22ーリヒトの家族 2
「ハル、一緒に風呂に入るか」
おやつに夢中になっていたハルがリヒトを見た。あーあぁ、お口の周りにクッキーの屑がついている。
「風呂あんの?」
「ああ、露天風呂と普通のとあるんだ。どうだ? 行くか?」
「行く!」
実はハルはベースでも裏にある露天風呂に毎日リヒトと一緒に入っていた。
1日1回。気が向けば2回。リヒトがハルの頭と身体を洗って、ハルもリヒトの背中をゴシゴシと洗う。2人のお気に入りになっていた。
エルフの国に来る道中は、当然風呂なんてない。早速、2人して風呂だ。
「うわッ……超ひりょい」
「どーだ、いい感じだろ?」
露天風呂は半露天と言うべきか。普通の風呂の延長で屋根もある。
他から見えないようにはしてあるが、外でもある。しかもすべて木で出来ている。
まるで、前世の高級旅館のようだ。
「しゅげー! べーしゅのふりょも良かったけろ。ここはしゅげーな!」
「だろう? さ、入るぞ」
「おー!」
ハルがタオルを片手にテケテケと走り出した。
「ハル! 走ったら転ぶぞ!」
「らいじょーぶ!」
素っ裸でプリプリのお尻で走るハル。
湯舟の際まできてそうっと湯舟に手を入れてみる。
「りひと、ちょうろいいじょ」
「おう、先に洗うぞ」
リヒトに頭からザパンと湯をかけられるハル。
もう慣れているのか、しっかりと小さな両手で顔を覆っている。
「プハッ、りひと頭洗って、頭」
「なんだ、頭気持ち悪かったのか?」
「うん、らって昨日もその前も洗えなかった」
「ああ、忘れてた。ハル、クリーンて魔法があんだよ」
そう話しながら、シャボンを泡立ててハルの頭を洗うリヒト。
「くりーん?」
「ああ、かけてやったら良かったな。忘れてたわ。ハハハ」
だから、それはなんだ? と意味の分からないハル。
「1度流すぞ。もう1回洗うからな」
「うん」
ハルはギュッと目をつむり、両手で顔を覆う。
「あれだ、クリーンてのは魔力さえあれば誰にでも簡単に使える魔法だ。身体も服も全部綺麗になるんだ」
なんだと……もしかして、道中皆が平気なのはその魔法を使っていたからか?
「マジ? しんじりゃんねー」
「あ? なんでだよ」
ガシガシとハルの頭を洗うリヒト。
「らっておりぇそんなのしりゃなかった。超じゅりー」
「いや、ズルくはないだろ。忘れてたんだって。それほどポピュラーで誰もが使えるんだよ」
「おりぇ、ちゅかえねー」
「すぐに使えるようになるさ。流すぞ」
リヒトはまたハルの頭からザパンとお湯をかける。
「ぷはッ、りひともっとかけて」
「おう」
また、ザパンザパンとお湯をかけると、今度はハルの身体を洗いだす。
「あぁ~超気持ちいい」
「アハハハ! そうかそうか!」
「ん。いきかえりゅ」
「大袈裟だな」
リヒト達はクリーンしていたのだからいいよな……
て、目でみるハル。
「いや、ワザとじゃねーんだって。悪かったって」
「1番にくりーんおぼえなきゃな」
「アハハハ。ほら、ハルお湯かけるぞ」
「ん」
上を向くハル。もう本当に慣れたもんだ。リヒトがハルの首から湯をかけていく。
あれ? そう言えば……ベースでミーレに身体を隅々まで拭かれた事があったぞ。クリーンがあるなら、あれは必要なかったんじゃないか? ハルは気付いていない様だが。
「顔洗っとけ」
「ん。洗ったりゃりひとの背中流しゅじょ」
「おう」
リヒトが自分の頭と身体をガシガシと洗っている。その髪は、そんなにガシガシと洗っても平気なのか? せっかくの細かい編み込みは大丈夫なのか?
ハルは小さな手でシャボンを泡立てて、おでこから洗い出した。何故におでこから? 最後に目をギュッと瞑って顔全体を洗う。そして、バシャバシャと泡を洗い流す。
「りひと、せなか」
「おう」
リヒトの背中をキュッキュッと小さな両手でタオルを持って洗うハル。
身体全部でリヒトの広い背中を洗う。お尻もプリプリだ。
「父様も入れてくれ」
そう言いながらリヒトの父と兄も入ってきた。
「父上、兄上まで……」
呆れ気味のリヒト。
「なんだ、リヒト。お前ハルに背中を洗ってもらっているのか、ズルイな」
「ハル、兄様も洗ってくれるか?」
「おう!」
「そうか! ハルありがとうな」
「りひと、終わりら」
「おー……」
リヒトはマジで呆れている。
「ハル、次は兄様だぞ」
「おう!」
ハルはまたリヒトの兄の背中をキュッキュッと小さな両手でタオルを持って洗う。
「おー、ハルは上手だな」
「エヘヘヘ。毎日べーしゅれりひとの背中あらってんら」
「毎日か!?」
「うん! おりぇも洗ってもりゃうし。ありゃいっこら」
くうぅ~! 可愛いぃー!! と、いう顔の兄と父。
「ハル、父様も背中を洗ってくれるか?」
「ん! もちりょんら!」
そう言って次はリヒトの父の背中をキュッキュッと小さな両手で洗う。
「ふぅ、とうしゃまの背中はおっきいな」
「そうか、大きいか」
「ん! じーちゃんみたいら」
「ハルには祖父様がいたのか?」
「何年も前に死んじゃったけろ。大好きらった」
「そうか、さみしいな」
「ううん、今はりひともりゅしかもみーりぇもいりゅかりゃ寂しくないんら。毎日たのしい」
「そうか。楽しいか」
「うん!」
「ハルは良い子だな」
「おし、とうしゃまおわり」
「おお、ありがとう」
ん? ハルの言った事が少し変な事に気付いてないか? ハルはまだ3歳になっていない。なのに、何年も前に亡くなった祖父の背中をどうやって洗うんだ? ハルが言ってるのは、前世の祖父の話だ。
リヒトとハル、リヒトの父と兄とで並んで湯舟に入る。
「ハル、こっちこい」
「ん」
ハルは素直にリヒトの傍に行く。リヒトはハルを抱っこして膝にのせる。
ハルはまだ小さいからリヒトの膝の上で丁度いい深さだ。
「また、リヒト。1人ズルイことをして」
「だから兄上、意味が分かりません」
「ハル、兄様の膝に来ないか?」
「ん? いい」
あらら……兄様ふられちゃった。




