205ー討伐依頼
「長老、出発はいつだ?」
「アヴィーが明日にならんと身体が空かんのだ。だから、明日の朝にワシがアヴィーを連れてこっちに来る」
「じーちゃん、またろっか行くのか?」
「ハルもだぞ」
長老は再度、ツヴェルカーン王国に出たデスマンモールの話をする。
「今回、アヴィーは回復要員で連れて行く。ミーレはアヴィーの補佐をしてくれるか?」
「分かりました」
「れしゅ……れしゅみゃんみょ、も?」
「アハハハ! ハル、デスマンモールだ。でっかいモグラだ」
「もぐりゃ、多いな。前にでっかいみみじゅをやっちゅけた時も、もぐりゃがれた」
「あれよりずっとデカイな」
「しょうなのか?」
「ああ。身体もデカイが爪もデカイ。引っ掻き攻撃をくらったらヤバイぞ。突進して攻撃もしてくるし、尻尾が長くて硬い。おまけに背中から尾にかけて硬い背びれがあるんだ。仕留めるには、頭をブチ抜くか首を落とすしかない」
「ひょぇ〜」
「そいつが10頭近くだ」
「数出るとヒューマンの冒険者やドワーフに討伐は難しいな。退けただけでも、よくやったと言えるんじゃないか?」
「りひと、しょんなにか?」
「ああ。だが、俺の敵ではないな。ハッハッハ!」
リヒトはエルフの中でも最強の5戦士の1人だからな。
「退けたのも、ロマーティとシオーレらしい」
「ああ、あの2人なら出来るだろう。てか、少し位は討伐しておけよ」
「無理を言うもんじゃない。あの2人は文官なんだ。戦闘に秀でている訳じゃないからな。退けただけでも上出来だ。直ぐに王と交渉して救援要請を出してきた」
「それが賢明だよ」
「じゃあ明日の朝、迎えに来る」
「おう、了解した」
「じーちゃん、帰りゅのか?」
「ああ、ハル。じーちゃんはまだ城でやる事があるんだ。明日また迎えに来るぞ」
「分かっちゃ」
忙しなく長老は転移で戻って行った。
「りりぇいしゃんとりひとらと、ろっちが歳上なんら?」
「リレイの方が少しだけ上だな。20歳程だったかな」
「20……」
めっちゃ歳上じゃん。と、きっとハルは思っている。だってハルの前世は20歳だ。
「大して変わんねーのにな、リレイは兄貴風吹かせたがるんだよ」
「じゅうぶん、あにきじゃん」
「たった20歳なんて同級生と一緒だよ」
「お、おう……」
長命種であるエルフの感覚には慣れない。
翌朝、長老がアヴィー先生と一緒にベースまで転移して来た。
「じーちゃん、ばーちゃん」
ハルが駆け寄る。
「ハルちゃん、なかなか会えなくて寂しかったわ!」
「ばーちゃん、いしょがしいんらな。しゃーねー」
「ハルちゃん!」
アヴィー先生がハルを抱き寄せる。
「皆、準備はいいかな? ツヴェルカーン王国の入り口手前まで転移するぞ」
「ああ、長老。行こう!」
入り口手前まで転移するんだ。馬が必要か? とも思うが、皆馬に乗って転移だ。
いつも通り、ハルはリヒトの馬に、カエデはイオスの馬に乗っている。
長老が杖を出し、皆が入る様に杖で半円を描くと……次の瞬間には目の前にツヴェルカーン王国の防御壁が見える。
「マジ、長老の転移は身体に優しいわ」
「カエデ、また言ってんのか?」
「イオス兄さんもそう思うやろ?」
「まあなー」
そんな呑気な話をしながら、一行はパッカパッカと入り口を目指して進む。
「ハル、無限収納の使い方は覚えたか?」
「じーちゃん、かんぺきら」
「デスマンモールだが、持って帰ると親方が喜ぶぞ」
「長老、親方ってあのエルダードワーフの親方か?」
リヒトが聞いている。もしかして名前を覚えていないのか? リヒトも剣をメンテナンスしてもらっただろうに。
「ヴェルカー親方ら」
「おう。ハル、よく覚えてんな」
「まーなー」
当然だとでも言いた気だ。
「アハハ、その親方だ」
「じーちゃん何れら?」
「デスマンモールの背ビレが硬いのは言っただろう。あれが良い盾になるんだ。皮は防具に良い。珍しいから、喜ばれるぞ」
「じゃあ、持って帰りょう!」
「ハル、だから無限収納だ」
「じーちゃん、分かっちゃ!」
ハルちゃん、ちょっぴり張り切り気味。
入り口に一行が到着すると、衛兵が駆けて来た。
「失礼致します! エルヒューレ皇国の方々でしょうか!?」
「そうだ」
「態々ご足労頂きありがとうございます! 話は聞いております! どうぞお入り下さい!」
衛兵に先導され、入り口に並んでいる人達をとばして中に入る。
「入り口で規制しとらんのか?」
「入り口からはかなり離れておりますので」
「それにしても、何が起こるか分からんのに」
「一応、入り口で入る者に説明はしております。危険だと言う話もです」
「こりゃぁ、早々に討伐せんと危ないな」
「相手はでかいモグラだぞ。どこから出てくるか分からんのに」
「まったくだ」
「は、その……申し訳ありません」
衛兵に謝ってもらっても仕方ない。そのまま、城まで案内される。
城からはまた別の者に案内され、部屋に通された。
「こちらで少しお待ち下さい」
そう言われて、仕方なく一行は待つ。
「どうも緊急事態て感じじゃないな?」
「そうですね。街の中もいつも通り、て雰囲気でしたし」
「避難もしていなかったしな」
「鉱山まで距離があるからだろう」
「しかし、あいつらモグラだぞ。地中を掘ってどこにでも出てくるぞ」
――コンコン
「長老、申し訳ありません」
ロマーティとシオーレがやってきた。
「構わん。ロマーティ、どうなっておる?」
「はい、こう着状態なのです。昨日、リレイ様が来て下さって、取り敢えず威圧を飛ばされたのです。それから静かになりまして。しかし、まだ逃げてはいないらしく」
「そうか」
「とにかく、1度拝謁を。現状の詳細もご説明致します」
「ああ。リヒト」
「はい」
「ハル、待ってなさい。イオス、頼んだ」
「はい、長老」
長老達はドワーフ王に拝謁する為に部屋を出て行った。