239ー面倒事
「いくじょ! 正拳突き! かぁりゃぁの〜裏拳! ちょじょめの〜必殺アッパー!」
「うぉッ!」
「アハハハ! ハル、何だそれ!」
「いおしゅ、必殺技ら!」
「ハルちゃん、剣無しでも強いやん!」
「カエデ、何言ってんだよ。ハルはずっと剣持ってなかっただろうが」
「そうやったわ、忘れてた。恐るべし3歳児やわ」
今日はやらないと言っていたのに、結局カエデと対戦していたハル。今日は、剣を使わずに体術らしい。張り切って必殺技らしい技を披露していた。
「しかし、ハルは小さいのによくそんだけ動けるなぁ」
「ふふん」
両手を腰に当ててドヤっているハルちゃん。胸を張っているんだか、お腹を出しているんだか分からない。
「ハルちゃん、可愛いぃ!」
「最近、ちょっとお腹がポッコリしてきたけどね」
「みーりぇ、こりぇは幼児体型なんら!」
「あら、そうかしら?」
「ハルちゃんは、そのままで良いわよ。相変わらず可愛いわ!」
「シュシュはハル贔屓だからなぁ」
「ハルちゃん、必殺技教えて! からの〜って自分もやりたい! 教えて〜!」
「おう、いいじょー!」
賑やかだ。やはりネコ科が揃うと賑やかになる。訓練になっているのか? 邪魔になってないか?
「また裏にいたのか」
「あ、じーちゃん! 久しぶりらな!」
長老がやって来ると、ハルがトコトコと駆けて行きポフンと長老に抱きついた。長老はそのままハルを抱き上げる。
「おう。ちょっとバタバタしたからな」
「いしょがしいのか?」
「まあな。リヒトは?」
「リヒト様なら医務室だと思いますよ」
「なんだ、ミーレ。リヒトがどうかしたのか?」
「いえ。ヒューマンの冒険者です。薬草採取のクエストで森に入ってウルフ種に襲われたそうです」
「ヒューマンがか?」
「はい。薬草採取に夢中になっていたのだそうですよ。大した怪我はしていません。今は食事をしているそうです」
「なんだそれは。危ないなぁ」
「ほんとッスね。けど、薬草採取が増えてますね」
「イオス、それなんだ」
「ああ、やっぱそうッスか」
「ああ」
「はろーけんッ!」
――ピュゥ〜……ポン!
「うぎゃー! ハルちゃん反則やわ!」
またハルが、カエデ相手に何かしている。何処かで聞いた事のある技名だ。
「はろーけんッ!」
――ピュゥ〜……ポン!
「アハハハ! ハルちゃん、何これ。痛くないで、くすぐったいにゃん!」
「アハハハ! はろーけん!」
――ピュゥ〜……ポン!
「アハハハ! ハル、何だそれは!?」
「アハハハ! じーちゃん、はろーけんら!」
「意味が分からん! カエデ、痛くないのか?」
「アヒャヒャ! 長老、くすぐったいねん! アヒャヒャヒャ!」
ハルが『はろーけん』と言っているのは、超有名なあの波◯拳だ。あのポーズをとって、手のひらからピュゥ〜と何かを出している。カエデも最初は避けていたが、当たっても痛くないらしい。
「ハルちゃん、何で痛くないん?」
「らって痛いの嫌らろ? あぶねーし」
「ハルは、面白い事を思いつくなぁ」
「じーちゃん、肩こりにいいじょ」
「そうか? 肩こりか!? アハハハ!」
「ハルちゃん、教えて! 波◯拳教えてー!」
「いいじょー! まじゅはぽーじゅら!」
「えー! そこからなん!?」
「当たり前ら! 手はこう! 足はこう! れ、ん〜って魔力を集めてぇ、はろーけん!」
――ピュゥ〜……ポン!
「アハハハ! ハルちゃんめちゃ可愛い!」
「かえれ、マスターしゅりゅんら!」
「はい! ハルちゃん師匠!」
「ん!」
「アハハハ! 何をやっとるんだ」
「はろーけんッ!」
――ピュゥ〜……ポポン!
その頃、リヒトとルシカは……医務室から出てリヒトの執務室へと向かっていた。
「リヒト様、どうします?」
「どうするも何もなぁ。まあ、馬が戻ってきて荷物も無事なんだし。国に戻ってもらえばいいんじゃねーか?」
「それはそうですが」
「なんだ? ルシカ」
「いえ、また面倒な事にならなければ良いのですが……」
「あー、まあ……。考えんな。考えたら引き寄せてしまいそうだ」
「クフフフ、引き寄せるですか?」
「ああ。嫌な事は考えない!」
「嫌な事なんですね」
「面倒だろうよ」
「確かに」
その面倒がもうやって来ているかも知れない。曽孫へ会いに、裏庭にさ。ほら、角を曲がると出会うかも知れない。
「おう、リヒト」
「げげッ!」
「長老」
「なんだ? 2人共」
「長老はいつも面倒を運んでくるからなぁ」
「今、話していたところなんですよ。面倒を引き寄せるのは止めようと」
「アハハハ。引き寄せるか。すまんな、面倒が態々やってきたぞ」
「マジかよ。またかよ」
「アンスティノスですよね?」
「ああ。ルシカの言う通りだ」
「アンデッドかよ」
「その通りだな」
「マジかよぉ……超面倒だ」
「まあ、そう言わずに。ほれ、リヒトの執務室に行こう」
「おりぇも行くじょ! はろーけんッ!」
――ピュゥ〜……ポン!
「プハハハ! ハル、何だこれ!? こそばゆいな! ムズムズするぞ」
「ひっさちゅわじゃら!」
「あ、あかんわ。ハルちゃんちょっと寝よか?」
「平気ら」
「なんだ? 今日はまだ昼寝してないのか?」
「そうやねん。昼食べてからずっとウロウロしてるねん。最近、ずっとシュシュに乗ってるから疲れへんねん」
「ハル、いらっしゃい」
「みーりぇ、平気りゃって」
「駄目よ。後でちゃんと教えてあげるから」
「しょう?」
「そうよ」
「ん、みーりぇ」
と、ミーレに両手を伸ばすハル。ヒョイと抱き上げられ背中をトントンとされる。
「寝かせてきますね。シュシュ、行きましょう」
「ええ、あたしはハルちゃんといるわね」
「長老、お茶入れるわ」
「おう、カエデ。ありがとう」
「カエデ、皆さんに入れて下さい」
「はいにゃ、ルシカ兄さん」
カエデはもう慣れたものだ。手に迷いや戸惑いもなくスムーズにお茶を入れていく。そして、皆にお茶を出す。お茶を出す動作も堂々としたものだ。
「カエデ、うまいなぁ。ありがとうよ」
「はいにゃ、長老」
「で、だな。リヒト」
「ああ、アンデッドだな」
「あ、あんでっど!?」
「カエデは見た事ないか?」
「ないなぁ。墓場は近付けへんもん。用事ないし」
「墓場じゃなくてな、街の中に出るんだそうだ」
「あ、イオス兄さん。この事か?」
「ああ、そうだ。最近、ヒューマンの冒険者がやたらと薬草採取で森に入っていたからな」
「イオス、そうなんだ。ニークに聞いたら確かに不足しているそうだ。だが、ニークがいるのは4層目だ。まだ薬草が不足している訳ではないそうだ。で、4層はまだ出ていないらしい」
「また、5層と6層か……」
長老はやはり薬草の件もアンデッドの件も掴んでいた。これが、リヒトが言っていた面倒な事になるのだろう。
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