20ーエルフの国へ 4
大森林の中を歩いているリヒトとルシカ。
「リヒト様、あのハルの戦い方をどう思われますか?」
「あ? ああ、ハルは自分で魔法は使った事がないと言っていた。だから無意識なんだろう」
「やはりそう思われますか」
「ハルもだが、コハルにも驚いたよ」
「ええ、本当に。2人共、全身を強化していましたね」
「ルシカ、それだけじゃない。コハルは蹴る瞬間に重力魔法を使っていた」
「重力魔法ですか!?」
「蹴りが入る瞬間に重力で重さを加えているんだ。身体強化に重力魔法の重ねがけだ。だからあんな小さなコハルの蹴りでも大型の魔物が頭を揺さぶられるんだろう」
「さすが聖獣と言いますか……」
「まだ子リスだがな」
「末恐ろしい……」
と、話しながらルシカは薬草らしき植物を採取している。
大森林の奥からチラホラと魔物が出てくるが、難なくリヒトが一太刀で倒して行く。
ハルがお昼寝から目を覚ますと、ユニコーンに乗って飛んでいた。リヒトにしっかりと抱えられている。
「お……起きたか?」
「りひと……ごめん、めちゃ寝てた」
「ハルは寝るのも仕事だ。謝るな」
「ん……ありがちょ。ふわぁ〜……」
大きな欠伸だ。
「ハルのマジックバッグに果実水が入ってるぞ」
「うん」
ハルが腰のベルトにつけている小さなポーチがマジックバッグだ。出発前にルシカから渡された物だ。
ルシカが色々入れてくれている。そこから果実水を出して飲む。
魔導具ももらった。ハルはミーレに前髪を編み込んでもらっているが、それを留めている飾りに魔導具をつけてある。万が一リヒト達とはぐれても、ハルの位置が分かるらしい。
「じーぴーえしゅじゃん」
と、ハルは思わず言ったが、誰も意味が分からない。そりゃそうだ。この世界にはGPSなんてない。それ以前に知らない単語だと言葉が聞き取れない。
その日の夜もハルは即爆睡した。
昨日と同じ様に起きたらもうルシカが朝食を作っていた。ハルはモリモリ沢山食べた。
昼食もだ。そして今日もハルはしっかりお昼寝した。その間は、リヒトとルシカが大森林の中を歩きまわっている。
「リヒト様、ちょっと多いですね」
「オークか?」
「はい。微妙な感じですが」
「そうだな。国で何か掴んでいるかもな」
「はい」
その日、ハルが昼寝中に倒した魔物の8割がオークだった。まだ普通のザコだが、2人は少し気になるらしい。
「……くぅッちゃッ!!」
「ぅおぅッ! ビックリしたなー!」
どうやら、ハルの寝言らしい。時々おかしな寝言で起きるハル。
「あぁ? あ……おりぇ寝てた」
「ハル、お前の寝言は超変だぞ!」
「ふわぁ〜……」
大きな欠伸をして、マジックバッグから果実水を出してコクコクと飲むハル。
「ハル、もう直ぐ着くぞ」
大森林の樹々の上を行くユニコーン。
翼はないが、陽の光に照らされて神々しく白く輝いている。
「ハル、まだ眠かったら寝ていていいぞ。俺がちゃんと支えるからな」
「うん、大丈夫ら。見ていたいんら」
ハルにはこの世界がどう見えているのか? 訳の分からないうちに、神に連れてこられたハル。
ハルは見るもの何もかもが珍しいようだ。目をキラキラさせている。寝ている暇なんてねーよ。と、でも言いそうだ。しっかり昼寝をしていたが。
「ハル、見えてきたぞ。正面に一際でっかい樹が見えるだろ? あれが世界樹だ。あの周りにウルルンの泉があって、それを囲む様に俺達エルフ族の国がある」
進行方向の真正面に見えてきたとんでもなく立派で神々しい大樹。どっしりと泉の中央に根を張り、太い幹、高さは天にも届きそうだ。伸びた枝々には青々とした葉が茂っている。
あれは本当に樹か? 樹なのか?
「しぇかいじゅ……ちょーでけー」
「ああ、この世界で神が一番最初に作られたのはあの世界樹だと言われている。エルフ族だけでなく、この世界の宝だ」
そのまま、ユニコーンはエルフ族の国の上空を旋回しながら降りていく。
「普通はな、国に入るにはチェックがあるんだ。国全体を覆うように結界が張られているからな。上空にもだ。俺達は入れるパス代わりの魔道具を持っている。ユニコーンにもつけてある。だから、こうして普通に入れるんだ」
魔道具とな。ハルはピンとこないのかキョトンとしている。自分の髪につけた魔導具を触っている。
「それも魔導具だな。ハルの髪留めも居場所が分かるだけじゃないぞ。パス代わりの機能もあるんだ。でないと入れないからな。ま、そこら辺も母上に教わるといいさ」
上空から見たエルフ族の国。リヒトが言うように世界樹が中心にある国だ。
世界樹はウルルンの泉の中央にある。その世界樹のたもと、泉の中にどうやって建てたのか、城があった。淡いブルーの丸い尖った屋根が幾つもあり、童話に出てきそうな城だ。城の正面と左右の三方に橋が渡されている。
泉を囲むように、樹々の間に長閑な街並みが広がっていた。
「俺達の国『エルヒューレ皇国』だ。直接、俺の家に降りるぞ」
リヒトの家……いやいや、邸だ。さすが皇族。元日本人のハルにとっては想像もできない大きさだ。邸の前だけでなく後ろにも広い庭があり、もちろん木もある。邸の裏には樹々の間に幾つかの建物と小屋らしき建屋もある。ベースと同じ様に樹に沿って建てられている。その邸の前庭にリヒト達は降りた。
「ハル」
リヒトに手を伸ばし、降りるハル。
邸の広い玄関ポーチには人が見える。
「まぁまぁまぁ! リヒト、この子ね! なんて可愛いんでしょう!」
リヒトの母親らしき女性が最初にハルの手を取った。




