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2ーコハル

 2人は、乗ってきた角のある馬に乗り戻って行った。

 リヒトの腕にしっかりと抱きかかえられた小さな男の子。そのプクプクの手にはあの魔物を突いていた木枝がしっかりと握られている。

 どうして、あんな場所にいたのか?

 小さな男の子が一人で入って無事でいられる筈のない『ヘーネの大森林』

 しかも、あの超大型の魔物はどうして絶命していたのか?

 その超大型の魔物の側にいて、何故無傷だったのか?


「とにかく、こいつが目を覚さないと何も分からん」


 リヒトの呟き通り、今はまだなにも分からない。


「しかし、こいつの色は…… 」


 『色』とは? 何の事だろう?


 『ヘーネの大森林』は何事も無かったかの様に、まだ薄暗く静かだ。

 この出会いは、偶然なのか運命なのか。

 男の子が目を覚ますまで、少し時間が掛かる様だ。



 小さな男の子が、絵筆で描いた様な長い睫毛で飾られた瞼をゆっくりと開けたのは、あれから丸3日も経っていた。


「……めっさーちゅ!!」

 

 変な掛け声と一緒に片手をブンッとあげる。どうやら寝ぼけているらしい。どんな夢をみていたんだ?


「ぅおッ!? びっくりしたなぁ! どんな寝言だよ! やっと目が覚めたか!? 良かった! 分かるか!?」


 リヒトが男の子の顔を覗き込んだ。ずっと付いていたのだろう。意外と良い奴なのかも知れない。


「あん?」

「お前、丸3日も気がつかなかったんだぞ! もう駄目かと思ったぜ! 良かった良かった!」

「うりゅしゃい…… 」

「あぁ? 何だって?」

「おっしゃん、うりゅしゃい。声デカイんらよ」


 ベッドの中で、気怠げに文句を言う小さな男の子。


「お? おお、すまん」


 文句を言われたリヒトは、申し訳なさそうに身体を小さくしている。小さくするのは声だけで良い。


「喉かわいた」

「ああ、水飲むか?」

「ん」

「ほら、飲ませてやろうか? 大丈夫か?」


 身体を起こしてやりながら、心配そうに水を入れたコップを男の子に手渡す。


「自分れ飲めりゅし…… 」

「お、おう」


 男の子は小さな両手でコップを受け取りコクコクとコップの水を飲み干した。


「お前さあ、何であんなとこにいたんだ?」

「あ! そーら! おっしゃん、あのでっかいの食べりぇゆ?」

「あぁ? あんだって?」

「食べりぇゆかって聞いてんの!」

「あ? ああ、食えるぞ。腹減ってんのか?」

「ん。ペコペコら」

「ルシカ! 腹減ってんだって!」

「リヒト様、何ですか?」


 部屋の扉から、ルシカと呼ばれた男性が顔をだした。


「こいつ腹減ってんだって! 何か食わせてやってくれ!」

「こいちゅじゃねー」

「あ?」

「何て言いました?」


 リヒトにルシカも2人でキョトンと首を傾げている。


「だぁかぁりゃぁ、おりぇはこいちゅじゃねーっての」

「「……んん???」」


 どうやら、男の子が何を言っているのか理解できない様だ。


「おっしゃん言葉わかりゅよな?」

「ん? 分かるか、てか? 分かるぞ」

「おりぇ」


 男の子は、小さくて短い人差し指で自分を指す。


「リヒト様。もしかして『俺』と言っているのでは?」

「しょうしょう。おりぇ」

「おお、なるほど」


 リヒトも理解した様だ。


「はりゅ」

「ん? 何だって?」

「はーりゅー!」


 男の子はだんだんイライラしてきたみたいだ。


「リヒト様。自分の名前を言っているのでは? ハルですか?」

「しょー! おっしゃんの方が話わかりゅじゃん」

「ハハハ、ハル。おじさんではありませんよ。この方は、リヒト様。私は従者のルシカです。分かりますか?」

「うん。りひちょ、りゅしか」


 またまた短い指で呼びながら順に指差す。寝起きだからか? 小さいからか? カミカミだ。


「おー! 賢いな!」

「もう、おっしゃんうりゅしゃいぃ」

「あん? 何だって?」

「リヒト様、病み上がりですから。もう少し声を抑えてあげてください」

「あ、ああ。すまん」


 従者にまで注意されている。


「りゅしか、腹減った」

「お前、偉そうだな」

「おっしゃんよりまし」

「いや、俺だけ何でおっさんなんだよ。俺はリヒトだって言ったろ?」

「まあまあ、リヒト様。ハルは3日も寝てましたからね、何か消化の良いものを作ってきましょう」


 母親の様な事を言って、ルシカはいそいそと部屋を出ていった。

 俺は3日も寝てたのか……と、驚いているのだろう。ビックリ顔になったハル。


「なあ、ハル。お前何であんなとこにいたんだ?」

「え、あしょこに……あ! こはりゅは!?」

「あん?」

「ちっこいりしゅ! おりぇと一緒にいなかった?」

「何がいなかったって?」


 その時だ。ポポンッと霞の様な小さな白い煙が出て、そこから子リスが現れた。


「こはりゅー! よかった!」

「ピルルル!」


 子リスがハルに飛びついた。可愛い。仲良さげだ。


「おま、お前、それ! 聖獣か!?」

「そりぇじゃねー。こはりゅら」

「あん? あんだって?」


 まるで、何処かのおじさんの様な喋り方だ。


「こはりゅ」

「こは、コハル?」

「キュルキュル……!」


 子リスがリヒトを警戒している様だ。威嚇の鳴き声をあげている。


「こはりゅ、らいじょぶ。こいちゅは、りひちょ。今んちょこ、わりゅいやちゅじゃない」

「ピルルル」


 ハルがコハルを撫でた。


「コハルか。普通の子リスじゃないだろ。ハルの聖獣か?」


 リヒトが言う様に、子リスは見るからに普通ではない。

 全身真っ白の体毛に、背中と尻尾にだけ金色の縞があり、額には普通のリスには無い不思議な模様がある。


「せ? せいじゅう? わかりゃん」

「聖獣ってのはな、災いから守り加護をもたらすといわれてる神の使いだ。滅多に姿を現さないんだ」


「リヒト様! 目を覚ましたのですか!?」


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