195ー不審者
「イオス、頼んだ」
「はい。ルシカ、頼んだ」
「分かりましたよ」
「え? イオス兄さん?」
「カエデは私達と一緒にいなさい」
「ミーレ姉さん、分かった」
イオスが離れた。どうしたのだろうか?
「ルシカ、戻っても平気か?」
「はい、リヒト様」
一行は普通に領主邸へと戻って行った。
「ありぇぇ? しゅしゅがいねー」
「ハル、大丈夫ですよ。イオスと一緒にいますから」
「りゅしか、しょうなのか?」
「ハル、大丈夫よ。昼食を頂きましょう」
「分かっちゃ、みーりぇ」
ハルさん一応大人しく昼食を食べました。でも、お昼寝の時間になってもシュシュが戻って来ない。
「みーりぇ、しゅしゅはぁ?」
「まだね」
「おりぇ、もうお昼寝しゅりゅじょ」
「ええ。起きたらきっと戻っているわよ」
「しょうか?」
「ええ、心配しなくても大丈夫よ。シュシュだもの」
「けろな、しゅしゅは最初毒にやりゃりぇてちゃりゃりょ? しゅしゅもな、駄目な時あんらよ」
ハルちゃん、もう眠いのだろう。カミカミだ。オマケに何を言いたいのか分からない。
「ハル、大丈夫。信用しなさい」
「わかっちゃ」
「ほら、ハル。お昼寝しましょう」
「ん、みーりぇ」
トコトコとミーレに近付き抱っこしてもらう。すると直ぐにスヤスヤと寝息を立て出した。
「うッ! なんて可愛い!」
これは誰のセリフだ? 控えていたメイドの声だった。ここでもハルの可愛さにやられてしまった者が出た。
しかし、ハルがお昼寝から目覚めてもシュシュとイオスは戻って来ていなかった。
「おかしい! しゅしゅが帰ってこない!」
「ハル、イオスもいるんだ。大丈夫だよ」
「りひと、れもしゅしゅは本当の大きさじゃないんら。絶対不利なんら!」
「ハルはシュシュの加護を受けているだろう。もしシュシュに何かあったら分かるはずだ」
「れも、じーちゃん!」
「試しに念話をしてみるといい」
その手があった! 早速、念話を試すハル。
『しゅしゅ、ろこにいるんら? しゅしゅ!』
何も返事がない。
「じーちゃん、通じねー」
「駄目か。コハル」
「はいなのれす」
コハルがポンと出てきた。
「シュシュの事を探れるか?」
「やってみるなのれす」
コハルが集中して何かしている。
「シュシュとイオスは少し遠くにいるなのれす」
「この層にはいないのか?」
「はいなのれす。転移したなのれす」
「無事か?」
「ん〜……さっき少し戦っていたなのれす。今は休んでいるなのれす」
「戦っていただと?」
「はいなのれす。尾行していた者となのれす」
「じゃあその者はシュシュやイオスより強いのか?」
「違うなのれす。逃げたなのれす。イオスとシュシュには敵わないなのれす」
「そうか。良かった。無事なんだな?」
「無理にちょこちょこ転移を繰り返したから今は休んでいるだけなのれす」
「ハル、無事だ」
「じーちゃん、何らしょいちゅは? 6層目からじゅっとちゅけていた奴か?」
「ハルも分かっていたか?」
「分かりゅじょ。ダダ漏りぇら」
「何がだ?」
「敵意がら」
「なるほど」
「あ、動いたなのれす」
「シュシュが回復したか?」
「イオスの瞬間移動なのれす」
「そうか」
瞬間移動しているのなら、そう時間は掛からず戻って来るだろう。
「ハル、おやつ食べますか?」
「りゅしか、いりゃねー」
「ハル……」
ハルが部屋の中をウロウロしている。あっちへトコトコ、こっちへトコトコと行ったり来たりしている。心配なのだろう。
「ハルちゃん大丈夫や。イオス兄さんが一緒やから」
「ん、かえれ」
それでもハルは止まらない。
普段おっとりしているハルが、こんなに心配するとは思いもしなかった。
そして、夕食前になってやっと2人は戻ってきた。
「しゅしゅ! いおしゅ!」
ハルが抱き付いた。
「ハルちゃん心配かけちゃった? ごめんなさいね」
「ハル、大丈夫だ」
「らって……!」
「あたし小さくなったままだったから、力を思い切り使えなかったのよ。ごめんなさいね」
「心配したじょ!」
「で、イオス。どうだった?」
「はい、リヒト様。フードを被っていたので何者なのかは分からなかったのですが、向こうも転移か瞬間移動を使えます」
「なんだと……じゃあエルフか?」
「いいえ、エルフじゃないわ」
「シュシュ、どうしてだ?」
「一瞬なんだけど……耳が見えたのよ。エルフじゃなかったわ」
「じゃあ、一体……?」
「ねえ、万が一よ。万が一、ハイヒューマンの生き残りがいたとしたらどうかしら?」
「シュシュ、それはない」
「そう? でも、そんな魔法を使えるのはエルフ以外だとハイヒューマン位しか思いつかないわ」
「約2000年前、ハイヒューマンがヒューマン族に殲滅された時に探したんだ。生き残りがいないかどうかな。当時、動けるエルフを総動員して大陸中を探したんだ」
「長老、そこまでしたのはどうしてなんだ?」
「もしも、生き残っている者がいたなら、我々で保護しようと思ったからだ。エルフはハイヒューマン族とも交流があったんだ」
「そうだったのか」
「ああ。だから、かなりしつこく探した。徹底的にな。何としても保護しようとしてだ」
「じゃあ、どうしてそこまでになる前に止められなかったの?」
「止められた筈だったんだ。何度も何度もヒューマン族を説得した。そして、残りわずかなハイヒューマン族を、エルフ族が大森林の奥深くにあるエルヒューレで保護する方向で話がついた筈だったんだ。それを、ヒューマン族は裏切った。突然、ハイヒューマン族の殲滅に動いたんだ。エルフが保護する直前にな」
「なんて事……」
「だからワシの年代のエルフにとってはヒューマン族というのは信用できない種族として見られている」
「当然よね。オマケに同族でしょう?」
「そうだ。元は同族だ。だが、同族とは思えない位に力の差があった。それをヒューマン族は脅威と見做した。そんな事よりイオス。そいつはやはり犯人だと思うか?」
「長老、それは分かりかねます。しかし、転移は出来なくても瞬間移動はできます。それは確実です。こっちはシュシュが細かく転移して追跡していたのですから。それが出来るのなら、浄化や解毒が出来ても不思議じゃないでしょう?」
「そりゃ、そうだな」
「ですから、もしもクラゲを持ってきて毒に侵されたとしても自力で回復できる筈です。それに、6層目からずっと我々をつけていました。我々は転移してますから、ヒューマンには無理でしょう」
そうだ。一体、目的は何なんだ? 何の為にリヒト達をつけていたのか? まだ全く分からない。