193ー6層目
「遠路ようこそお越しくださいました! 心より感謝申し上げます!」
領主が直々に出迎えてきた。
「こんなに早く来て頂けるとは! 有難うございます!」
「ああ、私はエルヒューレ皇国の長老でラスター・エタンルフレと言います」
「私は皇族でベースの管理者をしておりますリヒト・シュテラリールです。この子は長老の曽孫でハル・エタンルフレ。従者のルシカ、同じくイオス、侍女のミーレとカエデです」
大雑把だが、リヒトが全員を紹介した。
「長老様と皇族の方が直々に来て下さるとは! 申し訳ない事です。どうか、私どもをお助け下さい!」
「被害にあわれた方々はどちらに? 集めて下さっていますか?」
「はい! 言われた通りに私共の邸に集めております」
「では、早速ですがそこに案内して下さい」
「畏まりました! こちらです」
領主に付いて邸の中を移動する。ハルは長老と手を繋ぎトコトコとついて行く。
「ハル、もう眠いか?」
「まら、らいじょぶら」
「そうか、眠くなったらすぐにじーちゃんに言うんだぞ」
「ん」
ハルちゃん、お昼を食べたら眠くなっちゃうからね。今日は初めての場所に来ているから気持ちも違うのだろう。
領主に案内されたのは、邸の広間だった。本来なら夜会でも開く様な場所だ。そこに、ズラリとベッドを並べて毒に侵された民達を集めていた。
これは、この領主。印象を良くしようと計算か? それとも、素直に好感を持っても良いのだろうか?
「次から次へとアッと言う間に増えたのです。個人の家に居るよりはと、まとめて私の邸で面倒を見ていたのです。部屋を別にするよりこの方が看護しやすいのです」
「ほう」
これは、素直に好感だな。
「長老、じゃあ……」
「ああ。ハル、どうする?」
「ん、じーちゃん。おりぇやりゅじょ」
「よし。リヒト」
「ああ。ハル、いいか?」
「いいじょ」
リヒトとハルで解毒と浄化をするらしい。
「アンチドーテ」
「あんちどーて」
「ピュリフィケーション」
「ぴゅりふぃけーしょん」
リヒトとハルが詠唱すると、部屋中に白い光のヴェールが降りてきた。
「りひと、えりあひーりゅら」
「よし、エリアヒール」
白いキラキラした光が横になっているすべての人達にふり注ぐ。
「これで大丈夫だな」
長老の目がゴールドに光っていた。神眼で確認していたのだろう。
リヒト達がした一連の事を直ぐそばで見ていた領主達は……
「な、なんと……! 神々しい……!」
殆どの人が魔法を使えないヒューマンにとっては未知の出来事だっただろう。しかも、曽孫と紹介されたちびっ子がリヒトと一緒に魔法を使っている。リヒトに指示までしている。
「りゅしか、ポーションありゅ?」
「たくさん持ってきていますよ」
「しゃしゅが! しょれ、あげといてほしい」
「はい、分かりましたよ」
ルシカが近くにいた領主の従者らしき人物に説明をしながらポーションを手渡している。従者は……
「え、え? 今どこから出されました? え?」
ルシカが小さなマジックバッグから、幾つもポーションを出すのを見てちょっとテンパっている。
「私がお預かり致します。責任を持って皆に配りますので」
そばで控えていた侍女の方がしっかりしている。大丈夫か? 従者は侍女に肘で突かれている。頑張れ。
「じーちゃん、ねむねむら」
「そうか。すまない、部屋を一部屋頼めるか? 孫がお昼寝なんだ」
「ご用意しております。どうぞこちらへ」
先程の侍女だ。やはり、しっかりしている。
「すまんな、まだちびっ子だからな」
「ありがちょ」
「な、なんて可愛い……! ウッ!」
どうした!? 『ウッ!』て何だ? ハルの可愛さに、やられちまったか!?
「長老、俺達は現場に行ってくる」
「リヒト、待て。浄化がリヒトだけだと、汚染された規模によっては心許ない。コハル、念の為ついてってくれんか?」
「はいなのれす。行くなのれす」
コハルがポンッと出てきてリヒトの肩に乗った。
「え、え!? どこから!?」
またさっきの従者だ。テンパりまくりだ。シュシュがミーレの腕の中からピョンと飛びおりて、長老の肩に乗った。シュシュもハルとお昼寝するらしい。
「現場に案内してもらえるか?」
「は、はい! こちらです!」
さっきの従者、ちょっと持ち直したか? 頑張れ! いちいち驚いていたらキリがないぞ。
リヒト達が解毒と浄化を終えて領主邸に戻ってきたのは、ハルがお昼寝から起きた頃だった。
「りゅしか、おやちゅら」
「ハル、今日は作ってきたパウンドケーキでも構いませんか?」
「おー、なんれもいいじょ。りゅしかのおやちゅはなんれもうまい!」
「ハル、ありがとう」
「お茶をもらってきますね。カエデ」
「はいな、ミーレ姉さん」
皆がハルの寝ていた部屋に集まっている。
「リヒト、どうだった?」
「近くに小さな池があるんだ。水源にはなっていないからまだこの程度で済んだんだな。周辺に生えているヨシを刈っていたらしい。それで毒にやられたんだ」
「その池にクラゲがいたのか?」
「ああ、らしい」
「らしいとは?」
リヒトが街の人や従者に聞いた話では、領主がすぐに調査しクラゲを見つけ退治したらしい。当然、クラゲを退治した者達が1番毒に侵されていたそうだ。
池には既に毒クラゲがいない事を、リヒトがしっかり鑑定眼で確認している。
「りひと、けろもし足が残ってたらまたでっかくなりゅじょ」
「ああ、鑑定眼で確認した」
それなら大丈夫だろう。しかし、問題はどうしてその池に毒クラゲがいたのかだ。
生息地ではない。まさか、自然発生する筈もない。疑問はなにも解決できていない。