230ーアヴィー先生はコミュお化け
「ユーラン殿下が自ら漁をされるのですか?」
「ええ。人魚族も魚族も皆、漁をします。王配とは言え、漁場を見て回る事は大事なのですよ」
「なるほど。我々は森に住む種族ですので、足手まといになるかと思いますが」
「いえ、とんでもない事です。楽しんで頂ければと思います」
「アヴィー先生……」
「ええ、女王陛下。今日の続きをお話し致しますわ」
「……感謝する」
アヴィー先生はもう既に女王と親しくなっているらしい。女王から、先生と呼ばれている。さすが、百戦錬磨。一言二言しか話さない女王とでもコミュニケーションがとれている。経験豊富なアヴィー先生だ。
「ハルくんを見ていると、私共の子供が幼かった頃を思い出します」
「……本当だ」
「王子殿下と王女殿下がいらっしゃるのよ。もう成人なさっているの」
「ばーちゃん、会ったのか?」
「ええ。みんなが撤去に行っている間にね。ご挨拶させて頂いたわ」
「おぉ、皇子と言えば……」
「ハル、あの皇子は特殊だ。一緒にしてはいかん」
「長老、ひでーな! アハハハ」
「ほんちょら。ふぃーれんかは、いいやちゅらじょ」
「エルフ族の皇子殿下なのか?」
「しょうれしゅ。帰ったりゃいちゅも一緒に遊ぶんれしゅ」
「おや、ハルくんは仲良しなんだな」
「あい」
「第2皇子殿下なのですが、ハルは良くして頂いています。ちょっと個性的な皇子なのですわ」
個性的とは良い表現だ。フィーリス殿下の姿が思わず目に浮かぶ。個性的どころか……て、感じだが。きっと、ハルが帰ってくるのを待ってくれている事だろう。
お昼を食べたらハルはお昼寝だ。もう我慢できない。瞼が自然に閉じてきてしまう。
「ハルちゃん、お昼寝しましょう」
「ん……」
「ミーレ、お願い」
「はい。ハル、いらっしゃい」
「ん……」
ミーレに抱っこされながら、部屋に向かうハル。
「みーりぇは王子れんかと会った?」
「まだお会いしてないわよ」
「ん……」
「ミーレ、あたしも一緒に行くわ」
シュシュも一緒にお昼寝するらしい。シュシュはいつも一緒に寝ている。大きなベッドの殆どを占領している。そのシュシュにくっついて身体を丸く小さくしてハルがスヤスヤと寝息をたてている。
「ミーレ姉さん、ハルちゃん寝た?」
「ええ、寝たわよ。カエデも疲れたでしょう? 少し休んだら?」
「ううん。自分は何もしてへんから」
「何言ってんの。気疲れしたでしょう」
「大丈夫や。ハルちゃんは凄いなぁ」
「そう?」
「うん。状況判断も早いし。能力も飛び抜けてるし」
「そうね……」
「ミーレ姉さん?」
「カエデも少しは知っているでしょう? ハルが違う世界に生まれていた事」
「ああ、うん」
「だからかしらね。その世界の知識があるのじゃないかしら。でも、最初に会った時のハルは疑い深い警戒心の強い子だったのよ」
「そうなんやってな。今のハルちゃんからは想像つけへんな」
「そうね。本当、可愛い良い子だわ」
「そうやんな。ハルちゃんを守れる様になりたいわ」
「何言ってんのよ。カエデだってまだ守られて当たり前の歳なのよ。もっと頼りなさい」
「ミーレ姉さん、ありがとう。嬉しいわ。自分覚えてへんからなぁ。甘えるとか頼るとか、知らん世界で生きてたし。今はみんなに可愛がってもらって、ほんまに幸せやわ」
「そう。なら良かったわ。ふふふ」
カエデもまだ10歳だ。まだまだ、甘えて頼っていい歳だ。カエデもリヒト達に会うまで辛い思いをしていた。辛いという感情さえも抑え込まれていた。奴隷紋というあってはならないものでだ。呪いと同じだ。
リヒト達に保護され奴隷紋を消してもらい両親が見つかって、それでもリヒトやハルと一緒にいるとカエデ自身が決めた。今が幸せだと言えるなら良い事だ。
「……とったどー!」
突然、寝ていたハルが片腕を上げて叫ぶ。どうやら、起きたらしい。
「あ、ハルちゃん起きた」
「また、変な事言いながら起きたわね」
「時々言うよな、夢見てたんかな?」
「みーりぇ、かえれ、よく寝たじょ」
「ハル、果実水飲むでしょ?」
「ん、にょむ……」
ベッドからよいしょと出てくるハル。
「ミーレ、あたしもお水ちょうだい」
「はいはい」
シュシュも起きてきて、ハルの足元にお座りする。
「ハルちゃん、時々変な事言いながら起きるわよね」
「しょお?」
「そうよ。あれ、なぁに?」
「わきゃりゃん」
「覚えてないの?」
「ん、じぇんじぇん覚えちぇねー」
「そうなの。面白いのに」
「シュシュ、ホンマにな。変やけど、面白いよな」
ハルさん、まだ寝起きだからカミカミだ。果実水を飲んだら次は……
「ん、よし。よく寝たかりゃ、ちゅぎはりゅしかのおやちゅら」
「はいはい」
「ぷふふ。ハルちゃん可愛いなぁ」
「本当にね」
「なんりゃ?」
「なんでもないで。ルシカ兄さんのとこに行こか」
「ん!」
ハルがシュシュに足をかけようとしている。シュシュが伏せて乗りやすくしている。
「しゅしゅ、ありあと」
「あら、ハルちゃん。いいのよ」
「ありあと。しゅしゅはかぁいいなぁ」
何を言っているのかよく分からない。シュシュの首筋を小さな手でナデナデしている。
「うふふ、ありがとう」
シュシュはもう慣れたものだ。スィーッと移動している。
「シュシュ、マジで泳ぐの上手やな」
「カエデだって自由に移動してるじゃない」
「いや、そんな事ないねん。まだ恐々やねん。海中って言うのがあり得へんからな」
「まだ言ってるの?」
「だってミーレ姉さん、海中やで。海の中なんやで。あり得へんわ」
「そうね、不思議よね。どんな原理で息が出来るのかしら?」
「あれじゃない?」
「え、シュシュ。分かるんか?」
「多分ね。この膜があるでしょう、身体を覆っている膜。結界擬きよ」
「うん。なんやったっけ? バブリーシールドやったっけ?」
「そうよ、それよ。ネックレスからバブリーシールドの中に酸素を供給されているんじゃないかしら?」
「シュシュ、難しい事言うんやな」
「あら、教養よ。あたしは聖獣だからぁ……」
「シュシュはまだまだなのれす」
「やだ、コハル先輩。出て来たの!?」
「ルシカのおやつなのれす」
「ああ、そうね……おやつね」
コハルもとんでもない知識を披露したかと思うと、こんなところは子供だ。コハルもルシカのおやつを外せない。大好きだ。
平和です。こんなに平和なお話でもいいのか?
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