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189ーハルの日常

「しかし、アンスティノス大公国か……」

「父上、何かあるのですか?」


 リヒトが父の呟きを気にして聞いた。


「いや、3ヶ国協定を締結したろう? エルヒューレ皇国とツヴェルカーン王国だけでなく、最強のドラゴシオン王国も加盟しているんだ。普通は自国もと名乗り出ても良さそうなものだろう。アンスティノス大公国がドラゴシオン王国に敵う筈がないのだから。なのに、アンスティノス大公国は静観をきめている。それがどうも気にかかる」


 確かに、相互協力及び安全保障協定。強国と協定を締結できるならする方が安全だと思うのだが。


「アヴィー先生を迎えに行った時に現在の大公とその事も話しましたが、ヒューマンの議員達の反対があると言っていましたね」

「ヒューマンか……」

「本当にヒューマンはろくな事を考えないししない」

「確かに」

「この大陸で争いが起こる時は必ずヒューマンが関係している」

「力も無いくせに何を考えているのか」

「兄上、それを言っては駄目です」


 ここでもヒューマン族はろくな事をしないと厄介者扱いだ。



「いちゅもひとーちゅ!」

「あ、ハルちゃん起きたで」

「ふゅ……よく寝たじょ」

「ハル、お水飲む?」

「らからみーりぇ、果実水がいい」

「はいはい。起きてきなさい」

「ん」


 ベッドからヨイショと下りるハル。まだ小さいから後ろ向きになって下りる。ソファーに座るとミーレが果実水を出してくれる。それを飲み一息つく。


「ハルちゃん、よく寝てたなぁ」

「ん、よく寝た。シュシュは?」

「小腹が空いたって言うて食堂に行ったで」

「おりぇも食堂に行く」

「おやつやな」

「ん、りゅしかのおやちゅら」


 邸の中をカエデやミーレと一緒に食堂へ向かっている途中でリヒトとルシカに会った。


「りゅしか、おやちゅら」

「ハル、起きましたか」

「ん」

「食堂へ行きましょう」

「ハル、お前おやつめちゃ食べるな」

「りゅしかのおやちゅはりゃいじ」


 寝起きだからいつも以上にカミカミで何を言っているのかよく分からない。でも、ハルちゃん。おやつが大事な事は伝わったよ。


「アハハハ! 意味分かんねー。ルシカ、俺も食べる」

「はい、リヒト様」


 こんな平和な時が続くといいのだが。近々、またアンスティノス大公国へ行く様だ。


「んまい! やっぱ、りゅしかのおやちゅはしゃいこー!」

「ハル、ありがとう。ほっぺに生クリームがついてますよ」

「ん」


 ルシカがハルのほっぺを拭いている。

 今日のおやつはルシカ特製のクレープでした。生クリームがたっぷりで、中にバナナやイチゴが入っていて蜂蜜をかけてある。ハルは生クリームが好きだよね。


「ハルちゃんは生クリームがあれば大抵美味しいって言うやんな」

「そうそう。ハルちゃんは生クリームが好きよね」


 カエデとシュシュに言われている。やはり皆気付いていた。


「え……しょお?」

「うん、そうやで」

「ありゃりゃ」

「自分で気がついてなかったの?」

「ん」

「だってハルちゃんは生クリームをたっぷりつけて食べるでしょう? だからいつもほっぺに生クリームがついちゃうのよ」

「あ……」

「ね、でしょう?」


 シュシュに鋭い指摘をされた。指摘しているシュシュも生クリームがついているぞ。


「シュシュ、生クリームがついてますよ」

「あら、ルシカ。ごめんなさい。ありがとう」


 ルシカに口の周りを拭かれているシュシュ。


「ハルもシュシュも同じだろ?」

「あらやだ。あたしはレディーよ」

「誰がレディーだよ!」


 リヒト、ツッコミをありがとう。

 さて、平和な時間はそう続かないみたいだ。翌日、朝からまたリヒトと兄、それに父が城に呼ばれた。アンスティノス大公国のクラゲの件だろう。


「ハルちゃん、薬湯はこれで全部作れるわね」

「かーしゃま、しょうか?」

「ええ。これで全部よ」

「ん、覚えちょく」


 朝からリヒトの母に薬湯の作り方を教わっていたハル。どうやら、薬湯作りはフルコンプしたらしい。

 ハルの歳でフルコンプなんて普通なのか? もしかして、またハルがどんどん覚えるから調子に乗って教えたか?


「長老がいれば魔法も教えられるんだけど」

「ん、しゃーねー」

「そうね。ハルちゃん、時々自分のステータスを確認しなきゃだめよ」

「かーしゃま、しょう?」

「そうよ。意識して勉強するのとそうでないのとでは全然習得するまでの時間が違うもの」

「しょっか。分かっちゃ」

「はい。今日はもうこれでお終いにしましょう」

「あい。かーしゃま、ありがちょごじゃました!」

「やだ、ハルちゃん! 可愛い!」


 はいはい。幼児の舌足らずな喋り方は確かに可愛い。


「ねえ、ハルちゃん。きっとリヒトがまたアンスティノス大公国へ行くと思うけど、今度は母様と一緒にここでお留守番しない?」

「え……おりぇ邪魔か?」

「違うわ、そうじゃないの。ハルちゃんは浄化ができるでしょう。解毒もできる。だから、邪魔とかじゃないの。でもね、ハルちゃんはまだちびっ子だから、母様は心配なの」

「ん……」

「どうかしら? 母様と一緒にお留守番しない?」

「かーしゃま、ありがちょ。れもおりぇ、行くじょ。りひとと一緒に行く。しょれに、じーちゃんが行くならおりぇも行きたいんら」

「そう……?」

「心配してくりぇて嬉しい。けろ、大丈夫ら。リヒトがいりゅ。リヒトは強い」

「そうね。ハルちゃんが行くと言うなら、仕方ないわね。でも、旅はキツくないの?」

「らいじょぶら。楽しい」

「そう、楽しいのね」

「いりょんな事があって、いりょいりょ見りぇて楽しいじょ。らから、だいじょぶら。かーしゃま」

「もう、ハルちゃん。本当に可愛い。母様、離れたくないわ」


 おや、心配もあるが離れたくない気持ちもあると。ハル、有難い事だな。


「かーしゃま、ありがちょ」


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