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287ー番外編 それぞれの想い 2 ー長老編ー

 あれはいつだっただろう。ベースの管理者をしているリヒトから連絡があったのは。

 ベースの近くで幼児を保護したから会ってほしいと。

 大森林の中で幼児を保護だと? 有り得ん。魔物が闊歩している大森林でどうやって生きていたのか? と、いう考えと、何かが引っ掛かる気がして胸騒ぎがしたのを覚えている。

 今から思うと、娘からの知らせだったのかもしれない。

 リヒトが連れてきた小さな男の子。ふふふ、やんちゃそうだ。ちびっ子は可愛い。トコトコとワシのそばまで歩いて来た。ワシは神眼のスキルを使った。

 目を疑った。いや神眼で得られる情報は正解だ。間違っているわけがない。鼓動がとんでもなく早くなり耳障りだ。こんな事があるのか!? 奇跡じゃねーか!


「おりぇ、なんもしりゃねーかりゃ……」

「おう……」

「話していいのかも分かんねーかりゃ……」

「おう……」

「だかりゃ色々教えて欲しくて、ちょうりょうに会いにきたんら」

「そうか……」

「ちょうりょう、教えてくりゃさい」


 小さな柔らかい手でワシの手を握るハル。ああ、愛しい。涙を堪えきれんかった。

 こんな出会いがあるのか!? ワシは今日ほど神に感謝した事はない。


「ちょうりょうがおりぇのじーちゃん!?」


 アヴィーよ、お前は信じるか?

 ワシ等の娘の孫が、界を渡って今目の前にいるんだ。

 ワシ等の曾孫が目の前にいるんだ。じーちゃんと呼んでくれるんだ。

 ああ、アヴィー。長生きしてみるもんだぞ。

 娘が『次元の裂け目』に吸い込まれて約2000年だ。その間、色んな事があったな。

 最初は必死で『次元の裂け目』の情報を集めた。なんとかして助け出せないかと寝る間も惜しんで調べた。だがどこに飛ばされたのか、生きているのか、もう死んでいるのかさえ分からなかった。それからは、投げやりになった事もあったな。


 ワシ等の娘、ランリアはもう生きていないだろう。こんな可愛い子を残して逝くのはさぞかし心残りだったろうに。それが、この子の加護に現れている。

 アヴィーの驚き喜ぶ顔が目に浮かぶぞ。

 しかし、称号の『耐え続けた者』これは一体何なんだ。どんな世界で、どんな生活を送ってきたのか。

 ハルが涙を流しながら言う。


「おりぇを縛って苦しめてたのが両親ら。おりぇの眼が気持ちわりゅいと言ってたのも両親ら」

「なんだと……!? まったく! ヒューマンはどこの世界でもろくな事をせんな! 実の我が子に何してやがんだ!!」

「じーちゃん、らから寂しくないんら。身体も元気れ、自由れ嬉しいんら。しょりぇに、りひと達やじーちゃんに会えた」

「そうかそうか!」


 ワシ等が愛してやるさ。いつか、そんなこともあったかと笑って言える位にな。

 ハルはリヒトの家で預かってもらう事になった。ワシが面倒みてやりたいが、なんせ今はワシ1人だ。家に帰れない事だってある。ハルを1人にするよりはと考えての事だ。

 ハルは前の世界での影響で、人を信じたり頼ったりすることができないでいる。リヒト達には慣れた様だが、自分の力しか信じていないんだ。だから、オークキングの時だって自分がまず出て討伐しようとする。大人を守ろうとする。まだ幼児だというのに。

 それではいかん。人として根幹になる部分が欠けている。そんなの寂しいじゃねーか。

 これから何かあった時に踏ん張る力をつけてほしい。信頼するという事、人に頼るという事も覚えて欲しい。それには、家族の愛情というものを経験してほしいんだ。

 ワシが引き取っても寂しい思いをさせてしまう。

 なに、ワシが毎日会いに行けば良いだけだ。実際、毎日会いに行った。

 リヒトの母、リュミと一緒に魔法や勉強を教える。

 驚いた。ハルの知能の高さにだ。この世界では研究者位しか知らない様な事まで普通の知識として知っている。計算能力が高く、頭の回転が速い。ハルが生きていた世界は、余程教育が進んでいるらしい。


「じーちゅん、おりぇ光っちゃうかりゃなぁ」


 などと言いながら魔法の勉強をする。


「ここでは光っても構わんから、初級から魔法を覚えていくといい。どこから光るのか確認しておくと良いぞ」

「ん、わかった」


 ハルが辿々しい喋り方で詠唱する。

 

「うぉーたーぼーりゅ」


 ハルの小さな掌から、水の塊が飛んでいく。初級はいとも簡単にマスターした。なんとも可愛らしい詠唱だ。

 リュミも、愛しそうにハルを見ている。

 リヒトに保護されたことは本当に幸運だった。神の思し召しとしか思えん。実際、ハルは神に会ったという。

 『創造神の加護』を持つくらいだ。本当なのだろう。ならば、リヒトは選ばれたのだ。ハルの保護者として、神に選ばれたのだとワシは思う。


 リヒトが、ヒューマンの国アンスティノス大公国へ行く事になった。保護した伯爵令嬢を送って行くためだ。

 きっとハルは一緒に行くと言い出すだろう。それも良い経験だ。

 リヒトにアヴィーのところに寄ってきてくれとでも言っておこうか。

 アヴィーはどんな顔をするか。ふっふっふ、楽しみだ。

 ハルが光ってしまう理由の解明はアヴィーに残しておいてやろう。


 ハル、こっちの世界のじーちゃんとばーちゃんもハルの事を愛しておるぞ。大切だぞ。安心して好きな事をすると良い。安心して、大きくなるんだ。

 ハル、ワシの大切な曾孫。この世界に来てくれてありがとう。


今日は長老編でした。

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