190ー何でまたクラゲ?
リヒト達が戻ってきたのはハルがお昼寝から起きた頃だった。
「ルシカ兄さん、お茶入れよか?」
「カエデ、ありがとう。お願いします」
「はいな、任せて」
ルシカがお疲れ気味だ。城で何かあったのだろうか?
「カエデ、俺も頼む」
「はいな、リヒト様」
「リヒト様、ここは使用人用ですよ」
「構わないさ。今日は疲れた」
「ええ、本当に。あの国は何を考えているのか」
「本当にな」
あの国……多分、アンスティノス大公国の事だろう。
「カエデ、お茶は皆様の分を談話室に頼みます」
「え、はい。ロムスさん」
「リヒト様、談話室へ。旦那様が、皆様を集める様にと仰っています。ルシカもだ」
「分かった」
シュテラリール家執事のロムスがリヒトとルシカを呼びにきた。皆もと言う事は、カエデもか?
「カエデ、ハルくんはまだ部屋ですか?」
「はい。そろそろお昼寝から起きる頃だと思います。イオス兄さんとミーレ姉さんが付いてます」
「そうか。カエデもお茶を入れたらそのまま談話室にいなさい」
「はい、分かりました!」
何だ? 全員集合か? 何やら嫌な予感がする。城から帰ってきたリヒトとルシカがお疲れ気味なのも、城での話がなかなか進まなかったか、決まらなかったからではないのか?
とにかく、カエデは余分にお茶の用意をしてワゴンを押して談話室へ向かう。
「かえれ、おやちゅら」
「ハルちゃん」
途中で食堂へ向かうハル達と会った。
「あれ? 聞いてへん? すれ違ってしもたかな?」
「カエデ、どうした?」
「ロムスさんが呼びに来てみんな談話室に集合やって」
「そうなのか?」
「え……おやちゅ」
「ハルちゃん楽しみにしていたのにね」
「カエデ、それ私が持って行くわ。何か皆様も食べられる様なお茶請けをお願い」
「ミーレ姉さん、分かった」
ワゴンをミーレに任せ、カエデは食堂へと戻る。
「何かしら?」
「そりゃ、アンスティノス大公国の事だろう?」
「それしかないわね」
「しょうなのか?」
「それしかないだろう」
「何か嫌な感じね」
「ああ、あの国は面倒だからな」
「そうね。何を考えているのか分からないわ」
「確かに」
ハルはイオスに手を引かれ、談話室へと向かう。ミーレはお茶の用意をしてあるワゴンを押して後をついて行く。シュシュも一緒だ。
談話室には既にリヒトとルシカがいた。
「りひと、何ら?」
「ああ、今日の話だろう」
城での話か。て、事はきっとアンスティノス大公国行きが決定だろう。元々、浄化と解毒はヒューマンにはできない。
そこへリヒトの両親と兄や長老もやってきた。
「じーちゃんら」
「あら、もう決まりじゃない?」
「そうよね」
「え……浄化と解毒はいいんらけろ、おりぇあの国あんま好きくない。精霊があんまりいねーんら」
「ハルちゃん、あたしも好きじゃないわ」
「それは皆だと思うわよ」
ミーレがお茶を出していると、カエデがお茶請けのワゴンを押してやってきた。
「ミーレ姉さん。おやつに作ってたバウムを持ってきたんやけど」
「ええ、切り分けてお出ししましょう」
ミーレがカットし、カエデが其々に出す。
「あ、バウムら!」
「ハルちゃん、バウムってなぁに?」
「シュシュ、これらよ。美味いじょ」
「そうなの? ねえ、ミーレ。あたしの分は大きくしてちょうだいね。あたし一口が大きいから」
ミーレが呆れた顔をしている。
「やだわ、嫌な感じよね。だって口が大きいんだもの仕方ないじゃない」
口だけでなく身体も大きい白い虎はいつでもマイペースだ。
「さて、集まってもらったのは他でもない。アンスティノス大公国の件だ」
リヒトの父が話し出した。
なんでも、正式にアンスティノス大公国から救援要請が届いたらしい。クラゲの毒の解毒と浄化だ。
「だが、出来るだけ内密にと言う要請だ」
内密にも何も、解毒と浄化をするのに派手も内密も有ったもんではない。
「エルフが解毒と浄化をしていると知られたくないと言ってきた」
「マジ、馬鹿らしい。要請をしておいてその言い草は何なんだよ」
リヒトが怒るのも無理はない。お願いをしているのはどちらだ? と、言う話だ。
「現大公がだな、ヒューマン族の議員に手を焼いている様なんだ」
また毒クラゲの被害が出た。解毒は薬湯でも出来るだろう。しかし、ヒューマンに浄化の薬湯が作れるかと言うと、作れないらしい。
だから、エルフに依頼するしかないのだ。なのにだ。なのに、ヒューマン族の議員達は、エルヒューレ皇国に頼むなど言語道断と反対しているらしい。
馬鹿なのかな? 馬鹿なのだろうな。
「じゃあ、どうすんだ? て、話だよ」
確かにそうだ。犠牲者を放っておくのか? このまま知らん顔しているのか? それでは済まないだろう。
「最初は担当者とか言う奴が、浄化の薬湯を売ってくれと言ってきたんだ。確かにそれで人はなんとかなるだろう。しかし、汚染された水源や土地はどうなる。下手をしたら汚染が広がるぞ」
長老の言う通りだ。毒クラゲの生息地である地底湖近辺は汚染されていた。
「その話を懇々と諭したんだ。そうしたらやっと今日になって大公が出てきた。議員達はなんとかするから、どうか国民を救ってくれとな」
なるほど。長老も嫌気がさしてるな? 余程、鬱陶しかったのだろう。
「だが、出来れば議員達を刺激したくない。だから、出来るだけエルフだと分からない様にと言う事だそうだ」
なんとも馬鹿らしい。反対しているヒューマンの議員達は国民の命をどう考えているのか? 自分達に被害がなければそれでいいのか? それとも政治的な何かなのか?
コソッと投稿。出来れば1日2話投稿ペースに戻したい!新作も考えたい!やりたい事がいっぱいで時間が足らないのです。
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