いていたと言いたくなる景色だ。
ハルが足元の綿毛を1本手に採る。
「ふゅ~……」
『ふぅ~ッ』とハルは吹いているつもりらしい。
そんなハルの小さな息でも、綿毛がふわりふわりと飛んでいく。
天高く、やっと自由になったと言わんばかりに風に乗って飛んでいく。
「アハハハ、ハルちゃん何やってんや」
「かえれ、しねーか?」
「せーへんで」
「しょう?」
「ハル、今回はたんぽぽも使いませんね」
「本当に精霊眼で見たの?」
「みーりぇ、見た。らって綿毛ふゅ~ッてしたくね?」
「別に……」
「したいしたい! 可愛いやん!」
「そうよね!」
ネコ科の1頭と1人は気を遣っているのか?
カエデは綿毛を手に採りふぅッと一息で吹いて飛ばした。
どうやら、本当に飛ばしてみたかったらしいぞ。
「ダメだわ。あたしの手には持てないわ」
そりゃそうだ。大きな虎だからな。ぷにぷにな肉球がある。
「ハル、もう少し先に行くとラベンダーの群生地がありますよ」
「おぅ、ラベンダー」
「少し採取して戻りましょう」
ルシカが先導して歩いて行く。皆が歩くと綿毛がフワリフワリと宙を舞う。
小川に沿って森の奥へと入って行く。
「キレイね……」
「シュシュ、どうしたの?」
「だってミーレ、綺麗な景色だと思わない? 手付かずの大自然よ」
「そうね。私達エルフが守る大森林よ」
「凄いわね。エルフって偉いわ」
「シュシュ、そうですか?」
「そうよ、ルシカ。前にも言ったけど、エルフって力を持っているのよ。なのに、それを誇示しないでしょう? 他種族を差別したり見下したりもしない。友好的でしょう。それは本当は凄い事なのよ」
「ふふふ。シュシュは難しい事を考えますね」
「ヒューマンを見ていると思うわ」
「しゅしゅは時々むじゅかしい事をいうな」
「ハルちゃん、あたしの知性が黙っていないのよ~!」
はいはい。そんな事を話しながら歩いていると、ルシカが話していたラベンダーの群生地に出た。小川を挟んで一面紫色の花が咲いている。ラベンダーの良い香りも漂っている。
「しゅげーな!」
「めっちゃいい匂いするやん!」
「カエデ、ラベンダーの香りよ。あたし色んな場所に行ったけど、こんな群生地は初めてだわ!」
「ふふふ、凄いでしょう?」
「ん! りゅしか、しゅげー!」
「さあ、少し分けてもらいましょう。沢山採る必要はありませんよ」
「おう!」
ルシカが『分けてもらう』と言った。エルフにとっては森で採れるものは、大森林の恵みを必要な分だけ分けてもらう。そんな思いなのだろう。
ハルが小さな手でラベンダーを根本から採取していく。
ハルの髪にたんぽぽの綿毛が付いていた。そよ風に揺られふわりと飛んでいく。
長閑なベースでの1日だ。
読んで頂きありがとうございます!
やっぱりハルちゃんを書きたくなってしまいました!(^^;;
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