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187ー束の間の休日

「ハル! またそんな早く走ったら危ないでしょう!」


 ルシカが大声で叫んでいる。またハルが何かしているのだろう。


 一行は、遺跡調査を全て終えて久しぶりにリヒトの実家であるシュテラリール家で束の間の休暇を楽しんでいた。その、シュテラリール家の庭先でルシカが叫んでいる。

 見ると、ハルがシュシュの背中に乗って庭を爆走していた。コハルも一緒に乗っている。爆走と言ってもだ。馬が少しゆっくりと走る程度なのだが、ルシカにとってはいつハルがシュシュの背中から落ちてしまわないかと気が気ではない。


「シュシュ! 戻ってきなさい!」


 またルシカが叫ぶ。今度はヤバそうだぞ。本気で怒っている。


「ハルちゃん、ルシカが激オコだわ」

「ん、シュシュ。ありぇはマジらな」

「あれは駄目なのれす!」

「戻りましょう。心配かけちゃ駄目だわ」

「しゃーねー」

「それがいいなのれす」


 ハルちゃんはまだまだ走っていたそうだが、シュシュがルシカの元へと戻る。


「何度言ったら分かるのですか! 危ないでしょう!」

「あい、ごめんしゃい」

「ルシカ、ごめんなさいね。でも大丈夫よ。あたしがハルちゃんを落とす訳ないわ」

「シュシュ、そんな問題ではないのです」

「ごめんなさい」


 ルシカにはシュシュも逆らえないらしい。ハルも殊勝な態度でルシカのお小言を聞いている。ついでにコハルもだ。何も言わないで小さな身体をより小さくしている。とばっちりを食わない様に目立たなくしているみたいだ。


「りゅしかの飯を失うわけにいかねー」

「そうよね。ルシカのご飯は超美味しいものね」

「ルシカの料理は全部美味しいなのれす!」


 おやおや、1人と1頭と1匹が大人しく叱られている理由がおかしいぞ。


「そろそろお昼ですよ。食堂へ行きましょう」

「あい! りゅしか!」

「お昼ね!」

「食べるなのれす!」


 ルシカのお許しが出た様だ。3人共現金だ。コロッと態度が変わった。


「もう、仕方ありませんね」


 ルシカも分かっているのだろう。しかし、叱る者が1人位いないとな。ブレーキを掛ける者がいなくなる。それは駄目だ。ハルとシュシュだけだと暴走してしまう。


 ルシカと一緒に、シュシュの背中に乗ったハルとコハルが食堂へと移動する。

 途中で、イオスとカエデが合流した。裏庭で訓練をしていたらしい。


「かえれ、頑張りゅなぁ」

「ハルちゃん! 自分は努力の人やねん! 塵も積もれば山となるや!」

「アハハハ! カエデ、何だそれ」

「イオス兄さん、知らんの?」

「いや、知ってるけどさぁ」

「毎日コツコツと積み重ねていくからこそ、その積み重ねで成果を発揮することができるんや!」

「おお! かえれ、えりゃい!」


 そうだね。ハルちゃんはシュシュに乗って遊んでいたからね。キャハハ、アハハと楽しく遊んでいたからね。


「楽しいねん。色々覚えて自分に出来る事が増えていくのが単純に楽しいねん」

「おー! カエデ、お前ホントいい子だなぁ」

「ん、かえれ。いい子ら」

「ホントね。素直ないい子だわ」

「そんな褒めたら恥ずかしいにゃ〜ん。嬉しいにゃ〜ん。照れるにゃ〜ん」


 出た。にゃ〜ん3段活用? 3段落ち?


「アハハハ! それ、久しぶりに聞いたな」

「何なのよ、それ。にゃ〜んは絶対に3回言わなきゃいけないの? 可愛いじゃない。ズルイわ。あたしなんて、ガォーだもの、可愛くもなんともないわ。それどころか、引いちゃうわよね」

「アハハハ! シュシュ、違いねー」

「シュシュも可愛いじょ」

「ハルちゃん、ありがとう!」


 平和だ。のんびりとした時間が過ぎて行く。


 ハルがこの世界にやって来て、リヒトに保護されてから色んな事があった。

 リヒトの家族から惜しみなく与えられる無償の愛情によって、ハルが忘れていた泣く事を思い出す事ができた。泣く事ができなかったハルの心の壁が1つ無くなった。

 そして、何よりハルの曽祖父である長老と出会う事ができた。実の両親から蔑み束縛され虐げられてきたハルにとって、初めて無条件で愛情を込めて抱きしめてくれた肉親だった。そこでまたハルの心の壁が1つ無くなった。

 そうして、曽祖母であるアヴィー先生と会った。ハルを抱きしめ涙してくれた。また1つ、ハルの心の壁が無くなった。


 リヒト達や長老、アヴィー先生と知り合い旅をし、一緒の時間を過ごすうちにいつの間にかハルの心の壁は無くなっていた。

 心の壁がなくなると、素直で可愛いがしっかり者のハルが出来上がっていた。普段のテンションが低めなのは変わりないが、それがハルの本質だったのだろう。

 大人からは距離をとり警戒していたハルは自分の心を守る為の防御だったのだ。


 リヒト達と一緒に忙しなく大陸を周った。まず、ヒューマン族と獣人族の国、アンスティノス大公国。奴隷だったカエデを救った。曽祖母のアヴィー先生と一緒に孤児の子達やスラムの人達を守った。

 次にドワーフの国、ツヴェルカーン王国。エルダードワーフの親方ヴェルカーに会い初めての剣を作ってもらった。

 そして、ドラゴンの竜王が治める国、ドラゴシオン王国。ドラゴシオン王国では、おばば様と龍王達と出会った。血の繋がりはないが、彼等もハルを心から可愛がってくれた。

 ドラゴシオン王国へ入る直前にシュシュとの出会いもあった。

 大森林にある5つのベースと呼ばれるエルフの拠点も全て回った。ベースの管理者であるエルフの最強の人達と会った。

 そうして、現在大陸で確認されている全ての遺跡にある魔石を浄化した。


 思えば、短期間でよく動いたものだ。今はゆっくりとのんびりしているハル。午前中は以前シュテラリール家にいた時と同じ様に、リヒトの母であるリュミから色んな事を教わっている。大抵、長老も一緒だ。

 午後からはお昼寝の後、リヒトやルシカ、カエデにイオスやミーレ、そしてシュシュと遊んで過ごす。夕食前にシュテラリール家の露天風呂へ入る。

 シュテラリール家のリヒトの両親も兄もハルを可愛がってくれる。本当の家族の様に。そのシュテラリール家には1週間の滞在予定だ。リヒト達ものんびりと過ごしていた。


 そのリヒトが今日は朝から城に行っている。長老とアヴィー先生に呼ばれたらしい。ルシカが戻ってきているので、リヒトももう戻っているのだろう。

 また何かあったのかも知れないが、まだ何か言われた訳ではないのでハルはいつもの様に過ごしていた。


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― 新着の感想 ―
素敵な作品ばかりでひとつずつじっくり楽しませていただいております。 >ハルの曽祖父である長老と出会う事ができた。実の両親から蔑み束縛され虐げられてきたハルにとって、初めて無条件で愛情を込めて抱きしめ…
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