186ー笑話 シュシュ視点 1
あぁ…………もう駄目…………あたし死ぬのね…………短い人生、いえ虎生だったわ。
短くもないんだけど……500年生きて聖獣になって100年。もう600年も生きたわ。
でもね、こんな暗い地底湖でクラゲの毒なんかで死にたくなかったわよ。おまけにあたし、びしょ濡れなのよ。最悪よ。
やっぱさぁ、あたしって真っ白で美しいじゃない? 雪の様に真っ白な身体、風を切って走る姿を見たら幸運が訪れるなんて言われてんのよ。
だからぁ、綺麗な満開の花畑とかで愛する人……じゃなかったわ。虎に看取られながら綺麗に散る方が絶対に似合うじゃない?
なのに何なのよ! この毒クラゲ!
ああ、もう意識が朦朧としてきたわ。とうとう最後なのね……ん?
…………あら?
………………あらら?
…………………………あらあら?
あたし、身体が浮いちゃってなぁい? なぁに? どうなってんの?
あ……天に召されるのね。ほら、身体を癒す温かい光が…………
…………て、あら? あらら?
やだ、あたし助かっちゃった!? 死んでないわ! その時あたしの目の前にいたのよ。あらやだ、可愛い小さなエルフくんじゃない!
そう、瀕死のあたしを救ってくれたのが可愛い可愛いハルちゃんなのよ。
もう、天使かと思っちゃったわよ! それ位可愛いのよ! 愛くるしい小さなその姿! エメラルドの様なグリーンが入った絹糸の様な細い髪が微かな光に反射してキラキラしてんの! 正に天使なのよ! 分かる? 本当よ! 大袈裟なんかじゃなくて、本当に可愛いの!
これが、あたしとハルちゃんの運命的な出会いなの。あたしが死にかけているところに、現れたのがハルちゃんよ。そして、救ってくれたの。
ハルちゃんはもちろん超絶可愛いんだけどぉ、一緒にいるエルフさん達ね。参っちゃうわよ。エルフって本当にみんな綺麗なのね。
中でもリヒトよ。皇族とか言うだけあって、まるで物語に出てくる皇子様ね。宝石の様に光るブルーブロンドの長い髪に、これまた宝石を散りばめた様なブルーゴールドの瞳で、キラッキラのピッカピカなの。
ハルちゃんの曽祖父だって言う長老もね、イケオジって言うのかしら? 落ち着きのある渋い魅力が溢れ出ているわ。
まあ、馬鹿な話はさて置き。あたしは虎なの。白い虎の聖獣、白虎よ、白虎。虎の聖獣の中でも超珍しいの。だから、あんまりヒューマンには見つかりたくないのよ。だって、あいつらは酷いのよ。
まだ聖獣になる前なんだけど、白い虎は珍しいからってしつこく追いかけ回された事があったの。あたしって魅力が溢れ出ているのね。ホント、嫌んなっちゃうわ。
ヒューマンなんかに捕まるあたしじゃないけど。
あたしは色んな場所に行くのが好きなの。色んな物を見るの。
大自然の壮大な風景だったりぃ、湖ではしゃいで遊ぶ小さな可愛い子龍達だったりぃ、その時の気分で走るの。
風を切って走ると、とっても気持ちいいのよ。まるで自分が風そのものになった様にね。そんな生活に満足していんだけどぉ。
あたし、ハルちゃんについて行く事に決めたの。だって、あたしとハルちゃんて運命じゃない?
命を助けられたのよ。今度はあたしがハルちゃんを守るのよ。
それと、どうやらハルちゃんの保護者らしいリヒトもね。あたし位の聖獣になると、そんな事も分かっちゃうのよ。凄いでしょう?
なのに、ハルちゃんは怖いもの知らずと言うかぁ、人がいいのよ。
ドワーフの国にある遺跡での事よ。小さな身体で無理をして浄化したものだから倒れちゃったの! もう、身体中の血の気が引いたわ。ビックリしたってもんじゃないわよ。
コハル先輩が回復魔法を施してくれたから事なきを得たんだけど。あの時はアヴィー先生も倒れちゃって、長老もリヒトもフラフラだしどうなる事かと思ったわ。
あたしに浄化が出来るなら力を分けてあげたかったもの。残念ながらね、聖獣になってまだたかだか100年位じゃあ浄化は使えないのよ。浄化や聖属性魔法が使える様になるにはもう少しかかるわ。
ハルちゃんを守りたいのに、力足らずで落ち込んじゃった。でもね、あたしに出来る事を精一杯しようと思うの。コハル先輩もいるしね。
だからぁ、今日もハルちゃんと一緒にいるの。一緒にルシカの作った美味しいお料理を食べて、一緒にふかふかのベッドでお昼寝して、一緒にルシカのおやつを食べて、一緒に色んな所に行って冒険するの。
ドラゴンの国にも行ったしぃ、ヒューマンの国にも行ったしぃ、ドワーフの国にも行ったわ。
初めて大森林に入ったけど、あたしってやっぱ凄いじゃない? 珍しい白虎だからぁ、あたしが大森林の中を疾走すると大抵の魔物は寄って来ないのよ。凄いでしょう?
エルフの国にも行ったのよ。今迄行った国とは全然違っていたわ。国全体に結界が張られているから、普通は入る事ができないんですって。魔力のないヒューマンとかだと国を見つける事さえできないの。
ビックリだわよ。国全体に結界なのよ!? そんな凄い事、エルフにしかできないわ。あり得ないわよ! そんな国に入ったの。
国の中も森と調和が取れていると言うかぁ、大森林を大切にしているのがよく分かるわ。だってね、木と木の間や木の上に家があったり、木々の間を縫って道や水路があるの。言うなれば、大森林ファーストなの。
よくこんな国を作ったわよ。感心して見惚れちゃったわ。本当、エルフって凄いわ。桁外れよ。
そんな貴重な体験も、ハルちゃんと一緒にいるから出来た事なのよ。
あたしとハルちゃんは、もうマブダチ以上の関係だからぁ時々ハルちゃんを背中に乗せて走るの。ハルちゃんたら、とっても喜んでくれるの。直ぐにルシカが心配して怒っちゃうけど。
みんなハルちゃんの事が好きなのね。
カエデだって、訓練を頑張っているもの。ハルちゃんを守りたいのよ。みんな、ハルちゃんが大切なの。
ハルちゃんが行くなら何処へだってついて行くわ。あたしに行けない所なんてないもの。
ずっとずっと一緒よ。ハルちゃん。
あ……でもね、お風呂だけは遠慮しておくわ。