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220ー海が見えた

 のんびりとだが、確実に海に向かって進み、なだらかな草原の先にやっと海が見えて来た。

 まだ遠目だが、晴れ渡った空の下で海面が陽の光に反射して宝石の様にキラキラ光って見える。風も潮の匂いが混ざっている。


「じーちゃん! 海ら!」

「そうだな、ハルは初めて見るのか?」

「初めてら! 風が違うな!」

「ああ、潮風だ」


 ハルの前世は豊かな家に生まれてはいるが、なにしろ身体が弱かった。地球の空気や汚染物質に重力、何もかもがハルには負担だった。なので、海どころではなく日々の生活に必死だった。

 だが、今は違う。自分の思う通りに動く身体、多少の事では疲れない健康体だ。幼児にはなってしまったが、ハルにとっては健康体が何より嬉しい。

 この世界に来て、ハルは沢山の経験をしている。それは、ハルの祖父母の願いでもある。もちろん、曽祖父母である長老とアヴィー先生の願いでもある。


「ハルちゃん、海ね。私も初めてだわ」

「ばーちゃんれもか?」

「ええ。海まで来る事はなかったわ。綺麗ね」

「本当、キラキラしてるわ」

「自分は泳がれへんからなぁ」

「あら、カエデちゃん。不安なの?」

「アヴィー先生、みんなの足手まといになれへんか不安なんや」

「かえれ、しょんな事ないじょ」

「そうよ、カエデちゃん。ハルちゃんだって泳げないんだから」


 カエデの不安はそこだったのか。自分が泳げない事で足手まといになりたくないと。健気なカエデだ。


「カエデちゃんはまだ子供なのよ。出来ない事が多くても当然なの。出来る大人を頼れば良いのよ。何もかも自分1人でしようとしなくても良いのよ」

「アヴィー先生、分かった! ありがとう!」


 その通りだ。カエデは歳の割にしっかり者だから忘れがちになってしまうが、まだ10歳の子供だ。まだまだ、大人を頼って良い歳だ。甘えて良いんだ。


 海沿いのある一角、海岸線が終わり岩が多くなる陸の方を指差してシェンラが説明してくれた。


「ここからではまだ見えませんが、海岸線の外れに魚族の村がありますの。水陸両方で生活できる者達の小さな村なのですが、そこで馬を預かって貰って海の中を移動するものに乗り換えますの」

「ほう、あんなところに村があったのですな」

「ええ。私共の国が管理しております。出来るだけヒューマン族に見つからない様に岩陰に隠れておりますの」


 またヒューマン族だ。見つからない様にという事は良い話ではないのだろう。


「魚族や人魚族は珍しいのでしょう。観賞用にと需要があるらしくて、一昔前はよく捕まりましたの」

「ヒューマンてホント欲深いわよね。あたしも珍しいからってよく追いかけられたわ。」


 シュシュもヒューマンには良い思いを持っていない。

 そうこうしているうちに、海がかなり近くなってきた。


「長老様、あちらの岩陰の方へ参りますわ」

「了解した」


 一直線に海を目指していた一行だが、少し方向を変え海岸線が途切れている岩場の方へと向かう。

 よく見ると規模は小さいが、岩陰から隠れる様に集落が見えてきた。小船も見て取れる。


「なるほど、うまく岩陰を利用しておるのですな。これだと、わざわざ回り込まねば見えんな」

「そうでございましょう? 認識阻害も施してあるのですよ。エルフ族の方々だと魔力量が多いでしょうから普通に確認できますが、魔力を殆ど持たないヒューマン族では見つける事もできませんの」

「我々の国と同じ様な事をされているのですな。人魚族の方々も魔法に長けておられる様だ」

「エルフの方々には及びませんわ」


 エルヒューレ皇国の結界も同じだ。魔力を持たない者は発見する事さえできない。一定以上の魔力を持つ者か、若しくは招待された者でないと惑わされ辿り着く事が出来ないのだ。運良く、辿り着けたとしても専用のパスを持たないと入国する事は出来ない。

 そんな結界を張るのはエルフだけだと思っていたが、侮る無かれ。人魚族も同じ様な事をしていた。魔法に精通していないと出来ない事だ。


「エルフ族の方々が持つ入国する為のパスは非常に興味深いものですわ。我々ではそこまで出来ませんもの」

「そうですか。あれは第2皇子殿下の功績なのです。以前はいちいち入国チェックを受けなければならなかったのですよ」

「まあ、そうでしたの。素晴らしい事ですわ」


 第2皇子殿下。そう、あのフィーリス殿下だ。いつもハルに威嚇パンチをされている殿下だ。言動は子供っぽいが、実は天才肌だ。


「ふぃーれんかは、ともらちら」

「まあ、そうなのですね。よいお友達だわ」

「ん、いちゅも城に行ったりゃ一緒に遊ぶんら」

「ハルちゃん、そうね。そして、レオーギル殿下に叱られちゃうのよね」

「ばーちゃん、しょれはしゃーねー」

「あら、仕方ないのですか?」

「れおれんかは心配性なんら」

「まあ、ふふふ」


 集落に近付いて行くと、出迎えらしき人達がいるのに気がついた。


「シェンラ様、ウージン様、お帰りなさいませ」

「ご無事で何よりです」

「ありがとう。こちら、エルヒューレ皇国の方々なのですの」

「おお! それではご協力頂けるのですね!」

「ええ。快く承諾して頂けましたの」

「安心致しました。なかなか戻ってこられないので心配しておりました」


 おや? エルヒューレで使者の2人はのんびりと観光していたが?


「心配はいりませんのよ。ああ、長老様、皆さま、ご紹介致しますわ。この集落の代表者でマルルと申しますの」

「お初にお目に掛かります。マルルでございます。態々ご足労頂きありがとうございます。こちらは私の弟で補佐をしておりますグルルと申します」

「グルルです。此度はご迷惑をお掛け致します」

「ご丁寧に。ワシは長老のラスターと申します。ワシの妻のアヴィーに曽孫のハルです。此度のご依頼に携わります皇族のリヒト、従者のルシカ、イオス、ミーレ、カエデです。白い虎は聖獣でシュシュと申します」

「まあ! 聖獣様! 初めてですわ。お目に掛かれて光栄ですわ!」

「あら、ありがとう」


 おや、シュシュ。聖獣様だって。オネエさんだけどな。


いつも読んで頂きありがとうございます!

本当に感謝です。

今日はもう1話投稿予定です。是非、読みにいらして下さいね。

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