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197ー目撃証言

「戻りました!」


 イオスとミーレが戻ってきた。


「どうだった?」

「長老、夜だったんで顔は無理でした」

「そりゃ仕方ない」


 ミーレが報告をする。


「カップルだったんです。ですから女性の方には私が聞いてきました。不気味だったから覚えていると言っていましたよ」

「なんだ? 不気味?」

「はい。女性から見れば、夜遅い時間なのに井戸のそばで黒マントの人が立っていたので『何やってんの?』と、思ったそうです。フードも深く被っていたそうで、それで『気持ちわるい、あいつなに?』と、思ったそうです」

「ああ、印象の問題か」

「はい、そうみたいです。顔ははっきり見ていないと言っていましたから」

「確かに、そんな夜に態々井戸を使う者もいないだろうしな」


 続いてイオスの報告だ。


「長老、そうなんですよ。ミーレが話を聞いた女性と一緒にいたのが婚約者の男なんですけど、2人で呑んでいて遅くなったそうなんです。男の方も不審に思いながら女性を送って行ったと言っていました」

「じゃあどっちも黒マントの男が井戸の近くにいたのを目撃しただけで、男がどんな奴かは分からないんだな?」

「はい。しかし、その目撃者の男性が、黒マントの男がびしょ濡れの布袋を持っていたと言っています」

「暗がりでよく分かったもんだ」

「はい。濡れて水が滴っていたそうです。それで余計に気になって声を掛けたそうなんですが、何も言わずに去って行ったそうです」

「なるほど」


 毒クラゲの騒ぎの前夜。毒クラゲが発見された井戸の近くで目撃された黒マントの男。手にはびしょ濡れの布袋を持っていた。怪しい事この上ない。


「しかし、決定打ではない」

「俺達を付け回す事自体が怪しいだろう」

「リヒト、そうとも言えない」

「どうしてだ?」

「考えてもみろ。ワシ達が来るのを反対している議員もいるんだ。そっちの手の者とも考えられる。ワシらを見張る目的だな」

「あー、そっちか」

「なんなの? ヒューマンてホント面倒ね」

「シュシュ、そう言うな」

「だってね、長老。自分達の国民の命が掛かっているのよ。それなのに反対するのもおかしいわ。自分達でどうにもならないクセに。マジ、面倒。反対する意味が分かんないわ」


 確かに、シュシュの言う通りだ。自分達で浄化できない。井戸や池の解毒もできない。なのに、エルフに頼むのは嫌だ。じゃあ、どうするんだ? 見殺しにするのか? と、言う話になる。

 だからだろう。大公が、出来ればなるべくエルフと分からない様にお願いしたい。などと、失礼な事を言ってきた。大公にしてみれば、そんなお願いをしてでも助けたいと言う事なのだろうか?


「ふむ……大公に会って帰るか?」


 長老が、少し悩みながらリヒトに聞いた。


「会ってどうするんだ?」

「不審な人物の心当たりを聞くか? エルフ族が受けなければどうするつもりだったのかを聞いてみるか?」


 どっちを聞いても仕方がない気がする。


「なんかスッキリしねーな」

「確かにな。だが、ワシらの仕事は終わった。そう言えば……4層目の離れた場所にいるのにニークは何故知っていたんだ? 薬湯を依頼されたと言っておったか?」

「長老……そうだよな?」

「折角だ。ニークに会って帰るか?」

「そうしよう」


 その日は、領主邸でお世話になり、翌朝リヒト達はニークに会う為に4層目を目指した。

 ニークがいるのは、以前のアヴィー先生の家だ。家の裏庭まで長老の転移で直ぐだ。


「長老! リヒト様!」

「ニーク、久しぶりだな」

「よく来て下さいました!」

「元気にしていたか? アヴィーがいなくて困る事はないか?」

「はい、なんとか1人で頑張っていますよ」

「そうか、そうか」

「ニークしゃーん!」

「ハルくん! 変わりないみたいですね……て、猫ちゃんですか?」


 ハルが抱っこしていたシュシュを見てニークが聞いた。


「しゅしゅら」

「え? シュシュってあの白い虎ですか?」

「ん、小っしゃくなってんら」

「そんな事ができるのですか!?」

「フフフ、驚かないでね」


 ハルがシュシュを下に下ろすと、シュシュがグググンと大きくなって元の大きさの虎になった。


「おお! 本当だ! 凄いですね! さすが聖獣だ!」

「そうでしょう! やだニーク、よく分かっているじゃなぁい!」

「今回は、あれですよね? クラゲの件で来られたのですよね?」

「ああ、それでニーク。聞きたい事があるんだが」

「何でしょう?」


 一行はリビングに移動し、長老が話した。毒クラゲの被害は6層目と5層目だ。4層目にいるニークが何故知る事ができたのかと。


「そんな事ですか。アヴィー先生にも伝えましたが、俺は浄化の薬湯を作れるか聞かれたのですよ」

「ニーク、作れるんだろう?」

「はい、アヴィー先生に教わっていましたから。でも、俺以外の薬師は作れないんですよ。そんな事、知りませんでした。俺は普通にアヴィー先生に教わって作ってましたから。でも、薬草が足らないと言う話をしたのです。その時に聞きました。俺は一度見てますから、あの毒クラゲの解毒と浄化を我々ヒューマン族だけで対処しようなんて無理ですと進言したんです。周りも汚染されるでしょう? ヒューマンの力ではどうにもできない。アヴィー先生の旦那さんであるエルフの長老に頼むべきだと言ったんです」

「そうだったのか。それでワシのところに話がきたんだな」

「しかし、こんなに早く……あ、あれですか? 長老の転移で?」


 その通り。さすがニークはよく分かっている。それにしても、ニークがヒューマンでは無理だと、エルフの長老に依頼すべきだと進言しなかったら一体どうするつもりだったのだろう? 


「じーちゃん、今日はここにお泊まりらな」


 ハルさん、もう寛いでますね。


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