185ー閑話 ハル視点 1
気付いたら、デッケー熊がすぐそこにいた。
「なんなんら! あの神、ふじゃけんなよ!」
あ? なんだ? 喋りにくいぞ?
この声なんだよ……これ俺の声なのか!?
「クッショ! あのじじい! 何が楽しくら! こんなちょこに落としやがって! また死ぬちょこじゃねーか!」
「グルグルグル……キュルキュル!」
「あ! あぶにゃい!」
俺の肩に乗っていた子リスが突然飛び出し、高くジャンプしたかと思ったらデッケー熊の頭目掛けてドロップキックを決めた!
――グオォォォー!!
スゲー! あんなデカイ熊にドロップキックしたぜ! しかも、デカイ熊はもうフラフラになってるじゃん!
「グルルー!!」
「しゅげー! よぉし! おりぇも! いくじょー!!」
俺は走った! なんだ? 走り難いな。走るなんて何年ぶりだよ! ずっと身体が重くて辛くて走る力なんてなかった。走る気にもならなかったのに。
なのに、何だ? この身体は!? 疲れない! 辛くない! 自分の思う通りに身体が動くじゃん! スゲー!
タッタッタッタッと走り地面を蹴り思い切り高くジャンプし、そのままの勢いで魔物に突っ込んで行く。
「たーーー!! ちゅどーーーーん!!」
――グギャォォォーーー!!!!
――――バキバキバキ
――――ドゴーーンッ!!
俺の渾身のパンチが顔面に決まった。そして、魔物は断末魔の叫びと共に倒れた。
「ふぅー、あぶねー。おまえちゅよいな!」
「ピルル!」
小さなリスが俺の肩にのってきた。褒められて自慢気じゃん。超可愛い。
「ありぇ、なんかちっしぇーぞ? おりぇちっしゃくね?」
「ピュルー」
俺は改めて自分の体を見た。
俺の手も足も身体も……小っせーぞ!
なんなんだ!? 幼児じゃん! ちびっ子じゃん! どうなってんだ!?
「マジかよッ!」
「ピルル……」
「クッショ! あのくしょじじい! マジふじゃけんな! 何が多少ちっしゃくらよ! めちゃちっしぇーじゃん!!」
これって俺は一体何歳なんだよ!? どう見ても幼児だよな? あの神、ゴニョゴニョ言ってたのはこの事だったのか!? ごまかしやがって!
自分の小さな手を見て呆然としていると、子リスが俺に話しかけてきた。
「ピルル、ピルル」
「あ? あー、怒んなってか? 怒りゅわ! てか、なんれおりぇりしゅの言葉分かりゅんら?」
え、マジ!? なんで俺、子リスと喋ってんだ?
「ピルピルルルル」
「しょっか。おりぇといりゅんら」
「ピルル!」
「なりゃ、名前はなんてんら?」
「ピルュ……」
「ないんか? んー、なりゃコハリュら! ちっしゃいし、女の子らからな!」
「ピヨヨヨ!」
コハルの体が光った。コハルと名付けた子リスと何かが繋がった気がした。いや、意味分かんねー!
「しょれに、ここはどこらよ!?」
「ピリュリュ」
「え? らいじょぶってか? らいじょぶじゃねーじょ! 真っ暗じゃん! てか、森じゃん! どーしゅんら?」
あの、自称神のクソジジイめ! 今度あったらゼッテーにパンチ決めてやる! こんな訳分からんとこに落としてどーすんだよ!
「落ちちゅこう! ふゅ〜、慌てても仕方ねー。まわりに何かないか?」
「ピルル」
俺は目を凝らして周りを見た。月明かりに目が慣れたのかよく見える。木……木……またまた木……。
「森じゃん!? 木ばっかじゃん!」
またあんな奴出てきたらどーすんだよ! 武器になりそうな……てか、手もちっせーよ! プクプクじゃんか!
「あ……この枝いいな……うん、ちょうろいい」
俺は近くにあった木の枝を拾って振ってみる。こんな小さな身体じゃ、なんもできねーし。取り敢えず、木の枝でも持っとくか。木しかねーし。
てか、この熊食えんのか? 腹減ったな。どうやったら食えんだ?
と、思いながら取り敢えず突ついてみよう。もう起き上がったりしないよな?
「死んれりゅよな? 食えんのかな?」
「ピルル……」
「ん? 何ら? 何が来たって?」
なんだ? 子リスが言うには、俺の保護者になるだろう奴が来たらしい。なんだよ、保護者って。また理不尽に縛り付けんなら、そんなのいらねーよ。
「えッ……!?」
「はぁ……!?」
あ? なんだ? えらい、イケメンじゃん。キラッキラじゃん。外人さんか? いや、俺何言ってんだよ。
「ちょ……!! お前! 大丈夫か!? 怪我はないか!?」
「え? どうしてこんな所にいるのですか!?」
イケメンの2人が話しかけてきた。どうやら、驚いているな。そりゃそうだろう。こんな森に幼児がたった1人でいるんだから。
「あぁ?」
「あぁ? じゃねーよ! お前何してんだ!? 大丈夫なのか!」
「おっしゃん、こりぇたべりぇゆ?」
あ……ヤベ……ちょっと俺限界かも……目の前が暗くなって……きた……。
ああ、大きな月が2つも出てる……どうりで月明かりだけでも明るい筈だ……てか……マジ……異世界なんだ……。
「おい!」
そうして俺は、気を失ってポテンと倒れた。イケメンの1人が慌てて何か言ってたけど、俺の意識はもう保たなかった。
地球じゃないどこかに落とされたんだろう。たしか、あのクソジジイがそんな事を言ってた。
祖父ちゃんと祖母ちゃんが頼んでくれたって言ってた。なんでもいいさ。あの家から出られるなら。異世界だろうと、どこだろうと。
だけどなぁ、身体がこんなに小さくなるとは思わなかった。マジ、あのクソジジイ。やってくれるわ。
でも……走れた。俺、走ったんだよ。信じらんねー。ジャンプしてあのデカイ熊にパンチしたんだ! スゲくない? スゲーよな!
歩くのも辛かったのに……そう思うとこの小さな身体も悪くないかも?
俺は……生き直すのか? どうなるんだ? まだ幼児だぞ?
いかん、腹減ったし疲れたし。ちょっと寝よう。起きたら……そうだな。助けに来てくれたあのイケメンにありがとう言わなきゃな……。
それから俺は丸3日も寝ていたらしい。心配してくれているんだとは思う。それは分かるさ。悪い奴じゃあ、ないらしい。
けど、大人は信用できねーからな。大人の都合や感情を押しつけて、束縛されんのはもう嫌だ。
てか、喋ってんのに分かってもらえねーじゃん! だから、小さくしすぎなんだよ! あのクソジジイ、ミスったんじゃねーだろな!
うるさい奴が、リヒト。もう1人オカンみたいな事言う方が、ルシカ。このイケメン2人、いい奴等だったらいいのにな。今んとこ、悪い奴じゃねーと思うんだ。飯くれたし。
俺、小っせーけどよろしくな。
読んで頂きありがとうございます!
お話が一段落したので、少し閑話をどうぞ〜!