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266ー番外編 きちゅねしゃん 2

「こぎちゅねこんこん、やまのなかぁ、やまのなかぁ♪」


 ハルが狐を膝の上に寝かしながらそっと撫でている。よっぽど気に入ったらしい。


「ハルちゃん、それはなぁに?」

「ばーちゃん、きちゅねしゃんの歌ら」

「あら、可愛いわね」

「こぎちゅねこんこん、やまのなかぁ、やまのなかぁ♪」

「ほう、ハルは色んな歌を知っているんだな」

「ん、じーちゃん。教わりゅんら。こぎちゅねこんこん、やまのなかぁ、やまのなかぁ♪」

「ハルちゃん、その先は?」

「ん? しゅしゅ先?」

「お歌の続きよ」

「え、知りゃねー」

「なんだよ! そこだけかよ!」

「りひと、らって忘れりぇたもん」

「そうかよ! 忘れたのかよ!」


 その夜の事だ。ハルは長老とアヴィー先生の間で寝ていた。ベッドの横にはシュシュが寝ている。ベッド脇に置かれた籠には狐が寝かされていた。

 月の光を浴びて怪しげに身体が光り出す狐さん。見る間に大きくなって妖艶な女性の姿となった。

 白地に金糸でふんだんに刺繍を施してある豪華な打ち掛けに、掛け下は真紅だ。真っ白な肌に真っ赤な紅、白く長い絹糸の様な髪を後ろでゆったりと結んでいる。

 その女性はベッド脇からジッとハルを見ている。いつもなら気配でシュシュや長老が目を覚ましてもおかしくない。なのに、誰も起きる気配がない。ハルの頭をひと撫でしまた狐の姿に戻った。

 一体何だったのだろう? あの姿は本当に狐なのか?


「ん……んん」

「ハルちゃん、もう朝よ。起きなさい」


 アヴィー先生に起こされるハル。まだまだ眠そうな目をしている。


「ん、なんか変な夢見てたじょ」

「あら、どんな夢なの?」

「色っぺー女の人の夢ら」

「まあ! ハルちゃんも男の子なのね!」

「んー、なんかちげー」


 ハルちゃん、まだポヤポヤしている。まだ寝足りないか?


「着替えて朝食にしましょうね」

「ん」


 その日ハルは、1日中眠そうな目をしてポヤポヤしていた。

 そして夜。ハル達が眠っていると、また狐が妖艶な女性へと変化した。ハルに近づこうとすると、その日はコハルが出てきた。


「やめるなのれす」

「……!」

「あたちが守っているなのれす」

「お前は神使?」

「そうなのれす。お前を今直ぐに消す事も出来るなのれすよ」

「……」

「助けてもらったのに、生気を奪おうなどと考えない事れす」

「この子はあたしのものよ」

「違うなのれす。お前に支配できる筈がないなのれす」

「なんですって?」

「ハルの方が力は上なのれす」


 どうやら狐はハルを我が物にしようとしていたらしい。助けて貰ったのにイカンな!


「コハル、どうした?」

「んん……」

「どうしたの?」


 長老やハル、アヴィー先生が目を覚ましてしまった。妖艶な女性の姿を見られてしまった狐。


「お……」

「おう、何だ?」

「やだ、聖獣の風上にも置けないわね。コハル先輩、やっちゃう?」


 シュシュは逸早く状況を理解したらしい。


「しゅしゅ、らめら。お前、おりぇの夢ん中に出てきたよな」

「ええ。ハルちゃん、あたしの番にならない? 大事にするわよ。ハルちゃんの魔力はとっても美味しいの」

「あ? お前誰ら?」


 ハルはまだ昨日助けた狐だと理解していない。


「狐なのれす。尻尾が八尾あるなのれす」

「え、マジ?」

「そうね。これでもうすぐ天狐なんて聞いて呆れるわ」


 シュシュが怒っている。身体を低くし、牙をむいて既に臨戦体制だ。


「ハルちゃん、番になりましょう。そうしたら、私の妖力を分けてあげられるわよ」

「ん……いりゃねー。小っさいきちゅねはろこ行った?」


 ハルちゃん、まだ理解していないらしい。


「だから、あたしよ。あたしがあの狐なの」

「えー、お前かぁいくねーもん」

「アハハハ! ハル、可愛くないか!?」

「らって、じーちゃん。こりぇ、かぁいいか?」

「確かに、可愛くはないわね」

「な、ばーちゃん。しょうらよな。じぇんじぇんかぁいくねー」


 ハルに全然可愛くないと言われてしまった妖艶な女性の姿をした狐。ポポンッと白い煙を出したかと思ったら姿が消えていた。


「なんら?」

「小賢しいなのれす!」


 コハルには似合わない言葉が出てきたぞ。腕組みをして足をタシタシと動かしている。小さな子リスなのに、1番態度が大きい。


「ホント、ムカついちゃうわ」

「いなくなったのかしら?」

「どうやら、そうらしい」

「小っさいきちゅねもいねーじょ!」


 いや、だからね。ハルちゃん。


「きちゅねしゃん、ろこ行った!?」

「ハルちゃん、あのね。あの女が狐だったのよ」

「らって、しゅしゅ。かぁいくなかったじょ」

「そうね、可愛くはなかったけど。あの狐が化けた姿だったのよ」

「ひょぇ……」

「ハルちゃん?」

「聖獣ってしょんな事もれきんのか!?」

「ハル、そこは聖獣だからではないと思うぞ」

「そうね、妖狐だからでしょうね」

「かぁいいきちゅねしゃんらったのに」

「ハルちゃん、まだ夜中よ。もう寝ましょう」

「コハル、もう危険はないか?」

「ないなのれす。尻尾を丸めて逃げたなのれす」

「助けてもらったのに、信じらんないわ」


 はいはい、皆寝ようね。

 翌日、おばば様やリヒト達に昨夜の出来事を話した。


「まだそんな悪さをする狐がいたのかい」

「おばば様、まだって?」

「昔はね、よく悪さをする狐がいたんだよ。その度に懲らしめてやっていたんだ。もう最近は懲りて悪さはしないだろうと思っていたんだけどね」

「そうなのですね」

「ハルを狙うなんて、身の程知らずだよ」

「ホントよぅ! あたしやコハル先輩がついてるもの」


 確かに、聖獣が2頭も守護しているハルを狙うとは。余程、ハルを気に入ったのだろうか?

 おばば様の家からずっと離れた山の中にフヨフヨと動く八つの尻尾があった。一目散に山の奥へと移動して行く。どうやら、懲りたらしい。


「威圧を飛ばしてやったなのれす!」


 コハル、いつの間にそんな事をしていたんだ? コハルの威圧に怯えて逃げたのか?


「あら、コハル先輩。奇遇だわ。あたしも威圧を飛ばしてやったのよ」


 ……言葉がないね。流石、聖獣。この2頭に敵うわけない。


「小っさいきちゅねしゃん。かあいかったのに」


 ハルちゃん、そうじゃない。

 おばば様の家へお泊まりに来ているハルちゃん。もう一騒動あるかも知れない……?


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